40 あっちとこっち
遅れて申し訳ありません。
豚太郎は壊滅した西側本隊の生き残りを追いかけ、更に西へ向かった。
結果、彼は死にかけていたホォクを助けることとなった。
ホォクから事情を聞いた豚太郎は、彼を吸血鬼と化したキングに任せ、全力を以って里へと急いだ。
元よりオークとして持っていた優れた身体能力は吸血鬼となることにより更に強化されていたが、豚太郎はそれでも満足しなかった。
ホォクに自らのことを説明した豚太郎は、彼からも主のした事を聞き、どうやら自らの主がその里のものと懇意であったと考えたのだ。
故に、満足できるはずがなかった。
もし自分が間に合わずに一人でも死者、いや重傷者でも出してしまえば主に合わせる顔がなくなると考えたのだ。
オークは人間に比べステータスの値は軒並み高いが、すばやさはそれほど変わらなかった。
トゥルーヴァンパイアになり強化されても、クーガや飛んでいるホォクほどの速さを出すことは出来なかった。
それゆえ、豚太郎は自らの形を変えることにした。
豚太郎の体が一度影のように漆黒に染まり、その黒い体は液体のように滑らかに変形し、巨大な蝙蝠の姿をとった。
吸血鬼固有のスキル、蝙蝠化である。
その姿は、大きさにさえ目を瞑ればロリンが召喚したシャドウバットのようであった。
蝙蝠化は普通であれば、ロリンが使った霧化のように、何匹もの蝙蝠になることにより攻撃をかわしたり元の大きさでは通れないような隙間を通り抜けるために使うスキルである。
実際、蝙蝠化の派生スキルとして霧化があった。
しかし、蝙蝠化には霧化にはない特性があった。
それは蝙蝠になるということから必然的に発生するもの、能力値の変更である。
ソードマジックファンタジーでは、元の全能力値を足して蝙蝠として設定されている割合で再分配、のような処理が行われていた。大量の蝙蝠に変化した場合は、更にその数で割って、という風になっていた。今回豚太郎は一匹の巨大蝙蝠に変化したため関係ないが。
実際にはもっと複雑な処理が行われているのだが、今回問題となるのはそこではない。
今重要なのは、蝙蝠の能力値は早さが主として再分配されるということである。
巨大蝙蝠と化した豚太郎のステータスは、その恵まれた力や防御力などがすばやさメインに再分配された状態となっていた。
つまり、簡単に言えばすごく速くなったのである。
結果、巨大な漆黒の蝙蝠が超高速で赤く染まる森の上空を駆けるという、怖がっていいのか驚いていいのか笑っていいのかよくわからない光景が生まれた。
太陽が沈むころ、豚太郎は北のほうから南へ逃げてくるオークの大軍を発見した。
我先にと南へ向かう彼らのその目は、恐怖に支配されていた。
その様子を見て、豚太郎は疑問を覚えた。
もし声に操られているなら、恐怖を感じようが国を攻め続けるはずである。
そして、豚太郎は自らの主が北の方角に駆けていったことを思い出し、納得した。
主は北でその強大な力を発揮し、声を発していた何者かを倒したのだ、と。
だが、少し問題であった。
これでは恐怖に支配されたオークに、隠れ里が飲み込まれてしまう恐れがあるからだ。
強大すぎる力が、悪い方向に働いてしまっているようだった。
豚太郎は考えた。
もし、このことを主が知れば、深く悲しまれるだろう。
そうさせるわけにはいかん。
疲労を覚える翼に鞭打ち、豚太郎は更に加速した。
そして、ついに隠れ里にたどり着いた。
だが、そこに獣人の姿はない。
遅かったか、と一瞬考えてしまった豚太郎だったが、頭を振ってその思考を否定した。
それにしては、争った後が一切ないのだ。
吸血鬼になり更に強化された嗅覚にも、獣人の血の匂いは感じられない。
であるなら、逃げたのだろう。
そう予想した豚太郎は、近くにいた手ごろなオークを何匹か吸血しヴァンパイアにし、そのヴァンパイアに更に吸血させ幾体ものレッサーヴァンパイアを生み出させた。
そして、彼らを引きつれ蝙蝠と化し、魔力が少なくなったことにより感じる眩暈やふらつき、気だるさを意志の力で封じ込め南に向かった。
北から軍勢が来ていたため、逃げるならば南だと判断したのだ。
その判断は正しく、彼らは間に合った。
大軍に飲み込まれそうになりながらも、なんとか持ちこたえている里の戦士たちを見つけたのだ。
傷つきながらも戦う獣人たちを見て、オークの姿に戻った豚太郎は出せる限りの声を出した。
「獣人たちを守れ!一人でも死人を出せば命はないと思え!」
即席の彼の部下たちは、血に響くような叫びで答えた。
MPを使わず、適当に見かけたオークの首を刈りながらそんなにがんばらずに国まで帰ってきたロリンは、王樹の客室で不満そうに椅子に腰掛けていた。
ロリンがこんな表情をしているのは、国に帰ってきた時の獣人たちの反応が原因であった。
戻ってきたロリンは、まずオークの殲滅を終え、北側で伏せして待っていたブラッドケルベロスたちを消した。
そして呆然と立ち尽くす獣人たちに笑顔を向けながら近づいていった。
すると、獣人たちはロリンが一歩近づくと一歩下がった。
不審に思い首をかしげながらも、ロリンはまた一歩近づいた。
するとやはり、獣人たちは一歩下がった。
それを見たロリンは、何を考えたのかギリギリ目で追えるくらいの速さで彼らに突っ込んで行ったのだ。
ほんの少し驚かすつもりだっただけなのに。
とは、獣人たちが悲鳴を上げながら逃げ去り無人となった中心街北側に騒ぎを聞き迎えに来たクーガに対して、ロリンが悲しそうに呟いた言葉である。
獣人は強気を尊ぶ。
が、限度と言うものがあった。
ブラッドケルベロスをスキルを解除することにより消したロリンの行動は、獣人たちには一瞬で怪物一〇体を消滅させたように見えたのだ。
オーク共を細切れにし、焼き尽くし、最後の一匹まで喰らった化け物を、瞬殺したように見えたのだ。
王との決闘騒ぎで、ロリンが王より強いことは知れ渡っていたが、シャドウバットにより最後に何があったのかが見えなかったことと、その後の出来事の衝撃の大きさから、どれくらいロリンが強いのかと言うことは獣人たちは分からずにいたのだ。
人間の勇者の強さを、獣人たちは測りかねていたのだ。
そんなところで、ロリンは獣人たちのことを思うがために出し惜しみをせずに全力を出してしまった。
結果がこれである。
報われなかった。
だからロリンが悲しさを覚えても、少しした後に不満に思っても、責められるものはいないだろう。
とにかくそんなわけでロリンは足をぶらぶらさせ頬杖を突き唇を尖らせながら客室の椅子に座っているのである。
王はまだ、目覚めていなかった。
ロリンにしてもクーガにしても戦いが終わった後のあれこれを王に出来るだけ早くしてもらわなければならないと考えていたため、客室で待っているのである。
いろんなことに対する苛立ちから、人差し指で机をとんとん叩きクーガをなんともいえない嫌そうな表情にさせたロリンの頭に、突如声が響いた。
『我が主、豚太郎です』
「うわぁ!」
ロリンは椅子から飛び上がって周りを見渡した。
クーガが怪訝な顔をするが、それを気にする余裕はない。
探知系スキルも全開にして探ったが、豚太郎の姿は見えなかった。
なんだ、まるで直接脳内に、と考えたロリンは、ふと思い出した。
ソードマジックファンタジーにおける吸血鬼の設定で、主従関係にある吸血鬼たちはある程度の距離までなら念じることで会話が出来る、というものがあったことを思い出した。
ゲーム内では、フレンドには通話をすることが可能でモンスターはそもそも会話が出来なかったため特に意味がなくスキルも存在しなかったただの設定だったのだが、どうやらこちらの世界に来たことによって実装されたようだった。
念話と呼ばれるその技を使われただけだと気づいたロリンは、落ち着いて椅子に座ってからこちらも念じて返した。
『Fチキ下さい』
『我が主…Fチキとは何ですか?』
通じるはずのないネタを素面で放ったロリンは、今度こそまじめに返した。
悲鳴を上げたことに対する何の説明もなく、突然楽しそうに口元を歪めて座っているロリンをみて、クーガが表情に怪訝さが増したことにロリンは気づかない。気づいたところで、だが。
『忘れて。それよりそっちに何かあったの?』
『は、隠れ里のことなのですが』
「隠れ里ぉ!?お前どこまで行ってんだよ!」
ロリンは再び立ち上がって目を見開いて叫んだ。
豚太郎には中心街のロリンが入って来た側のオークを、獣人を守りながら倒してくれという旨の命令を下したはずである。
たしかにそっち側に里あるけど、と考えながら呆れたような驚いたような顔でロリンは再び座った。
クーガは首を横に振って静かに客室を出た。
一日一話。一話が長くなりそうでしたので一度切りましたが、結局明日の分が長くなるだけのきがしてきました。もう少し長くてもかまわないでしょうか?
誤字、脱字、言葉の誤用、矛盾点などありましたら教えていただけると幸いです。
感想、評価、ブックマークをいただけるととてもうれしいです。




