第1208話
結局、ドームが消えた後、ルージュリアはどこかへと消えてしまった。
その秘密とやらを、余程知られたくないのだろう。
信用されていないようで、それなりにショックではある。
しかし、俺よりもショックを受けていた奴がいた。
そう、ハルバードだ。
「………」
合流してすぐこの事を伝えたが、すっかり口を閉ざしてしまった。
しばらくはそっとしてやった方が良さそうだ。
「金髪。この先どうする? 親御さんの調査、するんだろ?」
ハルバードに聞こえないよう、コウヤがそう耳打ちをしてきた。
この先。
そうだ、色々と話がややこしくなっている。
ここいらでひとつ、今後の行動指針をはっきりさせておこう。
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当初の目的は、大会で優勝をして、アクアレアにいるウンディーネの族長に認めてもらう事だった。
そうする事で4つの装飾品のうちの一つが手に入り、俺たちが元の肉体に戻るための足掛かりになるからだ。
しかし、今はその目的に加え、ハルバードの両親がいなくなったことの真実と、あわよくば両親の居場所を探そうとしていた。
ハルバードの両親は、いわゆる義賊。
しかし部類としては、犯罪者の内に入る。
それが何故関係しているのかと言うと、前提としてこのフェアリアでは、白紙化と同時に政府及び各自治体で把握している全ての犯罪者が消えるという出来事が起きたのだ。
ただ、ハルバードの両親の場合は、顔が割れていなかったので、白紙化後しばらくは、ハルバードと共に暮らしていた。
だがその後、管理者からのお告げにより、顔が割れていなかった犯罪者も、全員各領地の領主の元に強制召集をかけられてしまった。
そこでハルバードは、お節介から無理矢理押しかけた俺に、両親の探索及び真実の究明を依頼した、ということだ。
その依頼を元に、情報収集をするべく、まず手始めに大会の会場であるコロシアムに忍び込んだ。
そこで、管理者直属の犯罪者集団である通称 “組織” の上層部にいるピクシー族長、ピクシルと遭遇してしまうというハプニングに見舞われつつも、俺たちはいくつか手がかりを発見した。
その手がかりというのは、コロシアムの奴隷が領主と関係があるということ。
元々、ハルバードの家にやって来るという女奴隷や、見張っていた謎の男の話を元に潜入を始めたので、新たに得た情報というよりは、情報の確定であった。
もう一つが、その奴隷を使って、領主がハルバードを見張っていたということ。
それに関連してか、今回襲撃が起きたのだ。
恐らく、向こうはルージュリアを警戒していたのだろう。
だから、あの奴隷を囮にして、ハルバードが1人になったタイミングで襲撃を試みたのだ。
そして、これはついさっき確定した情報なのだが、ハルバードを領主の手から守っていた誰かがいるらしい。
リンフィアの話によると、敵は邪魔が入る事を知っていたような反応をしてたのだと。
誰かがいるのだ。
ハルバードを守っていた誰かが。
しかし、敵も邪魔をしていたのがリンフィアであるかのような発言をしていたあたり、それが誰なのかは把握していないようだ。
もしかしたら、今回はそいつを炙り出そうとしたのかも知れない。
と、これがここまでのあらましだ。
両親の事を知るためにハルバードは領主を狙っている。
対して、何らかの目的のために領主はハルバードを狙っている。
偶然にも、矢印はお互いに向き合っていたのだ。
実にわかりやすい。
だから、今後の指針も、必然として一つの方向を向く。
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「何もしないんですか!?」
改めて発表した行動指針を聞いて、素っ頓狂な声をあげるリンフィア。
みな、似たような反応をしていた。
しかし、もちろん理由はある。
「理想としては、こっそり調べてこっそり解決って形が良かったんだけど、こうなった以上、奴らとは事を構えるほかない。こっちも向こうを狙ってるし、向こうもこっちを狙ってるんだ。戦う以外の選択肢はない。ただ、」
「そうか、俺と金髪のせいか………」
最近のコウヤは察しがいい。
例によって答えを先に言ってくれる。
そう、俺たちは規制のせいで戦えないのだ。
だから、行動を起こすなら大会後ということになる。
「つっても、マジで何もしないのもあれだからな。これまでガキのお守りをしてくれれた奴を探したり、全く連絡をよこさねーG・Rを探したりするつもりだ。ただ、領主に関してはしばらく何もしなくていい。よォ、それでいいな」
「………」
ハルバードは、放心している。
襲撃に怖気付いたわけでもないのだろう。
自分から拒絶しておいて、やっぱり引きずっている………という言い方は、子供には酷か。
多分年上だが、中身は子供そのもの。
繊細というよりは、わがままなのだ。
そこを履き違えるから、子供は図に乗るし、変に捻くれる。
ケツを叩かないと、わがままは止まらない。
「おいッ!!」
「!」
だから、喝を入れる。
「よーく聞けガキ。拒絶するってこういう事だ。お前ら、お互いに同じことやり合ってることに気づいてるか?」
「!!」
ルージュリアを追い出したという話は、本人から聞いた。
マシだのなんだの平気そうな演技をしていたが、凹んだ方が遥かに健全だ。
平気でいなきゃという意識がある時点で、あいつは平気ではないのだ。
つまりこいつらは、お互い殴り合って痛がっている。
最高に頭が悪い。
だが、少なくともいま、ハルバードは自覚しただろう。
その痛みが、自分だけのものではない事を。
「多分、あいつはあいつでお前を助けようとしてる。目的があるうちはきっと帰ってこない。つまり、どういうことだ?」
「! ………………全部終わらせれば………るーちゃん、謝らせてくれるかな?」
みんな、首を縦に振って答えた。
ならば、どうするのか。
ハルバードの中で、答えはもう出ていた。
「じゃあ………俺、お前の言うこと聞くよ。お前が待つんだったら待つ。それで終わったあとは、るーちゃんに謝るんだ。邪魔とか言ってごめんなさいって」
「それでいい。忘れんな」
「うん!!」
いい返事だ。
さて、あとはもう待つだけ。
修行も出来ないし、さっき言った活動以外は暇になるだろう。
しばらくは時間を持て余す——————なんて、思っていたのだが。




