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23 獣の王その2

メンテナンスの影響で遅れましたことをお詫びします。

 にこにこ、というよりはにやにやと言うべき笑みを浮かべた獣人の王の姿に、ロリンは思い出していた。

 威圧感や覇気のようなもので惑わされていたが、相手は王、今回の件の黒幕で最も獣人らしい獣人(脳筋の中の脳筋)だということを。

 王は笑いながら続けた。

「何故か、といえば簡単だ。俺が王だからだ」

 理由になってねーよ、といいかけたが王がまだ続けようとしていたのでこらえた。

「俺が獣人の王、一番強い獣人だ。だからすべての国民は俺のモノだ。俺のモノが俺から勝手に離れることは許せんし、俺のモノを傷つけることも許さん」

 ガキか、と思ったが、それだけでもないようだ、とロリンはすぐに認識を改めた。王としての責任のようなものが分かっていないわけではないのだ、と。

 当たり前か、とも思った。俺が一番強いから一番偉い、それだけの馬鹿が頭だったのならこの国は滅んでいる。存続しているということは、統治者として必要な何かは必ず持っているはずなのだ。

 ロリンは昨日夕飯をいただきながら、クーガから今代の王についてある程度聞かされていた。

 完璧とはいえないが、愚王ではない、と。

 ならば何故。

「では聞きたいのですが、何故臣民等級制度という自らのモノ同士が傷つけあうような法を改めないのです?」

 当然の疑問だった。

 相手は獣人の中の獣人。戦闘狂であることはもちろん、家族愛、つまり国民すべてへの愛も獣人で最も持っているはずなのだから。

 王は少し感心したような顔を一瞬だけした後、先ほどとは違う笑み、自嘲の色が多分に含まれる笑みを浮かべた。

「人間よ、獣人は馬鹿だ」

「は?」

 間の抜けた声を出したロリンを、責めることは出来ないだろう。

 なぜなら、王の口からは出てはいけないような言葉が聞こえてしまったからだ。

 聞き間違いか、と思ったロリンだったが、続く王の言葉に少しだけ納得した。

 くくく、と喉の奥で笑い、王は自らの決断を語った。

「獣人は馬鹿だ。狐族や狸族、そこの一つの牙や三つなんかは多少違うが、他は考えなしだ。国を維持するために必要なことなど、理解せんし、やろうともせん。井戸などによる上水道の整備。畑による狩に頼らない安定した食料の供給。その他の細々としたものを、俺の愛しき同胞(はらから)たちは何故必要なのかを分かろうともせん。もともと俺たちは家族か家族がいくつかがまとまった村とも言えんもので生活してきた。それならば狩をし、山菜を採るだけでも問題にはならなかった。だがな、それではもうだめなのだ。力をまとめねば勇者には勝てん。そして、勇者が二度と来ないという確信などない。だからな、国という括りを維持するために、これから何百年先と続けるために、必要なことを出来る者たちが必須だったのだ。獣の血が薄い者たちは、力はなかったが頭は回った。初代王の考えは知らん。俺はただ、あった制度を利用したまでだ。文官の幾人かや畑や井戸の整備などは狐と狸もやってくれたが、下水の処理等のほかの獣人嫌がる仕事も、無理やりにでもやらせるものが必要だった。それが愛するものたちの中で差別を生むことも分かってはいたがな。最善だったとは思ってはおらんが、必要なことだったとは信じている。結局それで五つの牙にはその必要な者たちを連れて国を抜けられ、十傑と王への信頼は揺らぎを見せ始め、国も緩やかに死に始めるだろう。もとから獣人は国などという大きな集団で暮らす生物ではないのだからな、王と十傑の強さへの信頼と、いまだ勇者襲撃から一〇〇年ほどしかたっていないから続いているだけだ。そして、なんとかせんと残った者たちだけでぎりぎり運営していたところ、隠れ里を偶然見つけた。起こした行動と結果は、知っているだろう?」

 王は既に、笑ってはいなかった。

 ロリンは、何もいえなかった。少し前の自分を笑って罵ってやりたかった。

 国の頭は、一番国のことを考えていた。

 自分の家族を思って国を抜けたユームが悪いとは、ロリンには思えなかった。かといってこの王が完全に悪いとも、もはや思えなかった。

 答えを見失ったロリンに、三度、今度は獲物を前にした肉食獣のような笑みを王は凶悪に浮かべた。

「だが、幸運は訪れた」

 何を言ってるんだ、と思い顔を上げたロリンを、王はその力強い獣の瞳で見ていた。

「一つに人間の少女に負けたと報告されたときから、疑ってはいたが、やはり正しかったようだな」

 獣たちの王は席を玉座を立った。

 ロリンが隣を見ると、クーガも王が何を言っているのかは分からないようだった。

 王は混乱する二人を一瞥し、跪く二人を素通りし、大きな扉を軽々と開けた。

 何が起こっているのかわからないロリンとクーガが振り返ると、王は一度振り返っていたずらが成功した少年のような種類の笑顔を見せた。

 そして、顔の向きを謁見の間の外、中心街のある方向へ戻し、大きく息を吸い込み、叫んだ。

「太陽が我らの頭上に昇ったとき!闘技場にて王と人間の勇者の決闘を行う!」

 体の芯まで響く巨大な声だったが、ロリンには何を言っているのか理解できなかった。


 謁見の間に戻ってきた王は、何食わぬ顔で玉座に座りなおした。

 そして混乱の極みにある二人にネタばらしをした。

「勇者よ、お前は人がしゃべっているときに、相手の口元を良く見たことがあるか?」

 ユームとシャロしか知らないはずの、自分が勇者だという秘密を見抜いた仕掛けがそこにあるのか、とロリンは王の口元を凝視した。

 王はそれを確認して口を開いた。

「どうだ、これでわかったか?」

「あ」

 ロリンは、大星が初日に発見した聞こえる言葉と口の動きが違うという事実に今更気づいた。

 口をあけたまま固まっているロリンに、王は小さな子供にするようにゆっくり説明した。実際ロリンの見た目は小さな子供である。

「口の動きと言葉が違うだろう?勇者は、なぜかしゃべる言葉と聞こえる言葉がかみ合っていないらしいのだ。理由は知らん。俺も先代の王が初代王に宴の席で聞いたという眉唾ものの話を、やはり宴の席で聞いただけだったのだが、まさかこんなところで役に立つとはな」

 くくく、と喉の奥で笑う王。

 口をパクパクさせながらうなずいているロリンを一瞥してから、クーガが尋ねた。

「それは、こやつが勇者だと看破した理由は分かりました。ですが、何故それが幸運であると?その上、決闘を行うと?」

 王は、そんなことも分からんのか、といった顔でクーガを見た後、真剣な表情で語った。

「簡単な話だ。勇者が三等臣民とユームを扇動し、国に攻めてきた。俺が決闘をもちかけ倒した。ユームと隠れ里の者たち、それにここの小娘は犠牲になるが、国は威信と労働力を取り戻す。いや、王と十傑に対する信頼は以前より増すだろう。これを幸運といわずして何という?」

 クーガは、表情を強張らせた。そして問うた。

「…我が友とその娘を、犠牲にすると?」

「そうだ。国がため、犠牲になってもらう」

 王はためらいなく答えた。

 それを見てクーガは、王の決意の固さを知った。もう王は止まれないのだ。一度獣の血の薄いものたちを犠牲にすると決断したが故に、その犠牲になったものたちのためにももはや止まれなかったのだ。

「分かりました」

 クーガはうなずくしかなかった。

 獣の王は、うなずくのをやめ今度は頭をひねって呻いているロリンを一瞥し

「では、正午に闘技場で会おう。まさか逃げんよな?」

 とだけ言って謁見の間を去った。

 残された二人は、しばらくの間無言であった。

本日、夜九時以降にもう一話投稿を予定しています。

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