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第1202話



 「ぴ、ピクシー?」





 それは間違いなかった。


 手のひらほどで収まるサイズと、特徴的なピンク色の羽は、紛う事なくピクシーそのそれだ。


 しかし、そのピクシーは奇妙な事に被り物を………何か小さなのきのみの殻削って作ったそれを被って顔を隠していた。




 「そうだッピ」


 「あ、えっと………」




 驚きも落ち着き、安堵が訪れる。


 しかし、その安堵も徐々に思考の波に呑まれ、状況整理して浮上した事実は、コウヤに再び混乱を招いた。


 今の状況は、あまりいいものではない。

 避けようと思っておた不用意な接触は当然のこと、たった今声をかけられるまで気づかないほど完璧な気配の消し方は、只者ではないことをコウヤに悟らせた。




 「………失礼致しました。自分は任務に戻りますので、それでは………」



 我ながらよく言葉が出てきたものだと、コウヤは内心で自分を褒めていた。


 思考はまだ止まっていない。

 混乱の中でも、なるべく冷静になろうという思いで、次の一手を指す。


 そして、ここはひとまずパトロールの任務を言い訳にそそくさとこの場を後にしようとした。


 しかし、




 「ああ君、第三控室ってどこかわかるッピ? 俺、この場所に疎くて」


 「え」




 道を尋ねられてしまい、コウヤは言葉に詰まった。

 一応、ケンに言われて地図はあらかた頭に入っている。


 だが、急拵えで詰め込んだ知識は、緊張で掻き乱された頭からはうまく出て来られずにいた。



 「えっと、だ、第三控室………あっ」



 十数秒の思考停止。

 ようやく見つけた答えは、奇妙な笑みを浮かべるピクシーが指す通り、真隣にあった。



 「ここだよ。ここ」



 ピクシーがノックした扉の横にある看板にはっきりと書かれた第三控室の文字。

 わかりきった答えをまるで試すように尋ねた。


 理由はもう、言うまでもない。


 疑心に満ちた目は、コウヤを一点に見つめていた。




 「俺は関わりの深いスタッフではないけど、この大会に手出しをされたら困るからね。不審者は取り締まらせて貰うッピよ」


 「くっ………」




 失敗——————そう悟った瞬間、臨戦態勢に移行する。


 皮肉なことに、慣れた展開となったことで動きの硬さはなくなった。



 だが、






 「ッ——————」






 大会参加者にかけられた規制、それがコウヤの脳裏をよぎった。

 攻撃禁止という破れば何が起こるか分からない以上、迂闊に手出しができない。


 つまり、戦う以外の対処を取らなければならないのだ。


 そして再び混乱に落ちる。




 だが、そんなことがピクシーには関係なかった。

 どう言う理由であれ、それは十分すぎる程の好機なのだから。




 「? まあいい。まずはその顔、拝ませて貰うッピ」




 風魔法が、衛兵のヘルムにヒビを入れる。

 そして、




 「!!」




 コウヤは、顔を晒してしまった。





 (っ……… 最悪だ………!)





 顔がバレること。

 これだけは避けなければならなかったのに、こうも簡単にやられてしまった。




 こうなった以上、どうにかして口を封じるしかない。



 しかし、コウヤは殺すという手段を選択肢に入れる事は出来なかった。

 だが、攻撃ができない以上、そもそも他の手も打ちにくい。



 どうするべきか、と頭を回しながら、ピクシーを睨みつける。

 その時だった。





 「!! こいつはヒジリケンの………!?」


 「なっ………!?」





 なんと、顔は既に知られていた。

 そしてその上で、敵意は消えない。


 どうやら、バレ方としても最悪に近いという確信を持ったコウヤは、一か八かにかけて神威を練りだした。




 だが、





 「………………え?」





 突然、ピクシーの持っていた敵意が、綺麗さっぱり消えてしまった。




 「………………この顔………………そうだ、髪色と種族のせいであの時気づかなかったッピけど、この顔はそうだ………………俺の見間違い………………いや違う。見たのは一回だけだが間違いない………!!」





 不自然に動きを止めている。


 顔こそ見えないものの、息遣いに驚愕が現れ、明らかに戸惑いを見せていた。





 「………何故、あなたが………………」





 うわごとのように、ポツポツと言葉を吐き出していく。

 そして、聞き捨てならない言葉を口にした。





 「管理者様——————」


 「!!?」





 管理者、と。

 ピクシーはコウヤの顔を見てはっきりとそう言った。


 しかし、ハッと我に帰った後、すぐに頭を振って冷静になった。





 「!………いや、違うッピね。髪色とその耳………貴様何者だ………?」


 「お、俺は………」





 お互いに混乱し、戦いどころではなくなる。

 それぞれの事情で手を出せなくなり、そのまま沈黙する事数秒。



 ガシャン、という金属音が聞こえた瞬間、両者とも動きを見せた。




 「チッ………」


 「あっ………………!」




 ピクシーはその場をすぐに後にした。

 一瞬、コウヤは手を伸ばそうとしたが、どんどん金属音は近づいてくる。


 状況を考えて、泣く泣くピクシーを逃した。




 ひとまず一つは難を逃れた——————しかし、もう時間がない。



 逃げられそうな場所を探すためにキョロキョロとあたりを見回すコウヤ。


 灯に照らされた人影が、角の先から生えてきた。

 もう、すぐ目の前。


 どうしようと振り返ろうとすると、




 「あ!」




 隣にドアノブが見えた。

 ようやく見えた逃げ道。


 だが、




 「おい」




 声は、影の見えた反対側から聞こえた。

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