45 妖精
落ち着いたらおなかがすき、他に食べるものもなかったのでアイテムボックスから出して食べたオークの生肉をいただき、それを食べていたら思い出した豚太郎に一言
「迷った」
とだけ連絡をいれ念話を着信拒否状態――やろうと思ったらできた――にしたロリンは、隠密系と探知系スキルを全開にして寝に入った。
「ん?」
しかし、寝ることは出来なかった。
探知系スキルの効果範囲に、敵意を持った魔獣が入ったからである。
といっても、ロリンに対して敵意を持っているわけではなかった。
どうやら、何者かが魔獣に襲われているようだった。
流石に気づいておきながら見捨てることは出来なかったロリンは、現場に急行した。
少しすると、少女のものらしい声で
「いやー!だれかたすけてー!」
と聞こえてきた。
やるきが数倍になり音の発信源に向かい全力疾走したロリンは程なくして、非常に巨大な、これを作ったものとは絶対に出会いたくないと思えるような大きさの蜘蛛の巣と、その前にいる巨大な蛙を発見した。
肝心の少女は見当たらなかったが、とりあえずさくっと蛙さんに人生と言う舞台からご退場願い、耳を澄ませて声を待った。
「たすけてー!…あれー?し、しんでいるー!」
どうやら声は蜘蛛の巣から聞こえてきているようだった。
しかし、いくら探しても少女は見つからない。
巨大蛙が死んだことが分かったと言うことは近くにいるということが確定的であるはずなのに、姿が見えない。
というか自分のこと見えてないのかな、と考えかけたロリンは、未だに隠密系スキルを全開にしていたままであったことに気づいた。
あわててスキルを解除し、ロリンは声を上げて探した。
「おーい、助けに来たよ!」
「ふぇ?わあー!とつぜんでてきたー!こっちーたすけてー!」
間延びした声で発せられた内容から、予想通りロリンのことが見えているようだが、どうしてもロリンには少女が見つけられない。
二度聞いたため蜘蛛の巣から聞こえてきていることは間違いないのに、見えなかった。
「どこにいるの!」
蜘蛛の巣の前できょろきょろしながら尋ねたロリンに、やはり間延びした、少し舌足らずな印象を受ける、もし文字に起こすならば全部ひらがなにされるようなそんな独特な声が帰ってきた。
「こっちー!もうちょっとしたー!」
言われるがままに足元のほうを見たロリンは、奇妙なものを見た。
それは、頭以外を蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされた少女の顔だった。
顔立ちは美しいと言うよりかわいいという側だが非常によく整っており、大自然を宿したような深緑の瞳と癖が強いどこまでも人工的なピンク色の肩までの長さの髪が対照的で印象的だった。
しかし、その大きさは五百円玉より大きいか怪しい位であった。
なんだこれは、と一瞬見間違えかと思い二度見してしまったロリンだったが、直ぐに彼女の正体に気づいた。
「こ、コロポックル!」
「ようせいー!」
小さな少女は頬を膨らませて抗議した。
「おぉ~」
「えへへ~」
簀巻き状態から開放した手のひら大の少女には、羽が生えていた。
それを見て思わず声が漏れたロリンの反応に、少女ははにかみながらくねくねした。
少女が身にまとっている服は、草で作られたと思われ、ブラジャー型とミニスカート型で胸と腰しか隠していないのに何故か扇情的とはいえない雰囲気を持っていた。因みにロリンの今の服はいつぞやの民族衣装風のものであった。獣人の国にいるときは基本この格好だった。じゃまなので羽帽子はかぶっていないが。
さらに何かの魔法なのかそういう種族なのか羽は淡く光っており、すでにあたりは暗くなっていたが明かりをつけなくとも少女の表情までよく見えた。そもそもロリンは夜目がスキルで利くので関係ないのだが。
一通り身をくねらせた少女は、小さな二対の羽根を羽ばたかせてロリンの顔の前まで飛んで、ぺこりと大きくお辞儀をした。
「ありがとーございましたー」
「ううん、気にしないで」
深々と、もし蓋が開いたランドセルを背負っていれば荷物を全て地面にぶちまけているくらい深々と礼をした妖精に、ううん、(なんかもうすごくかわいいのでそれで十分なんで)気にしないで、とロリンは手と首を振った。
「でもー…あ!なまえをー!」
しかし妖精少女はそういうわけにも行かないようで、少し不満げというか申し訳ないというかな表情で何かを言いかけ、その前に名前を知らないことに気づいた。
「わたしはロリン・コロリン。ロリンって呼んで。あなたは?」
快く答えたロリンに、妖精はうれしそうにした後、はっと何か重大なことに気づいたような顔になった。
「ロリンちゃんー!ようせいになまえはないんですー!」
「そうなの?」
ロリンは不便じゃないのか、と思ったが、ようせい全体が彼女のような感じなら名前なくても何とかなりそうだな、と納得してしまった。
しかし、ロリンにはそういうわけにはいかなかった。
どれくらいの付き合いになるかは分からないが不便である。
だったらつけてあげよう、とロリンは考えた。
「それじゃあ……今度つけてあげるね!」
とっさにいい名前が思いつかなかった。これは先送りと呼ばれる日本人の奥ゆかしい文化である。少し恥ずかしかった。
「ほんとー!ありがとー!」
だが、少女はそんなロリンの内心などには気づかず、花が咲いたような笑みを浮かべ、飛び回って喜びを表現した。
えへえへとしばらく笑っていた少女だったが、再びはっとして動きを止め、焦った顔になった。
「あー!ありがとーふえちゃったー!やっぱりおれいしないとー!」
「うぇ…ふんっ!」
一連の妖精の動きを見た所為で漏れ出そうになった邪な想いを気合で心の奥底に押し込め、ロリンは冷静に聞いた。
「うぇっふんー?」
「お礼っていっても何が出来るの?」
首をかしげくるくると空中で回りながら何か言っている少女を努めて無視し、言葉の最後に
「体で払うとか?」
と付け足しそうになるのを何とか耐え、聞いた。
ロリンの問いに、少女は自信たっぷりといった笑みを満面に浮かべて答えた。
「いろいろー!」
「そっかー色々かー」
全然答えになっていなかったが、かわいかったので許した。
ロリンは小さい子供と話しているモードに頭を切り替えることにした。
さあどうしようか、とロリンが考え始めたところで、少女が口を開いた。
「えーっとねーまほうがねーつかえるのー」
「魔法が使えるの?」
聞いておきながらロリンは、あの小さな羽根で飛んでいるのも既に魔法みたいなもんだよな、と思った。
そして、やはり妖精は魔法タイプなのか、と少し残念に思った。
ロリンは体術が強かったり槍をぶん回したりする妖精を少し期待していた。
「うん!えっとねー…みせるねー!」
少女は得意げにうなずいた後、なんと説明するのか悩んでいるように首をかしげて眉根をよせほっぺたに人差し指を置いてくるくる回り、結局説明は諦めて実例を見せることにした。
「本当!」
うれしそうな声を出しながらも、まさか火の玉とかぶつけてくるわけじゃないよな、でもこの子の精神年齢考えるとやりかねないよな、とロリンは内心少しびびっていた。
ロリンの様子に気をよくした妖精は、にっこり笑った後一度目を瞑り深呼吸をした。
そして、目を閉じたままおもむろに右手を前に出し、人差し指だけ伸ばした。
指を指される形になったロリンがなんだ本当に火の玉とばされるのかと冷や汗をかいていると、突然妖精少女の小さな指の先が光を放った。
指からレーザーか、と逃げかけたロリンだったが、光っただけで何も出はしなかった。
いぶかしむロリンを余所に、少女はその場で回り始めた。
すると、妖精の光る指がなぞった空中に輝く線が描かれた。
くるりと一周するとその線はもと来たところにもどってつながり、光る円になった。
綺麗な円ができたことを目を開けて確認した妖精は、笑みを浮かべてその円の中で踊りだした。
その踊りは、先ほどまでのただただかわいらしい動きではなく、うっとりと見とれてしまうような流麗な、神秘的な舞だった。
一分に満たない程度の長さのその踊りを、ロリンはびびっていたのも忘れて見入った。
ダイナミックな動きをする見せ場があるわけでも、ストーリー性があるわけでもなかったが、目が離せなかった。
妖精が静かに踊り終わると、光の環は弾け、ロリンに優しく降りそそいだ。
「おぉ…」
なんともいえない暖かな優しさに包まれているような幸福感を感じたロリンは、無意識に声を出してしまっていた。
光が消えた後も、余韻に浸っていたロリンだったが
「ねー!すごいでしょー!」
というかわいく元気に戻った少女の声で現実に戻ってきた。
「うん、すごかったよ…」
それは偽らざる真実の感想だった。
そう、確かにすごかった。が
「すごかったけど…なんだったの?」
ロリンには何をしたのかはさっぱり分からなかった。
自分を包んだあの感覚から何かいい効果があったのはわかったのだが、それが何なのかは全く分からなかった。
「えっとねーロリンちゃんがーしあわせになるようにってーおまじないー?」
「あぁ、うん。ありがとう」
疑問系だった。本人も詳しくはわかっていないようだ。
結局なんだったのだろう、と思考の海に沈みそうになったロリンだったが、そうなる前に妖精少女が説明をしてくれた。
「あのねーフェアリーサークルをつくってーこうしたいー!っておもいながらおどるとーそうなるのー!」
どうやら、妖精の魔法と言うのはかなり感覚的なもののようだった。
ドントシンクでフィールな感じのその内容に、ロリンは
「すごいね!」
以外に言う言葉が見つからなかった。少女はうれしそうにふらふら飛んだ。
しかし、よくよく考えてみればすごい魔法じゃないの、とロリンは気づいた。
いろいろできる、というのは本当だったようだ。
ただロリンに魔法をかけた後の妖精本人のコメントを考えるに、結果も感覚的で曖昧になるようだった。
そう妖精の魔法を解釈したロリンは、お礼を受けることにした。
もしかすれば、もしかするかもしれないからだ。
ロリンは少し真剣な表情、しかし少女を怖がらせないような表情になって尋ねてみた。
「あのね、わたし友達とはぐれちゃったんだけど、その魔法でどこにいるか分かるかな?」
ロリンから真剣な気配をしっかりと感じ取った妖精は、少し緊張した様子で
「うーんー…やってみるねー」
と言って再び円を作り踊り始めた。
ロリンは先ほどとは違うその踊りを、今度は見ほれるでなく見つめた。
前回よりも長い、二分近い長さの踊りを終えた妖精に、砕けた光の環が降りそそいだ。
緊張した様子でそれを浴びた少女は、申し訳なさそうな表情になってしまった。
「ごめんなさいーわからなかったですー」
「ううん、いいのいいの!」
がっかりしながらも、しかし目の前の少女が悪いわけではないので、ロリンは笑顔を取り繕って両手を振った。
うんうん、やっぱり精確に何かを、とかはできないんだなあ、とロリンは自分を納得させた。
そんなロリンの感情がわかってしまったのか、悲しそうに申し訳なさそうにしながら少女は呟いた。
「ごめんなさいー…げんきにしてることはわかったんですけどー…」
少女の小さな声は、しっかりとロリンの耳に届いた。
「本当!」
「は、はいーほんとうですー!さんにんともげんきですー!」
顔を鼻息がかかるくらいの距離に近づけながら食いついたロリンに、すこし驚きながら少女ははっきりと答えた。
教えていない人数を当てたことにより、ロリンは本当に大星たちが元気にしていると確信できた。
「よかった~」
へなへなと座り込んでしまったロリンに、どうしたらいいのかわからずに心配そうにおろおろしながら寄っていく妖精少女。
顔を俯けたロリンのつむじの前で、ふらふらと飛ぶ少女に、突然顔を上げたロリンが潰さないように注意しながら全身に頬ずりした。
「ありがとーもう大好きかわいいー!」
「きゃー!」
びっくりしながらも、元気が戻ったことが分かった少女はその小さな頭をロリンのほっぺたにこすり付けることで返した。
しばらくの間二人はそうしていた。
すいません、本日二話投稿しようと思っていたのですが切りどころが分からなかったので長めの一話にしました。
誤字、脱字、言葉の誤用、矛盾点、妖精ちゃんが漢字使ってるなどに気づかれた方、教えていただけるとうれしいです。
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