第1203話
「………む」
退屈なパトロール作業。
毎日毎日同じ事の繰り返し。
金目のものがあるわけでもないのに、無駄なまでに厳重な警備。
嫌気がさす——————
そんな表情が、目の前の警備兵からは漏れ出ていた。
すれ違いざまに会釈するその動きも、惰性である事がありありと伝わってくる。
注意などしているはずもなく、隙だらけ。
歩けば給料が貰えるから歩いている。
だから気づかない。
面の下が、侵入者だということも。
その侵入者である俺が、すぐ目の前の部屋に、仲間の侵入者を隠したことも。
「………よし、いいぞ」
ゆっくりと扉が開いていく。
その中から、兜を壊され素顔を晒されているコウヤが、外の様子を伺っていた。
本当に危ないところだった。
向こうの衛兵が気付く前にダッシュでコウヤの元に駆け寄り、この部屋に押し込んだのだ。
お陰で反対側から来ていた警備兵に見つからずに済んだ。
少し落ちついて、瞼に触れた汗を拭おうと手を当てると、汗だくになっていることに気がついた。
熱がこもっているのもあるが、暑さ以上に身が冷えるような感覚が強かった。
今更だが、かなり焦っていたらしい。
まだ心臓がバクバク言っている。
「勘弁してくれよ………………見つかりそうになるわ、あの野郎がここにいるわ………なんでこう都合の悪いことばっか………」
「ぶぐぅおおおおおおお………!! ぎんばづぅぅぅぅ!!!」
「うぉ!? 何号泣してんだ!! あ、テメェ!! 鼻水つけんなコラ!!」
そして俺以上にコウヤは錯乱していた。
数発ぶん殴ったが、おいおいとしがみついてくる。
だが、この様子だと気づいていないようだ。
さっきのピクシーが誰なのかを。
「………………なんでこんなところに居やがンだ? ——————ピクシル」
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「で、さっきのはあの時のピクシー族長だったって?」
落ち着いたコウヤに、さっきのピクシーの話をした。
やはり知らなかったらしい。
まぁ無理もない。
以前カイトで遭遇した時と違い、顔を隠して魔力のずっと抑えていたのだから。
「なんでお前は気づいたんだ?」
首を傾げるコウヤに対して、トントンと瞼のあたりを突いてやると、何を言いたいのか悟ったのか、なるほどと言ってすぐに引っ込んだ。
「んで、顔を見られたのか?」
「ああ、バレちまった」
それを聞いて、今度は俺の方が首を傾げた。
そうなってくると、色々と話がおかしいことになる。
その最大のポイントは、こちらが侵入者なのは明らかなのに、何故奴は手をださなかったのだろうかと言う点だ。
なにもやましい事がないなのに隠れたと言うことは、何か都合の悪いことがあったのだと思う。
「なぁ、そういえば奴隷のエルフのことはどうなった?」
「ん? ああ、それなら心配すんな。現在進行形で調査中——————………でもないな。会話が終わったらしい。
『OK、よくやった。お手柄だ、エル。もう戻っていいぞ』」
たった今エルから通信が入った。
結果は——————
「帰るぞ。コウヤ。すぐ次の行動に移る」
「! ってことは………」
黒だ。
やはり、ここの奴隷は領主と繋がりがあった。
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——————30分後。
俺たちは泊まっている宿にいた。
脱出は簡単だった。
魔法と目を駆使して人を避けつつ外へ向かえばいい。
元々、鎧等を準備して侵入したのは、中で自由に動き回る必要があったからなので、入る出るだけであれば雑作もないことだ。
「もう嫌だ。二度と潜入なんかするか」
コウヤは帰って来て早々、毛布に包まってそう言った。
余程怖かったのだろうか。
「そう拗ねんな。ヘマやっても俺がカバーするから勘弁しろよ」
「黙れ小僧!! お前に俺が救えるか!?」
「場合によるんじゃないか?」
「救え。絶対に。そこは嘘でもいいから自信を持て。俺を元気づけろ」
凄い念押ししてくる。
迫真であった。
と、下らない茶番はさて置き、そろそろ本題に入ろうと思う。
「さて………まぁ結論だけ言うと、あの奴隷は領主の手先だった。が、悪人かどうかは知らねぇ」
「流石に井戸端会議でそんな深くは話さない、か………………けど、情報を漏らしてるってことは、お告げみたいな厳密なものじゃないか、奴隷に忠誠みたいなものがあるわけじゃないのか………」
あるいはその両方。
いずれにせよ付け入る隙はありそうだ。
「あのちびっこの家を張ってたら、そのうち尻尾を見せそうだ」
「まぁ、それしかないしね。けど、それに関しちゃ適任がいるじゃん………と、噂をすれば」
お時間よろしいでしょうかと言いながら扉をノックする音が聞こえた。
確かに、ルージュリアなら適任も適任だ。
………何もないのなら
「入っていいぞ」
「はい………」
神妙な声で返事をしたと思うと、ゆっくりと扉を開いた。
声を聞いて何かを察したコウヤが、スッと表情を落ち着けていた。
そしてやはり、扉を開けて入ってくるルージュリアの表情のまた、いつものような胡散臭い笑顔ではなく、どこか緊張している様子だった。
「………ハルに会ったのですね」
「ああ。だから一つ話しておきたいことがあるんだが………」
「金輪際、あの子とは会わないで下さい」
「なっ!?」
突然そんな事を言われて驚いたコウヤが、声をあげて立ち上がった。
だが、俺がなんとなく落ち着いてしまっている。
それは多分、頭のどこかで似たようなシチュエーションが浮かんでいたせいだろう。
こんな風なことになると、どこかで考えていたのだ。
もしかすると、『邪魔』になるかもしれない、と。




