21 ユームとクーガ
ロリンは、忍者たちに囲まれて質問攻めを受けながら、昼食として草と菌糸類を食した。里と違うのはきのこの種類が増えているのと、山菜に加えて野菜と言えなくもないようなものが出てきたくらいだった。
朝肉昼草夜肉なのは国だろうと何だろうと変わらないようだった。
忍者たちの質問は個人的なことから何から多岐にわたったが、大半のものがシャロについて聞いた。
どうやら、ユームがここの道場とクーガに関係があるのは間違いないな、とロリンは確信した。
塩気があまりなく味気ない食事を終え、クーガはすぐに王樹へと向かった。
忍者たちは食後すぐ訓練をはじめた。
わきばらとか痛くならないのかな、とロリンは心配したが、大丈夫なようであった。
訓練はいわゆる忍者的な手裏剣を投げたりするようなものではなく、木刀二刀流で試合をしたり形を練習したり筋トレしたりと普通の格闘技の道場のようであった。
しばらく許可を取って眺めていたロリンだったが、すぐに飽きた。クーガが影分身を使ったのだから忍者忍者した修行もあるはずなのに、とロリンは思ったが、今日は行わないようであった
暇になったロリンは、休憩中であったり怪我をしてしまったりと話しかけても問題なさそうな人を見つけてはユームとクーガについてたずねてみた。
すると、聞いたほとんどの人が嬉々として語ってくれた。
彼らの語る内容から、ロリンは色々と理解した。
獣人の国は、当たり前だが中心街だけではない。中心街は確かに広いが、国民のすべてが住めるほどではないのだ。
つまり、国の庇護下にありながら、大半の国民たちは中心街ではなく、周りに点々とある村や里に住んでいるのである。
ユームとクーガはそんな里の一つで生まれた。
ユームの生まれた里は比較的獣の血が薄い者たちが住む里だったが、ユーム自身は手、足、首から上以外すべて獣の体というそれなりに濃い血をもっていた。
そんなユームは自然の中ですくすくと育ち、強い血の影響もあってか子供ながらにして里の中では一番強くなってしまった。
そのことは獣人の子供を天狗にさせるには十分すぎた。
彼は両親の反対を無視し、十傑になると言って里を飛び出し中心街へ向かった。
同じころ、比較的濃い血を持つ里で生まれた完全な獣の体を持つクーガも、大体同じような流れで中心街へと向かっていた。
二人はほとんど同時に中心街の入り口に着き、そこで出会った。
天狗と天狗が出会えば、始まるのは鼻の折り合いである。一言二言交わしただけで二人は戦い始めた。
結果として身体能力で勝るクーガが勝利を収めたが、二人の実力に差はないといっても過言ではなかった。
壮絶な戦いを終えた二人は、互いに手をとっていた。鼻は二人とも折れたのだ。生まれてはじめてみる中心街の景色に心を奪われた後だったと言うのも関係していたのかもしれない。世界の大きさと言うものが少し分かったのだ。
そんな二人の様子を見ているものがいた。
前師範である。
子供とは思えない戦いを繰り広げたユームとクーガを見た前師範は、硬い握手を交わす二人に喧嘩を売りぼこぼこにし道場に連れて行った。
普通の人間ならそんな訳の分からないことをするものを師匠とすることはないだろうが、武を尊ぶ獣人の子供二人にとってはそうではなかった。
今まで最強だった自分と、同じくらい強い奴をまとめて叩きのめしたその力に、まだまだ子供の二人はほれ込んでしまったのだ。
もとから中心街で何をしようと具体的に考えていたわけではなかった二人は、前師範の下でまじめに訓練に取り組んだ。
一時期天狗になってはいたが、それは獣人の性が周りに誰も自分より強いものがいないと言う状況で暴走してしまったからであって、二人とも根はまじめだったのだ。
子供二人に喧嘩を売り、自分より強いものと戦うため王にすら戦いを挑んだことがあると言う前師範だったが、修行など戦うことに関することと、身内に対しては真摯であった。
非常に獣人らしい獣人だったのである。
修行を続ける二人はどんどん強くなっていった。
二人ともまじめであったため、身体能力に勝るクーガのほうがいつも一歩先を行っていたが、二人の仲は至極良好だった。
力に対する真摯な姿勢を、お互いに認め合っていたからだ。
その後にも色々とあったらしいが、大きな問題はなく大人になった二人は次期十傑候補と言われるほど強くなっていた。十傑一つの牙を師匠に持ち、一日の大半を修行に費やしていたのだから当然ともいえるかもしれないが。
実際に、二人は順当に十傑下位の者を公式の場での決闘で下し、十傑に名を連ねた。
そして、そのときは訪れた。
順調に、順調に力を伸ばし続けたクーガは、ついに二つの牙になった。
残るは一つの牙、己の師のみである。
自らの師であり恩人であり、第二の親と言っていいほどの存在となっていた前師範に決闘を挑むことをクーガは悩んだという。
二人の師は一時は王と並ぶと言われるほどの猛者であったが、老いが彼の力を少しずつ奪っていっていたのだ。
勝てるかどうかは分からないが、死力を尽くす十傑の位を賭けた決闘は、必ず自らの師にいえぬ傷を与えるであろうことはクーガの想像に難くなかった。
悩むクーガを救ったのは前師範その人だった。
彼は言った
「老いて死ぬは獣にあらず」
と。
前師範は、小さいころに勇者の悲劇を実体験していた。
それが故に、獣人らしく、否もはや獣らしく生き、死にたいと願っていたのだった。
前師範の意志を、覚悟を理解したクーガは即座に決闘の届けを王に出し、戦い、そして勝った。
クーガは若くして一つの牙になり、師範になり、決闘で負った傷が原因で前師範は亡くなった。
名実共に、王を除き獣人最強となったクーガは前にもまして熱心に修行に取り組んだが、ユームはそのころからそうではなくなっていた。
毎日道場に来はするが、一日中修行はしなくなっていた。
師範がひとつの牙になり、その唯一無二の友も高みを目指していくのだろうと思っていた弟子の忍者たちは、困惑した。
修行をしないユームなど彼らには想像もつかなかったのだ。理由も全く分からない。
そして、彼らは同じ思いを抱いているであろう師範クーガの元に向かって言った。
何が理由かは分からないが、友が腑抜けていてそれでいいのか、と。
クーガはしかし、悲しそうな苦笑いを浮かべてこう返したという。
「武を尊ぶも獣人、家族を愛するも獣人だ」
クーガは、ユームに恋人が出来たことを知っていたのだ。
クーガもユームも、たとえ酔ってもそのあたりの詳しい話は一切しようとしなかったため、何があったのかはわからないが、ユームと恋人はクーガが嫉妬しそうになるほどすぐに仲良くなったらしい。
納得した弟子たちと、幼いころからの唯一無二の友に祝福され、ユームとその白狼族の彼女はゴールインした。
そして、愛する二人は当然のように子をなし――。
忍者たちにとっての目指すべき目標とも言える二人の話を乞われれば、答える以外の選択肢を彼らは持っていなかったのだろう。
楽しそうにうれしそうに、そして最後には必ず悲しそうに終わる彼らの話を聞いて、ロリンは考え込み落ち込んだ。
自分は数年間を寝る間も惜しんでゲームに費やし、その中で強さを得、その強さで持って彼らを倒してしまったが、ロリンにはそれが酷く最低な行為だったきがしてしまったのだ。
「うぎぎぃ~、でも負けるわけにもいかなかったしぃ~」
奇声を上げながら与えられた客間を転げまわるロリン。
そんな彼女の姿を二つの鋭い瞳が射抜いていた。
「お主は何をしておるのだ…」
呆れたようにいったのは、帰ってきたクーガだった。
「ノックしろはげぇ!」
ロリンは今まで落ち込んでいたとは思えないほどの早さで立ち上がり、謂れのない暴言を吐いた。
「ぬう…悪かったが禿げてはおらぬ…」
クーガは少し落ち込んだが、すぐに立ち直って言った。
「そうだ、王からの伝言だ」
真剣になったクーガの言葉に、ロリンも居住まいを正した。
それを見たクーガは、一つうなずいて言った。
「明日の朝、王城にて待つ。と」
短かった。もっと装飾過多な言葉が来ると思っていたロリンはずっこけかけたが、そもそも獣人の王だしそんなもんだなと気づき、耐えた。
「では伝えたぞ」
言うなりクーガは出て行った。その後姿は少しだけ寂しそうにも見えた。
もしかしたら早く自分に伝えようと思ってノックを忘れたのかな、と考えロリンは少しだけ許すことにした。
クーガが去った客室で、ロリンは再び考える。
しかし今度は落ち込まない。
クーガと話し、思い出したのだ。
シャロの幸せのために、力はまだ必要なのだ、と。
ユームとクーガのように人生をかけて手に入れた力ではないが、少女を一人幸せに出来るならそれでいいじゃないか、と自分に言い聞かせた。
そしてそれは、ロリンには正しいことのように思えた。
自分のためではなく誰かのために使うなら、降って湧いた力にも意味はある、と。
夕食の準備が出来たことを告げる忍者の声が聞こえ、すこしすっきりした表情のロリンは扉を開けた。
出てきたのはやはり生肉だった。
一日一話。まじめな話を書こうとすると時間がかかってしまいます…。
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