第1201話
「ヒジリケン………か………」
たまたまだった。
いつも監視している孤児の家に男が行くと、そこにはあの戦争の英雄がいた。
管理者から話は聞いていたはずだが、いざ目の当たりにして驚きを隠せないでいる。
その業績を、力を、今現在生き残っている人間ならば皆知っているからだ。
しかし、彼が目にしたのは、その噂とはかけ離れた、弱くちっぽけな少年であった。
技量はケンに分があるが、それ以外の全てに優っているという確証を男は持っていた。
故に、
「………邪魔をすれば、殺すだけだ」
障害にはならないと判断した男は、再び監視を続けた。
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「無敵って便利だよな」
俺がそう言うと、寝そべっていたコウヤが急にどうしたと言わんばかりに顔を顰めていた。
「だってこれあればこっちが攻撃しない限り文字通り無敵なんだぜ?」
「それ、安全云々の話で言ってんの? だったら甘いと思うけどなぁ」
呆れたように言って、茶を啜るコウヤ。
しかし、
「俺がその辺考えずに発言してると思うか?」
「だよねー」
当然、無敵と言っても不死身ではない事は理解している。
俺が言いたいのは、攻撃を喰らわないという部分はかなり有効に使えるという話だ。
例えば、これから行う領主の調査にも、十分使える。
「で、その子は信用出来るわけ?」
「さーな。けど、嘘はついて無いと思う。犯罪者がお告げで集められたって話は本当らしいし、孤児がいるのも確かだ。少なくとも、領主は黒い。というわけで、ホレ」
俺は道具一式をコウヤに渡した。
「………なんだこれは?」
衛兵の装備一式。
何故こんなものを? とコウヤは首を傾げていた。
いや、それ以上に “どうやって” という疑問の方が強いか。
「【シルフは犯罪者が多い】。犯罪者が消えても、その民族性が完全に消えたわけじゃない。例えば、賄賂を求める衛兵………とかな。すぐ見つかる当たり、その推測は間違ってないんだろうな。会場にいた2人分脅してこいつを借りた」
「悪い奴だなー」
そう言いながらも、コウヤは屈託のない笑顔を浮かべていた。
「悪人から搾取したんだ。プラマイゼロだろ」
直接領主を当たるのはまだ早い。
となると、その周りからじっくりと調べることになるのだが、いかんせん手がかりが無さすぎる。
しかし、怪しい奴自体はいる。
それは、
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「本当にうまく行くのかよ」
「建物の情報と持ち場は把握してる。実際、ここにくるまではバレなかっただろ?」
潜入自体はうまくいった。
顔は衛兵達の被っているヘルムのおかげで見えないし、声は音魔法でどうにでも誤魔化せる。
魔力でバレる可能性がある音魔法も、俺が神の知恵を使って作った術式だから、疑われはしなかった。
あとは喋り方や動きだが、そこは覚えたので問題なくクリア。
忍び込むのは難しくなかった、というわけだ。
だが、準備期間なため、かなり大人数が会場内にいる。
役場や、領主の部下である妖精も来ているので、衛兵の数も多い。
「うぉ………な、なんかドキドキする」
緊張で声が震え、ソワソワと動きが怪しくなっている。
敵陣の真っ只中、バレれば一発で終わりという状況が与えるプレッシャーはコウヤに重くのしかかっていた。
しかし、コウヤには悪いが、今の状況ではむしろそれでいい。
俺が脅した奴も、緊張では無いにせよ普段は挙動不審なので、いい感じに再現できている。
結果オーライだ。
「“そっち” をお前に任せて正解だったな。取り出す、やる事は一つ。あのガキから聞いた例の奴隷の女を探すこと。特徴は覚えてるか?」
「ああ。ブロンドヘアで目に傷の入ったエルフ、だろ?」
「そうだ。まずは見つけてくれ。その後、エルに尾行させる」
エルならいざとなれば一瞬でこちらに戻れる。
尾行には最適だ。
知り合いでも無い奴隷が、何故急に孤児のところに行くのか。
ここで少しでも情報を探りたい。
「それじゃあ、30分後に合流だ」
「あ、ああ!」
硬い動きのまま、コウヤはパトロールを始めた。
少し心配だが、いざとなった時の策もあるので、どうにかなるだろう。
さて、と。
俺は目に神威を集中させた。
この “知る力” があれば、近くの妖精の動きや、隠れた部屋などを発見できる。
まずは、歩き回って調べてみよう。
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「へ、平常心………平常心………はぁ、なんだかなぁ」
これまでそれなりに修羅場を潜り抜けてきた自負が、コウヤにはあった。
だから、並大抵のことでは今更緊張しない………と、本人は思っていたようだが、生憎この通りはためから見ても怪しいくらいには緊張していた。
ナンパの時もそうだが、どうも慣れないことには臆病になってしまうと、少し情けない気分になってしまう。
「………でも、変わった………よな」
逆らうことを半ば諦め、カイトで過ごしていた時よりも、多くのことを経験できたのは確かだった。
慣れないことが多くあるという事は、目の前に、多くの真新しいものがあるということ。
視界が広がったということ。
緊張………恐れはあるが、決して嫌なことではなかった。
叶わないかもしれない弟探しも、ようやく現実味を帯びてきたのだ。
………その弟が、倒すべき仇敵だとしても、機会が与えられた事は、決して不幸とは思わなかった。
そして、その機会を与えてくれたのは紛れもなくケン達であり、送り出してくれたイーボだった。
今はただ、その恩人に報いるためにも、きっちりと務めを果たさなければならないのだ。
「………うん、頑張るぞ」
「何を頑張るの?」
ただでさえ硬い動きが、今完全に硬直した。
眼球のみがぐるぐる動き、息遣いの聞こえる方——————ゆっくりと下へ向く。
そこに、手のひらほどのピクシーがいた。
「うぉおあああ!?」




