17 戦いの終わりと尋問
本日二話目です。
ロリンは一つの牙クーガを下した後、きっちりと縛り上げて木に吊るしてユームのほうへ向かった。
が、途中でシャロの反応がなぜか走り回っていることに気づき、とどめに悲鳴を上げており、向かってみたところ四つの牙に襲われていた。
シャロを人質に取った四つの牙を、アイテムボックスから頭上に出したニ木プルーンの成木で圧縮し、驚異的な生命力で生き延びていたのでこれも縛って吊るした。
困惑から一転恐怖と安堵で泣き出したシャロをなだめ、泣き止んだところを説明もそこそこにお姫様抱っこしてユームのところへ急いだ。
照れながらも嬉しそうに抱きかかえられるシャロの姿は、いつものロリンなら気持ち悪い笑い声を漏らさせるのだろうが、探知系スキルで里の戦士たちの不利を把握し、四つの牙の行動から怒りに燃えているロリンはシャロをおびえさせないように微笑むだけだった。
戦闘音が間近に聞こえる場所まで来たところでロリンはシャロを降ろし、六つ七つ八つ九つ十の牙を何の見せ場も与えず隠密系スキルを使い背後から一撃で気絶させて周り、傷ついた村の戦士たちもアイテムボックスから出したそれなりに貴重なポーションで癒して周った。
中には血の海に倒れ追いかけてきたシャロが息をのむような惨状の、どこかで見たような者たちもいたが、さすが獣人というかなんと言うかぎりぎり生きてはいたのでポーションで何とかした。
そしてロリンはユームの元にたどり着いた。
装備の違いと自称十傑という点からユームが最も死に辛いだろうと思い、位置の関係もありユームの助太刀を最後に回したロリンだったが、状態は想定以上に悪かった。
何せユームは木の根元に血まみれで倒れ、その前には今まさに大剣を振り下ろし始めた狼男がいたのだから。
考えるまもなくロリンは間に割り込み、スキルを使った。
「太刀滑り」
スキルの援護を受けたロリンは自身の身長以上の大きさを持つ大剣の一撃をそらしながら器用に相手の懐に、それこそスキルの名のとおり大剣の刃の下をダガーと滑るように潜り込み、男の急所に全力の手加減を食らわせた。片方は潰れた。
崩れ落ちる狼男に一瞥をくれることもなく、ロリンはユームに最も高級なポーションを頭からかけた。
そして崩れ落ちた狼男を見下ろし、泣きながら父に抱きつくシャロを横目で見ながら、放置すれば右手からの出血多量で死にそうだったので一応ぎりぎり何とかなる程度の安いポーションをいやいやかけた。
アークトスの右手は失われたままになった。右手が普通に切られたのなら何とか安いポーションでもくっついたのかもしれないが、細切れになっていたのでどうしようもなかった。
ロリンには途中からアークトスの暴言が聞こえていたので、安いポーションを使っただけでもロリンを優しいと評せるかもしれない。
ユームの血のおかげで微笑ましいとは言いづらいが邪魔はできない様子の親子二人を放置し、ロリンは気絶させるだけに留めていた十傑たちをきっちり縛り上げ、目を覚まして縄を千切ろうと四苦八苦するホォクとクーガとフォウを回収し、里での戦いは幕を閉じた。
長い夜が明け、朝が来た。
十傑襲撃のせいで食べれなかった夕食の分まで肉をむさぼり、ロリンは縛って口枷もした十傑たちを押し込めていた空家にユームと共に向かった。シャロは来たがったが隣の犬頭リチャードさんに預けた。
部屋の中は縄を抜けようと四苦八苦しているか、もしくは何らかの手段で既に縄抜けしていた十傑であふれているかと思い臨戦態勢を取りながら木を登ったロリンだったが、意外にも彼らはおとなしかった。
「意外です」
「そうか?やつらは敗者、勝者には従うものだ」
ユームの言葉にそんなものかと思いながら、ロリンは十傑で最も強いというクーガの口枷だけを外した。
そしてできる限り優しく見えるように微笑みながら問いかけた。
「お話、聞かせてもらえますよね?」
「…ああ」
ロリンの尋問が始まった。
まずロリンは一番気になっていたことを聞いた。
「どうして十傑がここに?」
ロリンは、戦闘が終わってからずっとそれが気になっていた。
逃げ出したものを追う理由自体はいろいろと考えられるが、国の最大戦力を丸々使うほどのことかと思ったのだ。
対するクーガの答えは要領を得ないものだった。
「王が連れ帰してこいと命令なさったからだ」
「そうではなくてですね、どうして十傑が、ということが聞きたいんです」
殲滅しろではなく連れ帰してこいだったのか、とも思ったが一旦おいておいた。
ロリンの再度の質問に、十傑だけでなくユームも困惑していた。なぜそんなことを聞かれているのかわからないといった様子だった。
ロリンはなんだかいやな予感がし、その予感は正しかったとすぐ証明された。
答えたのはユームだった。
「獣人は国民皆兵といったな?それは逆に言えば普段はみな各々の仕事をしているということだ。つまり、王の今回のような命令を実行に移すものは普段働かずに鍛錬のみをしている十傑しかいないのだ」
ロリンは頭が痛くなった。獣人には全力行動か放置の二択しかないようだった。
なぜこんな頭の悪い種族が今まで生き残れたのか、と考え、強いからか、と納得した。
頭を押さえながらロリンは質問を続けた。
「どうして王は連れ帰してこいと命令を?」
次にロリンは理由を聞いた。これは実行部隊は知っていない可能性が高く、さらに今までの獣人たちの行動思考からして知らんと言われて終わる可能性が高いかと思ったが、意外にもきちんと答えが返ってきた。
「ふむ、いくつか理由はあるが、まずは主らがいなくなったことで開いた穴を埋めなおすため、というものがあるな。特にそこの男は十傑の一人、さまざまな理由でいないと困る」
クーガはユームをその鋭い瞳で睨んだ。ユームはそれをただ見返した。彼はそれら獣人全体のことと娘を天秤にかけて娘を取ったのだ。今更悪いなどということは出来るはずもなかった。
クーガは少しだけ口元をほころばせてから、すぐに真剣な顔に戻って続けた。
「まあ、そのことがわかっていない奴もいたようだがな」
クーガは今度はアークトスを、先ほどよりもきつく睨んだ。彼は顔をそらした。
「次に、民の話だな。そ奴が抜け、さらに残った十傑は主らの大半を逃した。国最強の者共が任務を果たせなかったとなれば、民も不安になる。もともと十傑と王という力に対する信頼から我らの国は出来た。十傑が弱いなどといわれてしまえば根底が覆ってしまう」
全うな話であった。獣人からされたとはロリンが信じられないくらい全うな話であった。
更に全うな話は続いた。
「それに加えて、あることがあってな。少し前から国に迷い込むオーク共が増えてな。そこでどこから来ているのかを私が調査したところ、主らの里を偶然見つけたのだ。もしや主らが里を作ったことがオーク共の住処を奪い、国に間接的に被害を与えているのではないか、と民たちの中に言い出す者がおってな。王も一理ある、とな」
わかる、わかるぞ、とロリンは思った。まともに理由が理由として成り立っていた。
首脳陣は悪法を除けば割とまともなのか、とロリンが期待しかけたところで、最後に爆弾が落とされた。
「だが何よりも、俺のモノが俺の元から逃げるなどありえん、と王がおっしゃたのが一番の理由になるかな」
「ちょっと国堕としてくる」
ロリンの目は据わっていた。
明日からは一日一話に戻りますきっと。
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