46 ネーミングと眼
「ところで、どうして蜘蛛の巣に捕まってたの?」
落ち着いたロリンは、肩の上に座っている妖精少女に尋ねた。ロリンは木の枝の上に腰を下ろしている。
首を傾げて少し考えた妖精は、少しずつ思い出しながらロリンに話し出した。
「えっとーおひるねしてたらーあのみどりのにーいとでぐるぐるまきにされましてーここまでつれてこられーあー!!」
あの蛙が蜘蛛の巣の主だったのかよそれじゃ蜘蛛の巣じゃないじゃん、と考えていたロリンは、突然大声を上げた妖精に驚き木から落ちかけてしまった。
何とか体勢を立て直したロリンの顔の前で、少女があわてて羽ばたいていた。
そしてロリンが冷や汗をかきながら早鐘を打つように高鳴る胸の鼓動を感じこれが、恋…?と馬鹿な感想を抱いているのも気にせずまくし立てた。といっても間延びした声なのだが。
「たいへんー!まんげつがー!もうすぐー!かえらないとー!」
なんだか取り乱して飛び回ってしまっている妖精をなんとかなだめて、ロリンは詳しく事情を聞いた。
すこし焦りと不安を残しながらも、先ほどよりは落ち着いた少女は、ゆっくりとしかし精確に説明し始めた。
「まずーようせいにはーおうちがあるんですーそこからーしんげつのときにーこっちにきてーまんげつのときにーまたーかえるんですー」
相槌をいれながらロリンは聞き、先を促した。
「そのーおひるねしながらーはこばれてしまいましたのでーおうちのいりぐちー?からはなれてしまいましてーなんにちかたってしまっていましてーまんげつになるまでにもどらないとーどうなっちゃうのかなー?」
「ふむふむ」
ロリンは、妖精の現状を終電を逃しそう状態と思うことにした。
そこで、ロリンは気になったことを聞いた。
「ところで、帰る道は分かるの?」
大分落ち着いてきた様子の妖精は、笑顔でうなずいた。
「まほうがあるのでーおどればーだいたいのばしょはー」
「うんうん」
それを聞いたロリンは、安心して尋ねた。
「道中で魔獣にあったら何とかできる?」
今度は、少し悲しげな顔で妖精は首を横に振った。
「にげられればーなんとかですがーとんでるのがいますとーきびしめですーいりぐちのあたりはーまじゅーもいないんですがー…」
「ほうほう」
ロリンは妖精の事情を理解し、にっこりと微笑んで言った。
「じゃあ、一緒に行こうよ!」
妖精の顔に笑顔の花が咲いた。
ロリンが妖精に同行を申し出たのは、ポジティブとネガティブ、二つの理由があった。
ネガティブな理由が、他にやることがないからである。
大星たちの無事はほぼ確定的で、獣人の国に帰る方法も分からなかったので、ロリンにはすることがなかったから消極的に人助け的行動をとることにしたのだ。
ポジティブな理由は、妖精にあいたいからである。
目の前の妖精少女の今までの発言から、彼女の他にも妖精がいることは明らかであると思えた。
故に、そのお家の入り口とやらにいけば大量の妖精が笑いながら飛び踊る理想郷のような光景を拝めると思ったのだ。
そもそもこの二つの理由の前に、かわいいこを放って置けないと言う大前提があるのだが。
「ありがとー!またおれいかんがえるー!」
「どういたしまして」
喜びでロリンの顔に全身を使い抱きつく妖精少女の感触を堪能しにやにやして脳みそを半分ほど溶かしながら、彼女の体の隙間からのぞく夜空に浮かぶ月をみて、ロリンはあるものの名前を思い出した。
そして、その言葉の響きが、なんとなくぴったりな気がすると思った。
「妖精ちゃん」
「はいー?」
思いついたが吉日、とばかりにロリンは少女の脇を親指と人差し指ではさみ優しくつまみ上げ、顔の前に浮かべた。妖精も大人しくニコニコとそれに従った。
「名前、思いついたの」
「なまえー?なまえー!」
名前、といわれ一瞬何のことだか分からなかった様子の妖精だったが、それが自分の名前であることに気づいてうれしそうに声を上げた。
うきうきしている少女を見て、かなりのプレッシャーを感じながら、ロリンは宣言した。
「あなたの名前は、ルナル――…ルナルゥだよ!」
「るなるー?」
某周期予想サービスの名前をそのままいいそうになったロリンは、土壇場で修正した。
これをそのまま少女の名前にしようと考えていた数瞬前の自分はどうかしていたと確信した。どうやら大星たちの無事の確認とかわいい妖精少女のはげしめスキンシップであたまがぽわぽわしていたようであった。
語感直感だけで決めるのはやめよう、とロリンは堅く決意した。
直前でポンと変えられた名前だったが、妖精少女は気に入ったようで何度も口の中で
「るなるー…るなるー…」
と呟き、にっこりと微笑んで
「ルナルゥ!ありがとー!ロリンちゃんだいすきー!なんでもおれいしちゃうー!」
「なんでもはぷっ!?」
とロリンの指の拘束を解いて再び顔面にダイブした。
二人が眠れるほどにテンションが落ち着くのは、しばらく先の話であった。
翌日、ロリンは久しぶりに日が出て直ぐでない時間に起きた。
妖精少女ルナルゥは夜型のようで、ロリンが起きてもその頭の上でぐっすりと寝ていた。
ロリンは、起こすのも悪いと思い、ルナルゥが寝ているうちに少しやってみたかったことを試して見ることにした。
それをするためにロリンは一度右目を瞑り、開いたその瞬間ルナルゥは飛び起きた。
目覚めて直ぐに、ルナルゥはがたがたと震え始めてしまった。
両目を黄金色に輝かせたロリンは、あわててメニューを開きあるスキルを無効化した。
「ごめんごめん!」
謝りながらロリンは、自分の頭の上からルナルゥを手のひらの上にのせて顔の前に掲げ、表情を伺った。
「ふぇ~?ふぇ~??」
ルナルゥは、何が起きたのか分からないと言った様子だった。
自分が何故起きたのか震えていたのかも理解できていないようだった。
更に加えて謝りながら、ロリンはルナルゥに端折った説明をした。
「えっと、力を解放したら驚かせて起こしちゃったみたいなの!ごめんね!」
すごく適当な説明であった。実際何も説明していないのと同じようなものであった。
だが、ルナルゥにはそれよりも気になったことがあったようで流した。
「それはーおぼえてないのでいいですーはやおきできましたしーそれよりーめがひかってますー?」
ルナルゥが気になったのは、ロリンの瞳だった。
脳内が常にふわふわしているルナルゥは、ロリンの両目の詳しい特徴までは覚えていなかったが、流石に両方金色で光ってはいなかったことくらいは記憶していた。
興味津々といった様子で自分の顔ほどもあるロリンの瞳を覗き込むルナルゥに、ロリンは簡潔に適当に説明した。
「えーっと、これは龍の魔眼って言って、力を解放すると光って、勝手に怖がらせるオーラみたいなのが出ちゃうの」
大体間違ってはいない説明だった。
龍の魔眼、それは吸血の魔眼と対を成すものである。
ソードマジックファンタジーで吸血鬼と同時に実装された種族がいた。
それが龍人である。
高い身体能力と超攻撃的で強力な固有スキルを備え、さらには各種耐性スキルも取得しやすいという恵まれた種族であった。
MPの量も多く、魔法系物理系どちらにしても優秀という運営の頭がとち狂ったのかと思われるような種族だった。
実際に実装当初はバランスを何とかしろとクレームがすごかった。
しかし、一部のプレイヤーは確信していた。
こんなに優秀と言うことは、このゲームなら絶対にそれを覆すほどのとんでもない弱点がある、と。
予想通り、続々と龍人のとんでもない弱点が発見されていき、次第にクレームは鳴りを潜めていった。
吸血鬼と同じ流れで魔眼も生まれたが、その弱点からあまり購入者はいなかった。
そんな種族だった。
一日一話、がんばります。
誤字、脱字、言葉の誤用、矛盾点、ルナルゥが漢字使ってるなどありましたら教えていただけると助かります。
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