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42 王の起床

 豚太郎から話を聞いたロリンは、直ぐにでも里に行きたかった。

 だが、それは無理な話である。

 ロリンには里の場所が分からないのだ。

 北にあったオークの本拠地から国に戻ってきたときには、王樹という非常に分かりやすい目印があったため方向音痴のロリンでも無事に帰ってくることが出来たが、今回はそうは行かない。

 なにせ隠れ里である。隠れているどこにあるか分からないところに方向音痴がたどり着けるはずがなかったのだ。

 そして、案内人をつけるとしても今は夜であるし、最速と思わしきクーガの速さでも一日はかかる距離なのだ。

 今すぐ行くことは諦めたロリンだが、とりあえずクーガにサッサと里に帰りたいですと言いに行こう、と思い周りを見ると、クーガはいなかった。

 探知系スキルを全開にし、王樹にいないことを確認したロリンは、家兼道場に帰ったか王を見に行ったかのどちらかだと考え、道場に行ける自信がなかったため闘技場に向かった。

 闘技場に着き、医務室にたどり着けたロリンは、目的の人物と目的ではない人物を見つけた。

 目的は勿論クーガと王であり、目的外はホォクであった。狸医者は椅子に座りながら寝ていた。

 里襲撃の話で忘れてたけどそういえば豚太郎がホォク助けたとか言ってたな、とロリンは思い出した。

 眠っているホォクは、体中いたるところに包帯を巻かれ、翼も赤く染まっていた。

「ぬ、ロリンか」

 ロリンに気づいたクーガは、なんともいえない悲しげな表情でホォクを見ていた。

 とりあえずロリンは先んじて里の無事をクーガに明かした。

 クーガの表情は先ほどまでよりは柔らかくなったが、それでも笑顔になると言うことはなかった。

「王はいつ目覚めるのであろうか、ホォクは再び飛べるのであろうか…」

 クーガは、戦いが終わったことにより今後への不安が再燃し、仲間への心配も加わって普段では考えられないほど気分が落ち込んで弱気になっていた。これには北側ではブラッドケルベロスが蹂躙劇を繰り広げておりやることがなく、西側に行っても豚太郎軍が戦いをほとんど終わらせており自分の存在意義が揺れてしまったということも大いに関係していたが、そんなことをロリンは知らない。

 長い付き合いではないが、それでもらしくないとわかる言葉を吐いたクーガに、ロリンはかける言葉が見つからなかったので、行動で何とかすることにした。

 浩太製のポーションをホォクにだばだばとかけ、それにクーガが驚き固まっているうちにアンチスリープポーションを王の口に突っ込んだ。

 ホォクの体が淡い緑色の光に包まれ、王は

「ごぼっがっ…げほっげほっ…」

 と呻きながら目を覚まし、直後再び意識を失った。

 王のことは努めて意識の外に置き、クーガはホォクの翼の包帯を解いた。

 前の王の子息の一件から、ロリンの薬の効能は分かっていたための行動だった。

 するとそこには、想像したとおりの怪我一つない綺麗な翼があった。

 仲間への心配が消え去り、自分がいつに泣く弱気になっていたことに気づいたクーガは、熊牛ライオンに睨まれているロリンに自嘲気な笑みを向けた。

「すまなかったな」

 ロリンは三匹の獣を睨み返しながら手だけ振った。


 翌朝、結局起きなかった王の所為で客室で一晩を明かすことになったロリンは、オークたちの死体の処理をした。里への案内を頼めるものはクーガしかおらず、そのクーガは朝一番に王のところに行き起きていないことを確認してから後片付けに向かってしまったからである。豚太郎を通してシャロと会話が出来た、というのも大きかった。

 中心街に近い場所はブラッドケルベロスが全て喰らい尽くしており、西側は豚太郎に置いていかれた吸血鬼と化したオークが夜のうちにひとまとめにしておいてくれたので、ロリンが向かったのは北の森のほうである。

 処理と言ってもひたすらアイテムボックスにオークを回収するだけである。アイテムボックスの中の物は腐らない、というより時が止まった状態なので、燃やしたり埋めたりはたまた食べたりするために出したら液状化していました、のような事は起こりえないのである。

 森の中には、ロリンよりも早くに来ていた獣人たちがオークを中心街のほうに運んでいた。クーガはいなかった。

 ロリンはかなり怖がられながらも、彼らにアイテムボックスについて適当に説明し、一箇所に集めておいてくれれば自分が運ぶと提案した。

 あまり乗り気ではなかった獣人たちだったが、実際にロリンが大量のオークを次々とどこかに消し去るのをみて次第に協力してくれるようになった。

 ブラッドケルベロス事件の所為でロリンを化け物扱いしていた彼らだったが、一緒に作業を行い、ロリンの言動を間近で見ることで、勝手に抱いていた恐ろしいイメージは払拭されていった。

 稀に話しかけてくる獣人も現れるようになり、ロリンとしても気が楽になった。村八分状態は心に来るのである。

 獣人たちは作業が想像よりもずっと早く進み更に人間の勇者への恐怖も薄れ、ロリンは久しぶりにロリロールが出来たことでストレス解消になっていた。

 かなり北の方まで続くオークの残骸ロードは一日で何とかなるものではなく、数日の間処理は続いた。それでも早いほうであったのだが。

 ロリンにとって幸いだったのは、この森に蝿型の虫及び魔獣がいなかったことである。

 オークに湧く蛆虫など見ていたら現代っ子のロリンは森ごと焼き払いかねなかった。

 特に問題も起きずに処理は進み、その間にロリンと国民たちの間の溝はゆっくりと埋まっていったのである。


 ロリンと獣人たちが処理をしているころ、里の住人たちと豚太郎軍団も片付けと里の復興に追われていた。

 アークトスとフォウはどうしようもなかったが、それ以外の獣人たちは豚太郎軍団とすぐに打ち解けていた。

 特にシャロと豚太郎がロリンがらみで急速に仲がよくなっていった。

 愛娘とオークウォーリアーが仲良く会話しながら後片付けをしている様子は、ユームをなんともいえない微妙な表情にさせたが、特に問題があるわけでもないので何もいうことができなかった。

 二人の会話は、最初は念話を使ってロリンを含めた話か、ロリンの自慢をお互いに披露することが殆どだったが、次第に魔獣のこと、獣人のこと、豚太郎個人のこと、シャロ個人のこと、と発展していった。

 最初は自らの主の大事な人、ということで丁寧に対応していた豚太郎も、この欲望にまみれたオークとは正反対の無邪気純粋な小さな友人を好ましく思うようになっていた。

 途中であい(・・)の話をシャロがしたときは、見守るユームはひやりとしたが、豚太郎はしっかりと子供用フィルターをかけた話をした。

 仲を深めながら、豚太郎はしっかりとオークの危険性についてシャロに説いていた。

 自分はロリン様のお陰で人並の思考が出来るようになったが、他のオークはそんなことはなく、いかにロリン様がすばらしいか、と言うような話を豚太郎はよくした。

 シャロはにこにこしながら聞いていたが、本当に理解できているのかは怪しいところだった。

 シャロには、同年代の友人といえるものがいなかった。

 この隠れ里の出来かたから仕方ないことであるともいえるのだが。

 シャロの話し相手は基本ユームだけで、たまに隣の家のリチャードが加わる程度だった。

 その二人も狩りに仕事に色々とあるために、一日中一緒にいる、ということはなかった。

 故に常にそばにいてくれて同年代、に見えるロリンとその友達、のようなものだと思っている豚太郎に対してよくなついていた。

 娘に友人が増えることについては喜ばしいはずのユームだったが、その二人がその二人であることから素直には喜べなかった。

 そんな親の心はさておき、二人から送られる何の打算もない友愛はシャロの自分に対する自信のなさを少しずつ溶かしていった。


 死体の処理が殆ど終わったころ、ようやく王は目を覚ました。

 それを聞いたロリンはすぐさま王のいる医務室に駆けつけ、クーガやホォクや狸の薬師が見守る中一発殴った。

 既に自分が寝ているうちに国に起きた出来事について知らされていた王は甘んじて一撃を受けた。

 王は倒れた。

 アンチスリープポーションにより無理やり起こされた王は、まずそこにいた皆に感謝と謝罪をした。

 その後、自分の状態について語った。

 寝込んでいたのは、やはり技能の反動であった。

 さらにこの人間状態は半年ほど続くらしかった。

 それだけ語った後、王はしばらく一人にしておいてほしいと言い残し、王の私室へと向かった。

 水浴びをした王が自らの半身を確認し、中心街全体に響くような絶叫を上げるのはもうすこし後の話だった。


 特にすることもなく客室でボーっとしていたロリンの元に、王がクーガを連れてやってきた。

 客室に入るなり、王は真摯な表情でロリンに言った。

「決闘の勝者はお前だロリン、何でも申してみるがいい」

 ロリンは、特に顔色も変えずに返した。

「わたしの願いは変わりません。隠れ里の住人の平和、それだけです」

「そう、か」

 ロリンの返事を聞いた王は、ほっとしたようでありながらも苦々しいような、そんな表情をした。

 ロリンにもっと凄まじい要求をされることも考えていたためほっとしたが、結局労働力の問題などは解決していないため苦しかった。

 そんな王を見つめるロリンは、一つ考えがあった。

 流石のロリンも何も考えずに数日間後片付けだけをやっていたわけではない。

 前に聞かされた獣人の問題についても考えていたのだ。

 ロリンは一つの案を出した。

「豚太郎、オークウォーリアーの吸血鬼配下のオークを貸します。それでなんとかなりませんか?」

 なんでもしてくれる労働力が必要ならば、これでいいのではないかとロリンは考えていた。

 元オークではあるが、ヴァンパイアと化したことにより思考能力は人並み以上、脳筋獣人よりはかなり高くなっている。

 それに加えて忠誠の効果により命じられた仕事に嫌も何もない。流石にただの仕事の命令を無視することはない。

「その話、詳しく聞かせてくれないか?」

 王は少し考えた後、真剣な表情でロリンに聞いた。

 ロリンは、王に豚太郎たち吸血鬼の特性を覚えている限り話した。

 王は

「一度文官たちと話す必要がある」

 と言い残し客室の外へクーガを残して去っていった。

 王が、話があるから闘技場へ来い、と国民全員に聞こえるように叫んだのは、その日の夕方辺りのことであった。

一日一話。

誤字脱字、言葉の誤用、矛盾点に気づかれた方は教えていただけると幸いです。

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