第1094話
「………………これは、“あやつ” の魔力か………どうやら始まったようだな」
読んでいた本を置き、ウンディルはそっと目を閉じて魔力を探る。
探知し慣れた娘の魔力の周辺に、つい今さっき感じた魔力の主である男ともう1人、ヒジリケンの魔力が集まっている事に気がついた。
「せっかちな男だ。いつでも良いとは言ったが、初日から仕掛けるかね? まだルージュリアにも説明しておらんというのに」
とは言うものの、ウンディルはどこか楽しんでいるような笑みを浮かべていた。
滲み出る血の気の多さ。
間違いなく、大人しい性格ではないとこの顔を見れば誰もがそう思うだろう。
「まぁ、ここはお手並み拝見と行こうか」
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「お父様ったら………また妙な事を………」
突然、元夫候補の男が襲いかかってきたと思ったら、ルージュリアは忌々しげにそう吐いていた。
どうやら、この妙な状況はあの親父の仕業らしい。
「なんだ、じゃあこいつただのチンピラじゃねーって事か?」
「はい、恐らく父の差金でしょう」
公園にいる使用人や衛兵がまるで反応しないあたり間違いないだろう。
だが、依然これがどういう状況なのかはさっぱりだ。
………と、思っていると、
「大戦の英雄………ヒジリケン」
「あれまー、俺ってば有名人じゃねーか」
目の前の男はそう言った。
外界にいたのであれば、まぁ俺のことを知っていてもおかしくない。
気づかない間に国王………アルスカークが嫌がらせと言わんばかりに国民に俺のことを吹いて回ったせいだ。
日本にいた頃とはまた違った意味で外が歩きづらい。
「んで、何の用だ。因縁つけられる様なことをした覚えは………まぁあるけども」
十中八九、結婚に割り込んだ事だろう。
これに関しては俺は100%悪くない。
無実の罪もいいところだ。
しかし、男はそうは思っていない。
刺す様な視線には確かに敵意と憤怒が宿っている。
そして男は、そのままこんな事を言い出した。
「ボク達はお前を認めない。正しい順序も踏まず、突然結婚に割り込むなんていくらなんでも不公平だ!! 英雄なら英雄らしく、正々堂々戦え!!」
「………ア?」
妙な事を言う奴だ。
正しい順序がどうとか、初対面で結婚を迫ろうとしている非常識な奴がどの口で言ってるだという話だ。
「ルージュリアさん。族長様からの命令が下っています。これから、貴女達には正式な夫を決めるゲームに参加してもらいます」
「………ゲーム?」
「はい。これを」
男はそう言うと、ルージュリアに巻物を届けつつ、こちらには乱雑にそれを投げつけて来た。
威嚇と馬鹿にした笑みもおまけのついて来た。
なんて素敵なプレゼントなのだろうか。
結婚できない理由がわかった気がする。
まぁ、そんな事で難癖をつけたところで仕方ないので、とりあえずその巻物を開いてみる事にした。
「………………ンだ? これ」
ざっと目を通してみた。
そこには、そのゲームとやらのルールが書かれていた。
簡単に言えば、物理的な花嫁争奪戦だ。
まず俺がルージュリアと共に行動し、他の夫候補やその仲間に奪われないように守らなければならない。
3日間続けて守ればその時点で終了。
但し、他者にルージュリアを連れ去られた場合、その夫候補が俺のポジションにつき、日数をリセットしてゲーム再開。
殺人は無し。
12時を基準に、3時間に一度0分から5分の間に休憩がある。
なお、ルージュリアによる攻撃とルージュリアへの強化魔法は禁じる。
ゲームが終わらなかった場合、20日の間で最も長い間ルージュリアと過ごしたものが勝者となる。
「おお………なんつーか馬鹿丸出しの………」
敵ながら下らん事を考えるものだ。
思わずため息が出る。
そして、ここでもやはりお偉い族長サマや旦那候補は『ゲーム』などとのたまっている。
「安心しなよ。これでいきなり君に退いてもらうつもりはない。ただ、“候補” まで降りて来てもらう。もちろん、君が勝てばこちらが大人しく退くよ。と言っても、君ら5人の敵になるのはそれぞれの候補者の仲間を含めて12人。倍以上の差がついていては流石に………」
「良かったな、ルージュリア。このくだらんゲームと頭の悪ィ妨害は、3日で終わるらしいぞ」
男は何か言っていたが、俺は無視してルージュリアにそう言った。
「3日ですか………ふふふ、それはそれは………少し楽しみですね。その間、貴方が私を守って下さるのでしょう?」
「ずば抜けて強いお前にそう言われるのも妙な話だな」
チラッと横目に男の方を見る。
無視されたのが気に食わなかったのか、わかりやすく浮かべた青筋と剥き出しの歯茎が、笑えるほど露骨な怒りを表していた。
激怒に呼応して魔力も高まって来ている。
短気な男だ。
「魔法か? やめとけよ。やるだけ無駄だ。確かに、魔法に関する経験値はお前の方がずっと上っぽいけど、相性が悪すぎる。痛い目見る前に消えろ」
「………………確かに、こんなところで馬鹿正直に真正面から戦うのは得策ではない」
ほう、と思わず声が漏れる。
存外考える脳は付いているらしい。
しかし、敵意はなお続いていた。
何か企んでいることは間違いないだろう。
「弱っても英雄ってところか。妖精界に来て消されていない力も他人よりは多いことだろう。しかし………君の仲間はどうかな?」
「何?」
「このゲーム、君が候補に下がること以外僕らに影響がないのであれば、君にさえ勝たせなければいい。だから、確実に勝つために君の連れている仲間から倒させてもらう。よもや卑怯なんて幼稚なことは言わないだろう?」
なるほど。
どうやらこいつは根本的に間違っているようだ。
俺たちが俺のワンマンチームだと思い込んでいるらしい。
そう思うと、ついつい笑いが込み上げて来た。
「あっはっはっは!! いやいや………………考え無しっつーか何つーか………要は他の連中はあいつらのところに向かわせてるんだよな?」
「? そう言っているつもりだけど、何——————」
「ぎぃぃぃぃああああああああああ!!!?」
今まで無反応だった周囲の人間も、思わずと言った様子で、その悲鳴に反応していた。
俺にとっては知らない奴の声だ。
しかし、この男にとってはそうではないらしい。
「なっ………………今のは!?」
「おっ始めたか。やれやれ………この魔力はG・Rか?」
どうやら派手に暴れているらしい。
それは結構。
こちらも負けてられない。
「さてと、アンタはえーっと………………」
「………レイター。レイター・マクール」
「おお、そうか。そんじゃレイター」
魔法使いタイプであれば、初手は様子見。
丸腰で構わない。
「始めようぜ」




