第1207話
「ハァ、ぁ………………ち、くしょう………!!」
もう立っているのは、たったの三人。
2桁はいたはずの敵も、もう大半が地に伏せていた
リンフィアは、息切れひとつしていない。
「思ったより大したことはありませんね。早く帰る事をお勧めします」
「チィ………………毎回毎回邪魔を………!」
「毎回………?」
妙な発言にリンフィアはすぐ反応を見せた。
当然ながら、襲撃犯の邪魔をしたのはこれが初めて。
そもそも、それ以外では関わった事すらなかった。
しかし、この男の口ぶりからは、これまでも何度も邪魔をされたことがうかがえた。
ケンの予想通り。
(やっぱり、今日まであの子を守っていた誰かがいたんですね。流石ケンくん………)
予定外の収穫を得たところで、リンフィアは終わりに向けて魔力を練り始めた。
「では、終わらせますね」
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リンフィアの戦いの様子を、コウヤはじっと民家の屋根の上から眺めていた。
「うわっちゃー………荒れてんね、銀髪ちゃん」
魔王形態は、魔力を力に変換して戦うというシンプルな能力の形態。
しかし、それだけに強力。
修行していた3ヶ月の間ケンに言われて伸ばしたステータスのおかげで、魔法の物理も関係なく、力でねじ伏せられるようになっていた。
味方のコウヤですら、遠目で少し引いていた。
「あの………」
「うぉっと………喋れる………って、普通に喋れるか」
保護を始めて数分。
ようやく口を開いたハルバードにコウヤは目を丸めていた。
大会の規定があるので戦えないが、無敵であるため、リンフィア達にハルバードの保護を頼まれたのだ。
ちなみにこれが、初会話だった。
「えーっと、はじめまして………だよな?」
「う、うん」
「安心して。俺は金髪………じゃわかんねえか」
言い直そうとするが、誰のことなのかはハルバードはすぐに気づいた。
「! ケンって奴?」
「そうそう。あいつの仲間。そのあいつに言われてさ、今日だけでも見張ってくれって言われたんだよ。もしかしたら、俺たち以外にお前を見てる奴がいるかもしれないからって」
首を傾げるハルバード。
この反応からして、“その見張っている奴” を彼自身は把握していないことがわかった。
しかし、ここにリンフィアとコウヤをやる前に、ケンは言っていたのだ。
間違いなく、誰かがハルバードを見守っている、と。
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「おかしいと思わねぇか? たかが一市民、しかもガキだ。わざわざ監視しなくても、連れてくればいい」
「それは………まぁ」
「だが、連中はそうはしなかった。出来なかったんじゃないかって、俺は踏んでる」
それは、見守っている誰かがいるからだと、俺は考えたわけだ。
もしかしたら、ルージュリアがそれで、隠している事がそれに関わっているかもしれないと思ったのだが、この様子では何も知らないようだ。
「………何故それを私に? 私が領主に加担している可能性だってあったでしょうに」
「残念ながらそれはない。それこそ、お前レベルのやつなら、邪魔が入ったところで、多分誰も阻止できないだろうからな」
族長に匹敵する強さというのは、そういう事だ。
それに、このドームを壊そうと殴っていたこいつのあの顔が、嘘だとは到底思えない。
「しかし、簡単に約束を破りましたね。まぁ、お陰で今回は助けられたわけですが」
「………本当は、こうするつもりもなかったンだよ。けど、俺としては不確定要素はそのまんまにしておきたくなかった。だから、それっぽい奴をお前がハルバードのところから離れる夜の間に見つけたかったんだけど、多分俺たちを見て隠れちまったんだろうな」
そして、俺たちが直接守ることになると考えられでもしたら、今後姿を見せる可能性はあまり高くない。
そうなると、もう今後の動きは一つに絞られる。
「ルージュリア。さっきの約束はもうなしだ。こうなった以上、俺たち全員でガキを守るしかない」
「………まさか、わざわざそれを聞きに?」
馬鹿馬鹿しそうにため息をつくルージュリア。
確かに馬鹿馬鹿しい。
そして、あまりにも馬鹿正直だ。
約束と言っても、半分脅して結んだ一方的なものなのにと、ルージュリアは思っていることだろう。
だが、俺はそういうものを、あまり適当にしたくはない。
約束というものの価値を下げたくはない。
「約束は約束だ。だから、ガキに会わずに済むようにこっちに来た。俺は、仲間との約束は反故にしたくない。それが、お前の心を守るために結んだものなら尚更だ」
「!!」
それでもルージュリアが望むのであれば、俺はもうそれに従う。
余計な事を考えず、長い目で見れば、領主さえどうにかすれば最悪ハルバードが捕まっても対して影響はでないのだから。
しかし、ルージュリアはきっと、取り消してくれるはずだ。
ハルバードの事を想うなら。
「………約束を、」
「うん」
「………………やり直します。というより、これはお願いでしょうか」
「………うん?」
お願い?
思っていた答え、というか、望んでいたものと違っていたので、つい今みたいな反応をしてしまった。
考えてみるが、傾げた首はやっぱり戻らない。
どういうつもりだ?
「白状しますが、私には知られたくない秘密があります。それだけは、やはり誰にも言いたくありません」
「仲間にもか?」
「仲間だから、余計に怖いのです。私たちの罪を知れば、あなたは、あなた達は絶対に失望する。そうなるくらいなら、仲間でいるうちに消えたい」
ハッとした。
そうだ。
こいつは、ハルバードが守れればそれでいいのだ。
そこに、自分がいる“必要”はないと、そう考えているのだ。
じゃあ、そのお願いというのは、
「ハルではなく、私に近づかないで」




