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第1206話




 「………………!!」




 遠くで聞こえる戦闘音に耳を傾ける。

 何が起きているのかはわからないが、少なくとも、先程の奴隷の発言からして、ハルバードを狙ったものであることは間違いなかった。



 しかし、幸いなことに距離はそこまでない。

 急げば十分間に合う。




 ()()()()()()()、だが。





 「………………いや、まだ間に合——————」




 即座にその場から離脱しようとしたルージュリアを何かが遮った。


 ぶつかる前にギリギリで踏みとどまったが、気がつけばそれはルージュリアを囲うドームのようなものを形成していた。




 「チッ………………こんなもの………!!」


 「無駄ですよ。これは、健全な大会運用のためにとお告げによって与えられた特殊スキル。一定時間に内と外の空間を完全に断絶し、あらゆる攻撃その他を遮断します。この街にいる以上、このスキルを無視することは不可能です」


 「ッ………!! 扱い方間違ってンだろうが………!!」





 拳を思い切り振りかぶり、結界の破壊を試みる。


 しかし、管理者によって直々に与えられたものである以上、これは “壊せないと決められたもの” なのだ。





 「ふざけンなァッッ!!!」





 ありったけの魔力を込めて殴り続ける。

 一撃一撃が、大気を震わせ、その衝撃を町中に伝えるほど大きなもの。


 ドームの中では、暴風が吹き荒れていた。




 それでもまるで効果はない。


 何度殴っても結界は無傷。

 ただ自分の拳がすり減って、赤く染まっていくだけ。


 どう足掻いても無駄だった。




 「これ以上、アタシは罪を犯せねェんだ!! だからハルは………ハルだけは………………!!」




 だが、それを理解してもルージュリアは止まらなかった。

 止まれなかった。

 痛みなど気にする余裕さえなく、あるはずのない望みにかけて殴り続けた。





 しかし、

























 「ハァ………ハァ………………っ………なんで………っ、ですか………!!」





 やはり、無傷のまま。

 状況は何も変わらない。



 現実とは、そう劇的なものではない。

 感情ひとつで都合の良い奇跡が起きるほど、この世界は甘くないのだ。


 ルージュリアは、それを身に染みて知っているはずだった。





 「………」





 打てる手はもうない。

 彼女が解放しない限り、この場から離れることはまず不可能だ。


 攻撃が出来ない以上、出来ることと言えば、せいぜい頼む事くらいであった。





 「………………お願いです。解放してください」


 「命令に反しますので、了承しかねます」


 「………!!………………………………?」





 怒りを込めた目を、女奴隷に向ける。

 女奴隷もまた、ルージュリアの方を見ていた。


 いや、見えていると言った方が正しいのかもしれない。

 それも、ほとんど確証に近いものを感じていた。


 そう思うほど、妙に意識を感じない目をしている。


 つまりこれは、奴隷の彼女の意思ではない。





 (洗脳………? じゃあ、もう………)





 意識が操作されている以上、説得は不可能。

 芯を揺さぶる程の言葉は持ち得ず、力技は論外。


 打てる手が、完全に消えた。


 そう理解した時にはもう、ルージュリアは膝をついてうなだれていた。





 「………………は、は………………民を犠牲にして得た力がこんなものですか………こんな、役に立たない………」




 もう、抵抗することはなかった。

 ドームの中は静まり返り、外からは未だ戦闘音だけが鳴り響いている。


 ルージュリアの知っている限り、ハルバードに戦闘能力は皆無だった。

 よしんば力があったとしても、日頃の様子からそれを使いこなす技能に関しては絶対にないと断言できた。


 外から聞こえる爆音からして、魔法を使っているのは確実。


 それも複数。



 技術なしで、多対一の戦闘が出来るわけがなかった。






 「………………」






 音は、まだ止まない。

 煙もだんだん増えていき、人の声が遠くから聞こえてき始めた。



 野次馬だろう、と。


 きっと、何も知らない民衆が、戦いを見に集まっているんだろうと、ルージュリアは考えた——————





 「………戦い?」





 戦えないハルバードを相手にしているにしては、あまりにも長い戦闘。

 いや、戦闘になっていることがおかしいのだ。


 では、これは一体なんだろうか。





 一体、誰が。






 「あんなこと言っておいて、無様に敵に頭を下げるなんて滑稽だな、ルージュリア」


 「………!」





 そこに、ケンがいた。






 「いいか大馬鹿野郎。守りたいくせに、敵なんぞに、奇跡なんぞに頼っていいわけがねーだろ。緻密に計画を練り、とことんまで可能性を摘み、必然を起こせ。一手を決めるのはその後だ」


 「………貴方は、何を言って………」


 「うちの優秀な飛車角が、敵の雑兵どもを蹴散らしてる頃だっつってんの」




 ニッ、と。

 不敵な笑みを浮かべていた。


 それを見るために、気がつくと、前を向いていた。













——————————————————————————————

















 「こ、こんなことが………」


 「チッ………………聞いてないぞ、こんなバケモノ………!!」





 足元には、すでに戦えなくなった何人もの奴隷が横たわっていた。

 立っている奴隷達も、とっくに余裕はない。


 そんな中、悠々と立っている黒衣の少女がいた。




 「女性に対してバケモノなんて言うのは、感心しませんよ」




 口調は穏やかそのもの。


 しかし、その爪や角、牙、その魔力は、どこまでも獰猛で、恐怖を蔓延させていた。


 第二進化形態・魔王。



 リンフィアの切り札であり、魔族の王たる彼女の、本来あるべき姿であった。





 「さて、さっさと終わらせましょう。子供をいじめるようなロクでなしに時間を割くだけ勿体ないですから」




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