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第1214話


 名を失った母は語る。

 冒頭は、お告げにより犯罪者の残党が集められた日に遡る。



 ハルバードの母曰く、白紙化以降は身体能力の弱体化を理由に、義賊としての活動を一時止めていたらしい。


 しかし、弱いままではどうにもならないため、有事に備えた訓練も兼ねて冒険者としてモンスター討伐を行なっていたとのことだ。



 ただし、この山北サンマウロック山のモンスターにはまるで歯が立たないので、ロープウェイで山を降り、比較的弱いモンスターの出現する東サンマウロック山まで向かう必要はあったが。

 どうやら、始まりの街以外の街にも、訓練のとっかかりとなるスポット………弱いモンスターの出現場所は用意されていたらしい。

 管理者としては、やはりNPC妖精達を減らす訳にはいかなかったというわけなのだろう。




 話を戻すが、そうやって過ごしていくうち、母も父も着実に力をつけていった。


 だが、そう過ごしていくにつれ、義賊へ戻る気は次第に失せていった。


 理由は単純だ。


 今のフェアリアでは、そうそう犯罪が横行することはないから、そしてお告げによって以前のように動くことが出来なくなったからだ。






 しかし、それについて両親は特にこれと言って不満はなかった。


 義賊なんて、やらずに済むならそれでいい。


 だから、今後は冒険者として過ごそう。





 そう思っていた。

 そして、今もそう思っている。


 これについては過去形ではない。

 ただ、冒険者すらできないと言う現状があるだけ。





 そうなったのが、その日の………お告げを下された日のことだった。





 その日は、ハルバードの実家で、犯罪者孤児の子供や近年入り浸っているルージュリアと共に何気ない日々を送っていた。

 代わり映えしない日々。

 いや、かつてと比べるとずっと変わった、望んでいた平和な日々。


 視界に映るその景色の前に、突然青い画面が映り込んだ。



 それは、このフェアリアでの唯一の悩みの種。

 犯罪や権力者による圧政もずと小さくなったこの国に残った、唯一の不安要素たるお告げだ。



 その内容は単純。

 これから屋敷に来いというそれだけの命令だった。



 それだけなら驚きはしなかった。

 しかし、付け加えられた文章——————逃げ切れた犯罪者諸君という文言に、ハルバードの父も母も、戦慄を覚えた。










——————————————————————————————














 ——————組織に加われ。





 集められた元犯罪者達に対し、領主はそう呼びかけた。

 呼びかけ。

 そう、これは命令ではない。


 つまり、それ以外の選択肢はあった。



 しかし、ここにいるのは、政府や役人の目から完全に逃れていた犯罪者。

 合法的に犯罪を行える組織への勧誘を蹴るはずもなく、なだれ込むように組織へと加入していった。




 ………残っていた元義賊達を除いて。




 彼らは断った。

 しかし、名は奪われなかった。


 これに関しては、お告げが下されたわけではないからだ。

 要するに、組織への加入を断ることは可能だった。



 しかし、だからはいさようならと解放するほど、領主は甘くはなかった。

 お告げがないのは、組織内での裏切りがないように、善意に絆されないように、自ら悪を成す意思のある者を選ぶためだと、母は語った。


 だが、そうではない者はいう事を聞かせるほかない。



 そう、お告げだ。

 ここで彼らは、お告げによって縛られた。




 彼らは、領主の奴隷となったのだ。














——————————————————————————————













 「奴隷………確かに、それじゃあ何年も会えなくなって当然なのです………」




 エルは静かに憤っていた。


 しかし、特に驚いた様子はない。

 奴隷であることは、今の彼女の容貌を見れば、察しがつくというもの。


 だが、




 「………でも、それにしては、ハルお兄ちゃんのお母さんは、傷みたいなのはなさそうなのです」




 服装や髪はボロボロだが、汚れがあるだけで傷はまるでない。

 この状態で言うのも些かおかしいが、奴隷にしては妙に小綺麗だった。



 「ああ、それは………あの日奴隷になった中で、弱かった数人は最後まで奴隷として働かさせることはなかったの」


 「え? 何もなのです?」


 「ええ、驚くほどに何も。食事は普通に与えられて、なんだったら訓練まで受けさせられたわ」




 妙な話だった。

 今ここにいる誰も、目的が見えていない。


 それは、エルを通して聞いているケンも同じことだった。



 だから、ケンはエルを介して一つ質問をした。





 「お姉さん、ご主人様から質問があるみたいなのです」


 「ええ、どうぞ」




 ニコリと微笑みながら、ハルバードの母は快諾した。

 しかし、次の質問を聞いた瞬間、その笑顔が固まった。




 「ええと………強かった奴隷の人たちはどこへ行ったのです?」


 「っ」




 申し訳なさそうに視線を落とすハルバードの母。

 すると、見えないケンに対して頭を下げて、こう答えた。




 「………そのことね………それに関してはごめんなさい。私にもわからないの」


 「わからない?」


 「いえ、全てがわからないわけではないわ。彼らも訓練を受けていたみたい。けれど、いつ頃だったかしら………4、5ヶ月ほど前から、突然姿を消してしまったの」





 4、5ヶ月前。


 そこで何かがあったのだろう。

 しかし、領主に関する情報をまだ殆ど持たないケンには、それがなんなのかは見当もつかなかった。


 しかし、消えるという表現には、エル共々引っかかっていた。



 そう、ケン達の中で、その強い元犯罪者が、白紙化と同時に消えた犯罪者たちと重なっているのだ。

 何かしらの繋がりがある可能性は、ないわけではない。


 が、これ以上の情報は見込めそうもないので、ハルバードの母の続きを語るように促した。












——————————————————————————————













 続きといっても、既に話は終わりぎわまで来ていた。



 奴隷になった彼女たちは、本人の言う通り、訓練や戦闘を行うだけで、奴隷らしい労働や奉仕はさせられなかったらしい。



 そして、先ほど述べた元犯罪者が消えて数日が経ったある日、彼女たちが幽閉されていたコロシアムに、数名の奴隷が追加された。




 ハルバードの母の中では、かなり印象に残っている様子だ。

 それもそも筈。



 ハルバードの母は、その時初めて、部屋の向こうで休んでいるあの男奴隷………ツァリオと出会ったのだ。

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