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第1200話



 ふと我に返って思った。


 どうやら、厄介そうなことに片足を突っ込んでしまっているらしい。


 最初は、墓地の前でボーッとしていた子供をあやしてやろうとしただけなのだが、気がつくと、恨みがどうとか敵がどうとか、話が複雑になっていた。


 しかも、相手は領主ときた。

 だが、戯言と言って捨てるには、気になる点もある。


 今更突っ込んだ片足を戻す気は毛頭ない。

 少なくとも、結論を見届けるためにも、話を聞いてみよう。



 「まず、なんで領主を敵視してるのかを聞きたいんだけど、どうしてだ? 親の仇、みたいなことか?」


 「………わからない」




 ぶんぶんと首を振りながら、ハルバードはそう言った。


 妙な答えだ。

 だが、はぐらかしている様子はない。


 では——————




 「何がわからないんだ?」


 「俺の両親は、死んだのかもわからないんだ。けど、いなくなったのはきっとあいつのせいだ! 犯罪者孤児のみんなの両親も、領主が目をつけてたせいで………!!」


 「待て待て」




 身を乗り出して興奮し始めたので、肩を押さえて座らせた。

 どうやら、いなくなった原因になんらかの形で関与しているらしい。


 そして、両親がいなくなったのは、どうもこいつだけではないようだ。



 犯罪者孤児………意味はそのままだろう。



 足湯にいた爺さんも、元々シルフには犯罪者が多いと言っていたことを思うと、恐らく消えたとされている犯罪者に子供がいて、その子供が孤児になっているのだ。





 「で、なんで領主だ?」


 「………消えた人たちは、みんな白紙化前にお役人から指名手配されてた。名前が上がってた人はみんな、白紙化した時にどこかに消えたんだ」




 なるほど。

 犯罪者は白紙化以前に選別されていたわけだ。




 「お前の両親は?」


 「………義賊だった。でも、顔が割れてなかったから、白紙化後にいなくなることはなかった」


 「!」



 つまり、街が把握してるかどうかが条件だったわけだ。



 「けど………」


 「?」


 「突然お告げが下って、捕まってなかった犯罪者は、一斉に領主の屋敷に呼ばれたんだ。その時に、俺のお母さんも、お父さんも………」




 なるほど。


 だから領主なのだ。

 指名手配なんてものをする上に、消えた親の最後の足掛かりが領主に帰結する。


 疑って当然だ。



 そして、お告げということは、管理者が直接行った何かに巻き込まれている。

 形はどうであれ、領主は間違いなく関わっているだろう。




 「………ん? あれ?」




 しかし、そこである事を思い出して思考を詰まらせた。

 そうなってくると、あの墓参りは………




 「なぁガキ。つーことは、お前の両親まだ生きてるかもしれねーじゃねーか。なんで墓なんざ………」


 「それは………るーちゃんが、そうした方がいいって………」


 「は!?」




 意外な名前を聞いて、つい声が出てしまう。


 あれだけべったりだったのだから、ルージュリアがハルバードの事情を知っているのはなんらおかしい事ではない。


 だが、生死不明の両親の墓に行かせるような真似をするのは理解できない。



 一体、どういうつもりだ?





 「………まぁいい。大体事情はわかった。でも、安心したぜ」


 「?」


 「お前は、逃げるために墓参りを躊躇ってるんだと思ってた。けど、実際は逆だ。お前は諦めなかったから、言いつけを破ってまで墓に入らないでいた。戦うことが出来るやつなんだな、お前」


 「うわ、わ………なに………」




 わしゃわしゃと頭を撫で回すと、ハルバードは困ったような顔で手を払い除けようとした。


 そんなに強くのけようとしないあたり、可愛げはある。





 「協力はしてやる。けどその前に、お前がどうしたいかを聞きたい」


 「俺が………」


 「そうだ。乗りかかった船だ。俺がそいつを叶えてやる。だから、言ってみろ」




 我ながら、甘いと思う。

 しかし、こいつは同じなのだ。


 理不尽に、日常を奪われた俺と。


 見過ごすことは、もう出来ない。

 だから、俺のその望みを、胸に刻み込むべく耳を傾けた。




 「………今、両親がどうなっているのか、それが知りたい。それで………」




 震えながら、名前の刻まれたコップを握り込む。

 今はいない、家族の名前は、ハルバードを奮い立たせた。




 「本当に誰かのせいでこんな事になったのなら、そいつを倒したい………!!」


 「ああ、それでいい。その意思があるなら、俺はお前に協力してやる」





 だからまずは、あいつから情報を——————














——————————————————————————————



















 「帰ってないのか?」


 「はい。この間言ってた不審な男の人の調査をするって言ってて………」




 それ以上は何も知らないと、リンフィアは首を振っていた。

 話を聞いて手がかりを見つけようと思ったのだが、どうやらルージュリアは不在らしい。


 いきなり出鼻を挫かれ、つい苦い顔をしてしまう。





 「参ったな………あのガキが泊めないって言ってる以上、あいつの家には行ってないだろうし………手がかりがないせいで探せそうもねー………」


 「お困りかよ金髪」




 後ろからやってきて肩を組んでくるコウヤ。

 そうだ、こいつもいる。


 こいつの力なら、何か情報を得られるかもしれない。





 「なぁコウヤ。白紙化によって、各地に居た犯罪者が消えたって話は知ってるか?」


 「ん? おー、知ってる知ってる。だからカイトの牢もガラガラだったろ?」


 「………ああ、なるほど」





 ガージュ………かつてカイトで戦った王候補。

 人間界で起きた戦争で妹を失い、それが原因で俺を恨んでいた男だ。


 そいつと初めて出会った牢屋は、たしかにあいつ以外誰もいなかった。



 ろくに掃除もされないほどだ。



 別室もあると聞いたが、そっちはそっちで誰もいないと言っていたし、まさかここに来て繋がってくるとは。




 「ちなみに、その原因ってわかるか?」


 「原因って………なんか特別な理由があって犯罪者たちを隠したってことか?」




 そう言いながら攻略本を取り出すコウヤ。

 話が早くて助かる。





 「調べておいてくれるか?」


 「いいけど………お前、なんか面倒ごとに足突っ込んだか?」




 眉を顰めるコウヤに、俺は何も言わず笑って返した。 

 リンフィアもコウヤも仕方なさそうにため息をついていた。





 「お人好しめ」


 「相談しないくせは直りそうもないですね」




 痛いところを突かれてしまったが、素直にそこは認める。

 そしてそう言いつつ、協力しようとしてくれるこいつは、本当に頼もしい。




 「頼りにしてるぜ、お前ら」




 大会は優勝する。

 そして、ハルバードの願いも叶える。


 どうせ1ヶ月何も出来ない身の上だ。

 暇を潰すくらいにサクッとこなしてみせる。



 俺はそんな風に軽く構えてしまっていた。









 ——————故に、隠れている影の大きさに、まるで気づいていなかった。

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