第1204話
「会うな………って、急に言われてもさ………」
事情を知らないコウヤは、戸惑いながらルージュリアに詰め寄った。
しかし、何を言っても詳細を話そうとはしない。
いいから従えと言わんばかりに睨むだけだ。
「確かに、急にそう言われてもな。こっちとしちゃ納得できねーよ」
「ッ………!」
あからさまに敵意を孕んだ目。
一時の感情から出たものである事はわかる。
しかし、それは仲間に向ける目じゃないぞ、ルージュリア。
「あの子のことは私がどうにかします。ですから、もう大人しくしていて下さい」
「もうあのガキだけの問題じゃなくなりつつある。領主が絡んでるとなると、もっといろんな問題が起きるかもしれねーんだ。放ってはおけない」
一向に引き下がらない俺たちに、ひたすらに腹を立てているらしい。
だが、強くは言えないでいる。
やはり、何かある。
「なぁ、何か事情があるんだろ? 教えてくれよ。俺たち仲間じゃん——————」
「隠し事をしてる貴方がそれを言いますか?」
「っっ………そ、れは………」
コウヤの目の色が、突然変わった。
みるみるうちに顔が青ざめていき、隠しきれない動揺が見て取れる。
しかし、ルージュリアは止まらなかった。
「貴方だって同じでしょう? 仲間に言えないものを抱えて、バレなければいいって押し殺して、そうやって仲間を騙している貴方に言われたくありません! なんでしたら貴方の方が罪は重いのでは? 何せ貴方は——————」
「その先言っても俺は構わねェが、それはテメェのもん晒す覚悟を持って言えよ?」
「………チッ」
「隠し事があるのはなんとなくわかってる。けどまぁ、そうだな………………コウヤのだけ手をつけないってのは、フェアじゃないかもな」
「お、おい金髪——————」
心配そうな顔をでコウヤは俺のことを見ていた。
だが、安心していい。
俺は、
「わかった。俺はもう、ガキに会わない。ただ、領主は調べるぞ。それはいいだろ?」
「………ええ、結構です」
なんとな納得したようだ。
「よし、そうだな………」
俺はそこに落ちていた羊皮紙をとって、魔法で文字を刻んだ。
ルージュリアはあからさまに怪しんでいるが、もちろんこれにはなんの仕掛けもない。
「ガキに会ったらこいつを渡してくれ。“悪いがもう降りる” ってな」
「………はい。確かに」
なんの仕掛けもない事を確認したルージュリアは、手紙を懐に入れた。
すると、流石に居た堪れなくなったのか、そのまま部屋を出て行ってしまった。
緊張がとけ、ドッと疲れが出た。
これもまぁ、収穫と言えば収穫だ。
俺にとっては有益だった………が、
「………」
隠し事があるという事がバレたせいで、コウヤもバツの悪そうな顔をしている。
仕方ない奴だ。
「………………っっ、う、ぉあ!???」
頭を引っ叩いて、強く肩を組んだ。
頭の上にチラチラとはてなを浮かべるコウヤに、俺はこう言った。
「“仲間の間で隠し事はなし” ………………ああ、確かにそうだな」
「………」
「けど、無理矢理暴くのも、仲間がやっていいことじゃない」
「!………きんぱ、つぁッ!?」
パッと顔を上げるコウヤの額を俺は強めに小突いた。
「いつか話せ。それでいい」
「………おう」
という事で、この話はおしまいだ。
「切り替え切り替え。さて、今後あのガキがどうするかだが………」
「ん?? いや、ちびっ子にはもう会わないって………」
「ああ、会いには行かない。こっちからはな。予定通りなら、ガキの方から会いに来る筈だ」
目を丸くするコウヤ。
そういえば言ってなかった。
こうなった時の対処法があるという事を。
俺はざっと、それを説明した。
——————
「………衛兵の鎧といい脅しと言い、今言ったこれも………お前用意周到なんてもんじゃないぞ」
そう、用意だ。
俺は最初から、ルージュリアには何かあると思っていた。
だから、ハルバードと予め取り決めをしていた。
もしもルージュリアに何か怪しい素振りがあった場合、悪いがもう降りるという文言を合図として伝える、と。
「でも、行動すると思うか? いくらそのちびっ子からの依頼っつっても、懐いてるのはあくまで“お嬢様に”であって………」
「ガキだからって理由で言ってンのなら見当違いだぜコウヤ。知りたいって気持ちに年齢は関係ない。あいつは両親の事を知るためにも、絶対に行動に出る。あと、懐いてる“のに”じゃなくで、懐いてる“から”だと思うぜ」
信じるために、あるいは重荷を軽くするために、いずれにせよ、ルージュリアのためにも自分が動かなければならないと、ハルバードなら理解している筈だ。
ということで、ルージュリアの方は、もうこちらから手は出さない。
ただ、気になることもあるので、ハルバードの周辺に関しては少し監視の目は飛ばしておくが。
俺たちはひとまず、領主を探ることを主軸に動くとしよう。




