↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/51

18 国へ

遅くなりました。

「決めた、王と話つけてくる」

 据わった目のままロリンが言った。口調も態度も理想の少女像からはかけ離れてしまっている。

 国を堕とすどうこうはユームとクーガが必死になってとめた。他の口枷がされたままの十傑たちも身をよじって抗議した。

 しかし次のロリンの提案には、みな今度は苦い顔をして、違う方向性で諭してきた。

「すまぬが、我らが王は獣人の王。最も獣人らしい獣人だ。人間の話など聞くとは思えん」

「すまんが、同意見だな」

 クーガとユームが苦々しく言った。

 だがロリンはそんなことは分かっていた。

「いや、きっと聞いてくれるさ」

 ロリンは目をそのままに口だけ笑みの形を作り、右のこぶしを左の手のひらに打ちつけパン、パン、と二回鳴らした。

 要するに話とはボディランゲージである。

「うぬ、その()は聞くだろうが…」

 クーガはそれの有効さは理解しながらも、自分たちの王を襲わせることを是とするのはよくないとして更に苦い顔になった。そして王がその話を喜ぶであろうことも簡単に予測できてしまうため、何もいえなかった。

 口をきつく結び俯いてしまったクーガを横目に、ユームは王を襲うことは問題ないと早々に判断し、具体的な内容を聞いた。

「それで、話し合った後、何を要求するのだ…?」

 ユームは言外に、臣民等級制度のことを言っていた。

 それにロリンはきちんと気づいたが、どう答えるべきか迷った。

 実際ロリンは臣民等級制度については、一朝一夕でどうにかなるものではないと思っていた。

 百年続いているということは、一、二等臣民と三等臣民の間にある溝はちょっとやそっとでは取り除けないだろうと思ったからだ。

 しかしながら、もし国でシャロのような子供が奴隷同然の扱いを受けていたら、後先のことを考えずに撤廃しろと言ってしまうだろうな、とも思っていた。

 ロリンが返答に迷っていると、言外の言葉をこちらも理解していたクーガが顔を上げて口を開いた。

「臣民等級制度だがな、既にあってないようなものになっておる」

 その言葉をを聞いたユームは、食いかかるようにクーガの肩をつかんだ。

「それはどういうことだ!」

「どういうことだも何もな、元からほとんどいなかった三等臣民の大半を主は連れ出してしまった。残った三等臣民は文官の類がほぼすべてだ。もはや差別を受けているようなものは、ないとは言えんがほとんどおらんと言っていいだろう」

「そう、か…」

 ユームはクーガの肩を離し、座り込んだ。

「そうか…」

「うむ」

 呆けるユームをただ見つめるクーガを見て、ロリンは色々と考えを改めた。

 クーガはどうやら、元から臣民等級制度に大賛成という考えではなかったのだろう。

 立場か、国の今後かは分からないがを考えて、数年前も今日も戦うという決断をしたのだろう。

 他の十傑たちも、里の戦士たちの傷の負い方を見たところ、死なないように手加減している節が見えた。一部を除いて。

「つまり、分かっている問題は頭とそれとそれか…」

 ロリンのオッドアイが縛られた二人の獣人をきつく睨んだ。


「それで、いつ国に行くんだ?」

 立ち直ったユームがロリンに聞いた。

 ロリンは即答した。

「今すぐ。クーガ準備して」

「ぬ?私なのか?」

「一番速そうだし。ユームさんは十傑の見張りと、何よりシャロがいるから」

「うぬぅ…私を信用できるのか?人気のないところで不意打ちするやもとは考えんのか?」

「されても負けないし」

「ぬぅ…」

 言い負かされて落ち込んでいるクーガを無視し、ユームがあわてて口を挟んだ。

「おい!十傑をここに置いて行くつもりなのか!?万が一抜け出されて反乱でもすればお前なしではもたないぞ!」

「確かに」

 ロリンは頷いた。だがそのしぐさは適当であった。

 ユームはいやな予感を感じて冷や汗が流れた。なんとなく、短い付き合いではあるがロリンがまともでないことをしでかす気配を感じ取ったのだ。

「お前、何を考えて…」

「なので素敵な助っ人を用意します」

 ロリンはにっこりと、裂けたように口を歪ませた。そのいびつな微笑みは縛られた二人にのみ向いていた。

 その笑みを向けられた二つと四つの牙は、本能的な恐怖を感じてしっぽを足の間に挟んだ。

 そんな二人の様子に気づかないように、笑顔を貼り付けたままロリンはゆっくりと、まずアークトスの元へと近づいていき、身をよじって逃げようとした彼の顎をつかんで自分に向けさせた。

 何をされるのか分からずいやいやと首を振るう二つの牙の鳩尾に膝蹴りをくわえ、大人しくした後ロリンは左目だけを瞑った。いわゆるウィンクである。

 何をされているのか分からない、と衝撃から立ち直り目をぱちくりさせた狼男の顔のすぐ前で、ロリンの閉じられた左目がゆっくりと開いた。

 現れたのは、血のように赤く輝く瞳。

 目の前に、輝く二つの真紅の瞳。

「十傑二つの牙、アークトスさんです」

 ロリンの三日月のように歪められた口から覗くのは――。


 クーガとロリンは、もうすぐ昼になろうという森の中で、枝の上を跳ねるように駆けていた。

 クーガ曰く、自分の全力のペースなら、一晩野営をして明日の昼ごろには国に着くだろうとのことだった。

 一言も口を利かずに里を出てから走り、否跳び続けていた二人だったが、唐突にクーガが口を開いた。

「お主、なぜ分かった?」

 突然、脈略もなくそれだけ言われても、ロリンには何の事だかさっぱり分からなかった。

 首をひねっていると、自分の説明不足に気づいたクーガが、少し恥じたように首の後ろをかきながら付け足した。

「影分身のことだ。すまぬ、昨日から自分はずっとそのことを考えていてな。あれを使ってから、なんの躊躇もせず首を刎ね二つに裂きとしておったから、てっきり追い詰められておるのかと思えば、本物の私にはきっちりと手加減をして気絶にとどめおったからな。すべて分身だと見抜いておったのかと思ってな」

「あ~」

 ロリンは、実際最初から一〇体すべて分身だと気づいていた。

 そして隠すことでもないかと思い、ネタばらしをした。

「わたし、弱点が見えるスキ…技能を持ってるんです」

「ぬぅ?」

 それがなにか関係が、と眉根を寄せて首をかしげる猫人間に、すこし面白いなと顔を綻ばせながらロリンは続けた。

「人の弱点、鳩尾とか、後頭部とか、頚動脈とか、関節の弱いところとか、そういうのが光って見えるんです。初めてユームさんを見たとき鳩尾の位置が普通の人と違ってて驚いたりもしたんですけど。それなのに出てきた一〇体は全身弱点みたいに見えて、本物じゃないなって」

「なるほど、便利な技能を持っておるのだな」

 クーガはそれを聞くと一人で何事か呟きながら頷いていた。

 ロリンは、ユームににてるな、と考えてなんだかおかしくなった。

 ロリンがにこにこしていると、クーガも少し苦々しく笑いながらロリンのほうを見た。

「すまんな、自信を持っていた技が破られたのは、思っていたよりも心に来たのでな。ずっと悩んでおったのだ。何がいけなかったのか、見破られるような綻びがあったのか、とな。今まで弱者の戯言だと思っておったが、相手が悪かったとはまさにこういうことを言うのだろうな。聞いたこともない技能だ、秘密にしておきたかったかもしれんのに…礼を言おう」

 クーガはすがすがしい表情で頭を下げた。

 ロリンは薄くはにかみながら、もしこのクーガでなくアークトスが一つの牙にでもなっていたら獣人族はどっかで終わっていたな、と確信した。

 ロリンの答えを聞きすっきりした表情をしていたクーガは、すぐにまた何かを思い出したのか、純粋に不思議そうな顔になりロリンに聞いた。

「ところで、出立する前に二つと四つに何かしておったがアレは?」

 ロリンは、再び素直に答えようとしてから、少し考えて見た目相応のいたずらっ子のような笑みに表情を変えて言った。

「乙女の魅力アタックです」


 残された、ユームを含み二つと四つを除いた牙たちは困惑していた。

 その原因は明らかに目の前の二人だった。

「どうしやすかぁ?狩にでも行ってロリンさんのために大量の肉を用意しましょうかぁ?」

「それよりも山菜じゃないかしら?人間は生の肉よりも山菜のほうを好んだ、って内にある書物で見たことがあったわよ?」

「流石は四つだぁ!頭の出来がちげぇなぁ」

「そんなことないわよぉ」

 目の前で嬉々としてロリンのために(・・・・・・・)何をすればいいかと話し合う、アークトスとフォウだった。

「ロリン、一体何をしたんだ…」

 口枷をされて何もしゃべれない牙たちの心を、ユームが代弁した。

一日一話、がんばります。

難産でした。遅れて申し訳ありません。

誤字、脱字、言葉の誤用の報告、いただけると本当に助かります。

感想、評価、ブックマークが私の心を暖かくします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。