勇者 3
「神聖付与!かけたよ大星!」
浩太の持つ聖句が刻まれた金属の杖から飛び出した白い光が、大星の得物である両手剣に触れると、その武器自体が神聖さを感じる純白の光を放ちだした。
「助かる!へヴィースラッシュ!」
光り輝く大星の剣は、技能の補助を受け重い一撃を放った。
「ぶブるアあ!!」
大星の一撃を受けた豚顔をした魔獣が、傷口から灰になり、消えた。
「炎の十字!」
その横では貴が生み出した十字をかたどった炎がもう一匹いた魔獣を炭に変えていた。
「ふぅ、なんとかなったね~」
座り込み額の汗をぬぐいながら、浩太がうれしそうに言った。
「あぁ。だが多いな」
「それな」
大星は浩太に返事をしながらも、少し苦い表情をしている。
貴も大星の発言に同意した。
多い、というのは、魔獣との戦闘が、ではない。
実際には魔獣との戦闘も予想していたよりも大分頻度が高いのだが、問題はそこではない。
今問題なのは、魔獣の種類であった。
豚の顔を持つ魔獣と言えば、オークである。
だが、大星たちが森の奥に入ってから何度も戦っているのは普通のオークではなかった。
しかし鎧をつけているだとか、魔法を使ってくるというわけではない。
そのオークたちは、既に死んでいたのだ。
所謂アンデットであったのだ。
アンデットは怨念がたまった場所や祈りを受けていない墓地などから自然発生することもあるが、死体を放置することによっても生まれることがある。
オークゾンビとも言うべきそれ自体は、浩太の神聖魔法と貴の炎魔法のお陰で楽に倒せていたが、大量のオークゾンビがいると言うことはその元となるオークの死体を作り上げた、つまり大量のオークを倒したものがいることを暗に示していた。
浩太は今回も無事に済んだことに喜んでいたが、大星と貴はこれからその発生源とも言うべきものに出会ってしまわないか警戒していた。
「これが麟太ならいいのにな」
「それな」
大星がこぼしたのは希望的観測だが、死体を放置していることも考えて案外本当にそうなのではないかとも思えた。
その場で少し休憩した三人は、考えても仕方ないと先に進んだ。
大星たちが森の奥、人間がここ数十年は立ち入っていない場所に入ってから、一週間が経った。
コンパスのように方角を指し示す魔道具――魔法の力が込められた道具――の導きで東に東に進んできた大星たちだったが、一向に獣人たちの国も何も見つからずに辟易としてきていた。
獣人の国は本当に東にあるのか、そもそも麟太は獣人のところにいるのか、あいつのことだから獣人の国も見つけられずにもっと別のところに行ってしまっているのではないか、そんなことを皆が考え始めたときだった。それらが現れたのは。
「なんだ…見張られているのか…?」
大星の直感とも言うべきものが、こちらを監視するように見つめる複数の気配を感じ取った。
三人は大星のやけにいい感覚頼みで、斥候が出来るような技能を取っていなかったため、その監視者がどこにいるのかは分からなかった。
そのため、既にこちらの居場所はばれているのだから、と相手をおびき寄せることにした。
「いるのは分かっているぞ!出て来い!」
大星は相手を怯ませる雄たけびの技能に挑発も乗せて腹から声を出し全力で叫んだ。
敵が姿を現すかどうかは一種の賭けだったが、大星はどうやらそれに勝ったようだった。
戦闘体制を整えた三人の前に、その集団は姿を現した。
それは、一目見て化け物と分かる集団であった。
「ほ、神聖な球体!」
浩太が恐怖から攻撃に移ってしまったのも、仕方がないといえる。
それらは浩太の放った白く光る球体を軽々とよけ、構えた。
それは、オークだった。
しかし、普通のオークとは明らかに違っていた。
それらは日の光を嫌うように、全身をローブで覆い深くフードをかぶっていた。
だが、血のように不気味に光る瞳の所為でその特徴的な豚顔はうっすらと見えていた。
動きはまるで幽鬼のように生気を感じさせず、音も立てない。
そのオークたちが人並みかそれ以上の知性や技術を持っている証明だった。
「ちっ」
出ては来たがこちらを襲ってくるようなことはなかったため、技能の効果でおびき出されたのではなく言葉を理解して自らの意思で姿を現したことから、会話の余地はあると考えていた大星だったが、浩太の行動によりその道は潰えてしまった。
しかしそのことを悔やんでも仕方がないので、聞こえないように舌打ちを一つして戦いに気持ちを切り替えた。
両陣営とも数は三。
真っ向勝負の始まりだった。
「フォートレス!ちっ、浩太!鎧切れた!」
「わかったよ!神聖付与!」
技能により強化された鎧で敵の片手剣を受け止めた大星は、すぐさま浩太に切れてしまった神聖属性の再付与を要求した。
浩太もそれに直ぐに答え、杖から光を放ち大星の鎧に技能をかける。
「炎の鎖、くそっ!」
貴の手から生まれた炎で出来た鎖がオークの一体に向けて突き進むが、相手は大きく距離をとるように跳んでかわした。
途中で軌道を変えた鎖だったが、オークがそれを予想した回避をしていたため無意味に終わった。
状況は拮抗していた。
オークたちは神聖魔法を恐れているのか、防御主体の立ち回りをしており、大星たちは一向に一撃も与えられずにいた。
敢えて隙を演出してみたり、負傷覚悟で相打ち狙いで攻撃したりもしたが、オークたちは決して危険を冒すことはなかった。
それはまるで、時間をかければ勝てると確信しているようであった。
その行動は、大星たちを大いに焦らせた。
もし援軍でも来ようものなら、確実に均衡は崩れる。
大星たちに援軍が来ることは殆ど考えられないので、時間は完全にオークたちの味方だった。
このままではまずい、と三人が捨て身の特攻を考え始めたとき、音も立てずに両陣営の間に何者かが降り立った。
それを見た大星たちの表情は、まず絶望に歪み、次に歓喜の笑みを浮かべ、最後に困惑に眉を寄せた。
最初は相手に援軍が来てしまったのかと考えた三人だったが、何者かが人型をしていることに気づき希望を感じた。
しかし、そのものをよく見た結果、困惑することになったのだ。
そのものを見たまま表現するのであれば、スキンヘッド猫耳忍者であった。
がっしりとした頼もしい褐色の肉体を忍者装束とも言うべき服で隠し、剃り上げられた頭からは二つの猫耳が猛烈な存在感を放っている。
敵なのか、味方なのか、はたまたそれ以外の何かなのか。
大星たちには何も分からなかった。
混乱のかなたに消え思考を放棄しそうになった大星だったが、あることを思い出しなんとか平静を取り戻した。
獣人は人間の体と獣の体を疎らに持っている、と。
猫耳、つまり獣の体を持っているということは、相手は獣人であることに気づいたのだ。
そうであるならば、一〇〇年前の事件の所為で味方とはいえないが、完全に敵ともいえないと大星は考えた。
オークは魔獣である。
魔獣は魔獣以外の生物を襲うというのは常識である。
ならば、敵の敵は味方というように、せめてこの三体のオークを倒すまでは共闘できるのではないかと思い至ったのだ。
「あんた獣人だろ!今はとにかく協力してくれ!」
大星の放った獣人という言葉に現実に戻ってきた貴と浩太は、大星と同じ結論に至ったのか表情を明るくした。
しかし、その獣人の放った言葉は三人の期待とは違うものだった。
「お前たち、何者だ?」
その獣人は、オークのほうに見向きもせずに三人に誰何してきたのだ。
人間を憎んでいると言うことから、簡単に協力してくれないことまでは大星は考えていた。
だが、オークを気にも留めないとはどういうことなのか。
大星たちには納得できる答えを導き出すことは出来なかった。
なんと答えたらいいのか三人が迷っているうちに、状況は更に変わった。
「ふむ、本当に人間ですね、ユーム殿」
いつの間にか背後にもう一体オークが現れていたのだ。
そしてそのオークの放った言葉から、様々なことが大星には分かってしまった。
オークと獣人は、協力関係にある。
そして目の前の獣人は、五つの牙ユーム。つまり勝てないもの、逃げなければならないものである。
大星はもうどうしようもないことを悟った。
「さて、もう一度聞こう。お前たちは何者だ?」
その問いに大星は
「お前たちの憎む人間の勇者、大星だ」
そう不敵に笑いながら答えることしか出来なかった。
「本当によかった、娘も喜ぶ」
「我が主様も喜ばれることでしょう」
里の跡地と説明されたところの木の上に建てられた家の一つで、大星たち三人とユーム、そして突然背後に現れたオークの五人は車座に座っていた。
ここに来るまでに、三人はロリン、つまり麟太の功績について聞かされていた。
なんというか呆れていいのか感心していいのかわからなくなった三人だったが、とにかく本題を聞くことにした。
「それはよかったです。それで、りん…ロリンは?」
今まで楽しそうにうれしそうに笑っていた二人は、大星の言葉を受けてなんともいえない苦々しい表情になった。
「妖精と戯れて、龍人の国に行って、吸血鬼にあって…なんだった?」
続々と語られるロリンの所業に、口を開けて固まるしかない三人。
「魔王と出会われ、小人と過ごし、ドワーフを救い、そして人里にたどり着き」
まだ続くのか、と呆れかけた大星だったが、続いた言葉に表情をなくした。
「消息を絶たれました」
一日一話。
誤字、脱字、言葉の誤用、矛盾点などを教えていただけると助かります。
ブックマークが百件を超えていて幸せに包まれました。
ありがとうございます。
そしてこれからもよろしくお願いします。




