31 後始末と
下ネタ注意です。
決闘を終えたロリンは、クーガと共に王樹の客室にいた。
王の客をもてなすものといわれると少し首を傾げたくはなるが、それなりに良くできたシンプルな木製の椅子に座り、ロリンは遠い目をしていた。
ロリンが思い返しているのは、隠れ里での十傑との戦いを終えてからの自分の行動だった。
シャロの平穏な生活のため仕方なかったとも思うが、どう考えても理想の少女のやることではなかった。
理想の少女は一国の主に喧嘩を売られても買わないし罵声を浴びせながら切りかかったりしない。
まして――大事なところを切り落としたりしない。
「ぁぁぁぁ…」
棒状のそれを断ち切った感覚を思い出し、声にならない声を漏らすロリンとテーブルを挟んで反対側で、クーガも同じような椅子に腰を下ろし、やはり遠い目をしていた。
クーガの脳裏に何度も何度も繰り返し映し出されているのはほんの少し前の決闘、その後始末であった。
蝙蝠の群れで覆われた舞台から自分たちの王と人間の勇者の悲鳴が聞こえ、覆いが消えたと思ったら自分たちの王がアレを切り落とされ気絶していた、というショッキングに過ぎる出来事を国民たちは受け止めきれずほとんどのものが呆然としていた。
クーガも一瞬思考が止まったが、流石は十傑というべきかすばやく立ち直った。
そして、手に残ったアレを断ち切った感触を消すためなのか光を失った瞳で両手をこすり合わせ続けるロリンと、三匹の獣に心配そうな顔で囲まれながら股間から大量に血を流し気絶している王とその落し物を回収し、闘技場備え付けの医務室に運び込んだ。
普段は王樹に勤めている魔法を使わない治癒職である狸族の薬師は、窓から決闘の様子を眺めていたようで行動を停止していたが、クーガが緊急事態ということでその狸顔の頬を張り再起動させた。
動き始めた男に王の止血を頼み、クーガは舞台に出た。
まだ固まっている獣人たちを見回し、クーガは出せる最大の声量で以ってロリンの勝利を宣言した。
クーガは国民たちが騒ぎ始める前に、ロリンの勝利を確定させようとしたのだ。
獣人族の決闘に明確なルールなどないが、どちらかが死ぬまで続けるなどと前もって宣言していない限り戦闘続行不能になったものの負けとして問題はない。
であるからして、ロリンの勝ちは疑いようもないのだが、今回は事が事である。
王が人間の姿になったりロリンが戦いの様子を見えないようにしてしまったり、何よりもロリンが憎き人間の勇者であるため、物言いがつくことも十分考えられた。
しかし、十傑最強一つの牙が誰よりも先に宣言してしまえば、それに反対するものはよっぽどのことでない限り現れない。
クーガ自身人間、特に勇者への受け継がれてきた恨みを全て捨て去れているわけではないが、勝者は勝者であるし、ロリンのことは信頼できていた。
故に、ロリンを助ける行動にでたのだ。
十傑一つの牙の宣言は、少し時間を置いてから着実に国民たちの間に浸透していき、観客たちは自らの王が負けたことに驚愕し、崩れ落ちるものさえいた。
しかしクーガの予想に反して、意外にもロリンを賞賛する声もちらほら聞こえてきた。
偉大なる王の敗北は、成り立ちから考えて小さくない打撃をこの国に与えるだろうが、なんとかなるかもしれない、とクーガは感じた。
寂しそうに舞台の端で固まって座り込んでいる三匹の獣を一瞥し、自分ではあれらをどうするか判断するのは不可能だと断じたクーガは、急ぎ医務室に戻った。
クーガが戻ると、既にロリンは正気に戻っていた。
そして王の眠るベッドの前に立ち、何か覚悟を決めたような瞳で王の股間を見ていた。
すさまじくいやな予感がしたクーガは、急いでロリンと王の間に入ろうとした。
ロリンの手には王の子息と何か緑色をした液体が入ったビンが握られており、クーガにはロリンが何をしようとしているのか分からなかったからだ。
「ロリン!お主何を!」
声を上げて二人の間に飛び込んだクーガをみて、ロリンはようやく医務室に誰か入ってきたことに気づいたようで目を丸くしてすばやく一歩後退した。
そしてそれがクーガだと気づくと、ほっとしたように表情を綻ばせ、ビンの中身を揺らしながら何をしようとしていたのか説明した。
「これ、薬です。くっつきます」
何をどこに、とは言わなかったが、クーガは自分のいやな予感が全くの勘違いであったことを知った。
「いや、すまぬ…。先ほどまで死闘を演じておったからな、一服盛りでもするのかと勘繰ってしまった。本当にすまぬ」
よく考えればすぐそこに何らかの作業をしている狸族の薬師がいるのだから、そんなことはあるはずがなかったと気づき、クーガは少し恥ずかしくなった。
首の後ろをかきながら頭を下げるクーガに、ロリンは笑いながら
「いえいえ、そのつもりなら首を刎ねますから」
とクーガと狸を固まらせるジョークなのか何なのか分からないことを言った。
頭を下げ、首の後ろに手を当てたまま目の前でクーガが硬直したことにロリンは気づかなかったようで、眠る王に向き直るとやろうとしていたことに戻った。
一つ深呼吸をしてから目を見開き
「はあっ!」
と気合の声を上げて王の下半身を隠していた布を剥ぎ取った。
露になったそこをできるだけ視界の端のほうで見ながら、もとあった位置にもとあったモノをあてがい、ビンのコルクを口で抜いて中の液体をかけた。
するとたちまち王のそこが淡い緑色の光を放ち始めた。
硬直が解けたクーガと狸族の薬師が見守る中数秒ほどそこは神秘的に光り続けた。
光が収まると、そこには接ぎ跡も見えないほど綺麗につながった王の半身が姿を現した。
それを見てほっと一息ついたロリンとクーガと違い、狸は一人まじめな顔をしてロリンに話しかけた。
「その薬、何で出来てるんだい?こんなもの見たことないよ。人間の秘薬か何かなの?」
真剣な瞳でロリンを見つめる狸の顔を見て、ロリンは早まったかと少し悔やんだ。
どうやらロリンが使ったポーションは王の決闘で用意された薬師――ロリンは薬師とは知らないが国一番の医者か何かだろうと思っている――でも知らないようなオーバーテクノロジーじみたものだったのだ。
魔法があるらしいのだからこれくらいのポーションなら使っても大丈夫だろう、という考えすらロリンにはなかった。
ただ男がそれを失うというのが哀れで考えなしに人前で使ったのだ。
ここで馬鹿正直にソードマジックファンタジーにおける高級ポーションの素材名など言っても仕方がない、と考えたロリンは悪いとは思ったが適当にごまかすことにした。
「わたしの故郷の秘薬です」
「じゃあ――」
続く言葉が一個譲ってくれか素材を教えてくれかは分からなかったが、言われてから断ったのでは罪悪感を感じそうだったのでロリンは先んじて断った。
「これが最後の一個で素材も製法もわたしは知らないんです」
「うっ…」
それが真実でないことは狸男には分かった。
だが、よく考えれば説明できないような秘密の物を使ってまで自分たちの王のこれからをロリンは救ったのだ。
それに気づいた狸は、それ以上追求せずただ一言
「ありがとうございました」
と言った。
何故感謝されたのかよくわからなかったロリンだったが、曖昧にうなずいておいた。
しばらくしても王は目覚めそうになかったので、クーガの勧めでロリンは王樹の客室に向かうことにした。
十傑が呼び出されて待たされる時にも使う場所だったので、クーガはそこで待っていれば問題なかろうと思ったのだ。きちんと狸族の男に王への言伝も頼んだ。
目覚めた瞬間ロリンを見たらひと悶着あるだろう、と考えたのもある。
そして冒頭に至った。
ロリンは少し落ち着いて冷静になった結果、これまでを振り返り反省しているわけだが、クーガが遠い目をしている理由は違った。
反省ではなく、どうしようもないことを思い出してしまったからだ。
王樹に向かいながら、クーガは違和感を感じていた。
そして客室に着きいつも座る椅子に腰を下ろしたとき、ふと頭に浮かんでしまったのだ。王のそこをくっつけるときの光景が。
そして気づいてしまったのだ、違和感の正体、ロリンがよく見ずにつけたせいで、王のアレが上下逆になってしまっていたことに。
クーガは遠い目をした。
そして決めた。このことは墓場まで持っていくと。
幸いロリンは気づいておらず、狸族の薬師も薬のほうに気を取られていて分からなかったようだったので、自分が黙ってさえいれば後は王と後の王妃だけの問題となる。
「はぁ…」
クーガはため息を吐いた。
決闘前と後で、悩むことのレベルが変わりすぎていた。
それを喜ぶべきなのかどうなのか、クーガには判断つけかねていた。
少し空気を入れ替えよう、とクーガが窓――と言ってもガラス製などではない――を開けたとき、それは聞こえた。
「オークだ!オークの大軍が攻めてきたぞ!」
更なる事件の発生を告げる誰かの声だった。
王は未だ、医務室で眠っていた。
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