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38 それぞれの蹂躙と

「交代の時間だよ」

「ん、ああ分かった」

 フォウの声で、ユームは目を覚ました。

 木の上で一度頭を振り意識をはっきりとさせたユームは、アークトスを含む三人の十傑と、一〇人ほどの里の戦士たちと共に北へと向かった。

 まだ日は昇っておらず、大した時間眠れてはいないが、そう疲労がたまっているわけでもなかった。

 目的地のない撤退戦はおおむね順調と言えた。

 圧倒的な数の本隊に比べて、こちらに向かってくるオークたちはたいした量ではなく、更に散発的だった。

 それでも里に残っていれば囲まれてどうしようもなくなる程度の数ではあるのだが。

 意識を研ぎ澄ませながら、ユームたちは北へと向かう。

 里の戦士たちは三つ、十傑たちは二つに分かれ、戦士と十傑あわせて十五人ほどで交代で戦闘していた。

 十傑は休憩時間が短くなり疲れやすくなるわけかただが、そこは十傑、その程度でへばるような体力ではなかった。

 しばらく北に進むと、ユームや他の十傑たちの感覚がオークが近いことを告げた。

「今回も大漁だなぁ!ひゃははははぁ!」

 それが分かると、誰よりも先にアークトスが突っ込んでいった。

 とめても無駄と既に分かっているユームたちは、冷静に今の状況を考えていた。

 やはりオークたちは国を狙っていたようで、ユームたちが南に下がれば下がるほど敵と出会う頻度は低くなっていた。

 つまり事態が収束するまでの時間稼ぎとしてはとてもうまく行っているということになる、はずである。

 アークトスが戦っている場所に到達したユームは、その考えが大分正しいのではないかと思った。

 敵の数は少なく、ウォーリアーなどもおらず、統率も取れていない。

 向かってきたオークの殲滅を果たし、朝日を浴びながらユームは希望を見た。


 西へ西へと森の中を向かった豚太郎は、ついに西側の敵本隊にたどり着いていた。

 一〇〇匹近いウォーリアーとそれに守られたメイジ、そして最後列でそれを見守るキング。

 ウォーリアーやメイジなどという呼称を豚太郎は知らなかったが、どういうものであるかは知っていた。

 そして、キングのことも知っていた。

 オークたちに対して、豚太郎が従わされてきた声に近い(・・)命令を下せる存在だ。

 だが、勿論今の豚太郎はその命令になど惑わされない。

「参る!」

 並み居る通常種のオークを切り伏せながら、豚太郎は叫んだ。

 豚太郎の声に、本隊のオークたちが気づく。

 その顔に、仲間のオークが離反した驚きの色などはない。

 豚太郎は自嘲気に笑った。

 そう、キングを含めてその本質はただの操り人形でしかないのだ。

 きっと自分が敵に回ったことも、既に声によって知れているのだろう。

 同種族であったはずのウォーリアーをいとも容易く切り伏せながら、豚太郎は思った。

 やはり、偉大なるは我が主。

 あの声の呪縛から自分を解き放ち、さらにはまともな思考が出来る頭脳まで与えてくださった。

 そして、この力も。

 ウォーリアーの壁に切り込んでいき、囲まれてしまった豚太郎の体が装備ごと黒い霧となる。

 霧と化した豚太郎は、なんとも簡単にキングの背後にたどり着いてしまった。

「御免」

 何に向かってかは分からないがそう呟いた豚太郎は、状況を全く理解できずに先ほどまで豚太郎がいたところを見つめているキングの首筋に、元から長かったのに更に長くなった牙をつきたてた。

 やはり、恍惚とした表情で血を吸われるキング。

 部隊の主のその状態に、ようやくメイジたちが気づいた。

 だが、既に遅い。

 キングの瞳は血のような赤色に染まり、知性の色も備えていた。

 僕の創造。

 生まれたばかりのトゥルーヴァンパイアである豚太郎が創造できるのは、ただのヴァンパイアである。

 それでも、知性は人以上にあり、ちからもまた、である。

 声の呪縛から解き放たれたキングに、主との吸血鬼としての力の差を痛烈に感じながら豚太郎は命令した。

「部隊を壊滅させろ」

「わかった」

 元部隊の主は、己の部隊を消滅させるその命令にいとも容易く従った。

 大斧を振り回しメイジたちの命を刈り取るキングを見ながら、豚太郎は思う。

 通常のヴァンパイアは、デイウォーカーではない。

 つまり、日の光を受ければただではいられないと言うことである。

 今は森の中にいるため大した影響を受けていないが、彼は夜の住人になったのである。

 否、自分がしたのだ。

 己の新しい同胞を多少哀れに思いながらも、豚太郎も剣を振るった。


「ぐるあああああああ!!!!!」

「があるっるるるる!!!!」

 目の前で繰り広げられる惨劇を目にしながら、クーガは心の中でそれらを生み出したであろう人間の少女に悪態を吐いた。

 何をしてくれているんだ、と。

 クーガの目の前では、三つも首をもった体長五メートル以上の赤黒い色をした犬が、思うがままにオークたちを蹴散らしていた。

 長く鋭いつめが生えた腕を振るえばオークは細切れになり、口を開けば黒い炎が消し炭にする。

 国民皆兵で戦いを好む獣人たちも、流石に挑もうとは思えなかった。

 その魔獣か何かは、たとえ攻撃を受けようとも獣人たちに危害を加えることはなかったため、挑む意味もなかったのだが、例えその牙をこちらに向けてきても何人が対抗するのかがクーガには分からなかった。

 全ての力を使えば、自分ならば一匹は狩れる。

 そう思いながらも、クーガは首を横に振った。

 十傑一つの牙の、獣人たちの中で二番目に強い自分が一匹狩れたからといって何なのだ、と。

 そう、ロリンが生み出したであろうそれらは、一〇匹いるのだ。

 既にオークの部隊は壊滅、しかしその化け物たちは一匹もオークの存在を許さぬとばかりに追い詰め引き裂き燃やし喰らっている。

 この後始末はどうするのか、と色々な考えに支配されそうになったクーガだったが、一度深呼吸をしてごちゃごちゃになった感情を吐き出した。

 とにかく、北側に自分の役目はない。

 ならば、西に行くまでだ。

 呆然と化け物の蹂躙劇を見つめていた獣人たちに声をかけ、クーガは西に向かった。

 豚太郎のことなど、クーガは知らない。


「うげぇ…」

 最早何本目か分からない浩太製マナポーションを飲み干し、ロリンは少女があまり出すべきではない声を出した。今更過ぎるが。

 ロリンの周りに、オークはいない。

 否、生きたオークはいない。

 あたりを見渡せば、まるで森の地面がオークに変わったかのように、既に事切れた大量の豚顔が倒れていた。

 通常種も、ウォーリアーも、メイジも、キングも、一切の区別なく。

 そのオークたちは、一見何の外傷もないように見えた。

 しかしよく見れば、直径一センチにも満たない大きさの穴が体を貫通するように開いているのを見つけられただろう。

 そして、もしオークの体に詳しい人が見つけたのであったら、その穴が背筋が冷たくなるほど精確に致命的な部分だけを貫いていることが分かっただろう。

 この惨状を作り上げたロリンは、ひとつ伸びをすると、更に北に向けて走り出した。

 ロリンのスキルは、既に生きているオークが北にまだまだたくさんいることを察知していた。

 走り、直ぐにその場所にたどり着き、右目を瞑る。

 すこし後には、先ほどとさほど変わらぬ光景がそこにも出来た。

「うえぇ…」













「損害、大。続行不能と判断。原因…不明」

 人里から遠く遠く離れたその場所に、感情を一切感じられない少女の声が響いた。

 少女の周りには光を上げて、様々な数字や記号を含む文字が姿を次々に変えながら浮かんでいた。

「クエスト【獣人の国を救え!】破棄を決定」

 少女が言葉と共に右手を振るうと、文字の何列かが光を失い消えた。

「次のクエストの開始、棄却。原因を探るべきと判断」

 今度は左手を振るう。

 すると、何もなかった空間に光る文字が浮かび上がる。

「魔力の消耗…想定内。問題はないと判断。…の消耗…異常あり。召喚システム……異常あり……」

 少女以外に誰もいないその場所に、機械的な声が響き続けた。

一日一話。

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