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夢の中からこんにちは

 ぴぴぴぴぴぴぴぴ

 ぴぴぴぴぴぴぴぴ

 

「………………はい……はい。起きますんで。もう鳴らないでください……」

 目覚まし時計が迷惑なほどに七時半になったことを知らせる。

 ひとりごちながら目覚まし時計を叩く。

「うぅ~……」

 目覚ましが止まったことによって部屋が静かになり少しばかり安心する俺。

 ――いや、安心している場合じゃない。さっさと起きなければ文子がインターホンを鳴らす八時までに支度が間に合わない。

 ……しかし昨晩は今までの夢の中で間違いなく一位――それも二位とは勝ち点を三十くらい離してのぶっちぎり酷いものだった気がする。思い出せないけど。

 人間って目が覚めてから一定時間以内に今見た夢を思い出すことが出来なければもうそれを思い出すことが出来ないらしい。ただ酷かった。それだけは分かっている。

 うんちくは置いといて。そろそろ起きなければ冗談抜きで間に合わない。朝の一分一秒ほど内容の濃い時間は無いからな。

 俺はだるい体を無理やり起こしにかかる。

 かかる。

 かかる。

 が。

 ……起き上がれない。なんだこれは。

 まさか、これが金縛りってやつか。確かに何かにしがみつかれているような感じはある。でも金縛りって体に何か重いものが乗っているようなものだと聞いた気がするんだが。

 よく確認してみると腕は動くらしい。

 俺は自由の利く腕で布団を取り払う。

 そこには。

「んん……むにゅ…………」

 そこにはご丁寧にも水玉模様のかわいらしいパジャマを身に纏った女の子が、俺をそれこそ抱き枕のようにして気持ちよさそうに寝ていた。

 長い髪の毛……ピンク……。

「う、うおあああああぁぁぁぁ!?」

 お、おおお思い出したぞ! 昨晩の夢! 空から女の子が降ってきて、それを受け止めて、時空なんちゃらみたいなわけのわからない説明をされて!

 そう、ミアだ!

「おい! 起きろ!」

 ここぞとばかりにミアの広めの額をぺしぺしと叩き続ける。

「む……んにゃ……やっ、やめっ……ろ!」

 ミアが不快そうに目を覚ました。目は一割程度しか開いてないけど。

「んぁ? なんじゃ、ここは……」

「わあああ! よだれ! 俺の服によだれがー!」

 朝の日差しに照らされてミアのよだれが俺の寝巻き目がけて美しく光り輝いていた。


 とりあえず奴の存在は無視。俺がよだれにまみれた寝巻きを洗濯機に放り込み、制服に着替えている間にミアは二度寝をキメてしまったらしくまたも布団で眠りこけている。

 時刻は七時五十分。ようやく学校へ行く準備ができ、落ち着いたところで再びミアを起こす。

「おい起きろ」

「……あと五分……」

「ダメだ」

「……じゃあ無理」

 そう言い捨てると枕に顔をうずめる。

「何が無理だこのやろう!」

 盛大に布団を剥ぎ取る。

 うつ伏せの大の字でミアの全身が姿を現した。こいつが寝ていると俺のベッドがやたら大きく見える。

「んにゅ……」

 こいつあくまで起きないつもりか。というか枕に顔うずめて息出来てるのか?

 どうすれば起きるのか。考えた末に俺は行動に移す。

「起きろ幼女」

「誰が幼女じゃ」

 むくりと起きた。


「ふむ……夢の中のものを現実に持ってくる、か」

 ミアはようやく覚醒したらしく顎に手を当て思案している。重力に猛反発した寝癖を披露しながら。

 なぜ二人とも正座をして話し合っているかはよく分からない。

「……あうぅ」

 ミアは顔をしかめ何かに悶えていた。

「お前正座苦手だろ」

「そんなわけあるか!」

「震えてるぞ?」

「……そんなことはない」

 するとミアは懸命にも震えを止めてみせた。見れば、ミアは太ももの上で固く握りこぶしを作っている。

「ほう」

 俺はじり、とミアの足に詰め寄る。

「な、なんじゃ」

 そして奴の足先に向かって――

「ふうっ」

「おぁひぃいんっ!?」

 俺のゴッドブレスによってミアは妙な声を上げ無残にも床に崩れ落ちる。

「さて次はつついてみるか」

「んな……!?」

 ミアはぎょっとして俺を見たあと、実にゆっくりと、そしてへにゃっと女の子座りにシフトチェンジした。実のところ一分も正座してない。

「ど、どうやら今回はコンディションが悪かったらしい」

「本当に足つつくぞ」

「やめて!」

 ミアは涙目になり懇願する。

「……まあ茶番はこれくらいにしてだな」

 辟易としながら俺は脱線した話を戻そうとする。

「うむ。いろいろと考えなければいけないことが――」

 ぴんぽーん。

 ミアが言っている途中に何かが鳴った。インターホンだ。

 思わず時計を確認。

 ――八時。畜生、こいつがなかなか起きないせいで大分時間が狂っちまった!

 がちゃり。

 インターホンの直後、間髪いれずに響く解錠音。

 えっ!? ……あぁそうか、あいつ鍵持ってるんだっけか。ったく恐ろしい女だな……。

「大哉ー、起きてるー?」

 もはや合法的な不法侵入と言ってもいいが、全く悪びれる様子などなく、鳴沢文子は玄関から二階の俺の部屋目がけて声を張り上げた。

「あ……あぁ起きてるぞ! 今行くから待ってろ!」

 ここで妙な間があっては文子に何か疑われるかもしれない。

「くそっ……いいか、俺は今から学校に行ってくるからくれぐれもおとなしくしててくれよ? 近所の人が見たらなんか変な噂されるかもしれないからな」

 実はこの家に隠し子がいたとか、同棲してるとか。

「まるで自分が年上のような口ぶりじゃな。いいか、何度も言うが私はお前よりも一つ年が上で――」

「おそーい! これじゃ学校間に合わなくなっちゃうよー?」

「悪い! ほんと今行くから!」

 無視されたことにミアは頬を膨らまして抗議している。

「じゃあな、とりあえずまた寝てろ。腹減ったら一階の台所にカレーがあるから食ってくれ。和風テイストだけど」

 俺はそう言って忙しなく階段をかけ降りる。

 しかし朝っぱらからなんだこの忙しなさは。普通だったら朝起きてぼーっとしながら適当に食えるもん食って支度を済ませたあと、残りの時間は携帯でもいじくってるのに……。

 というか上のちびっ子に関しては文子に言うべきだろうか。いや……否だ。今その場の勢いで文子に「おい! とうとう生きたモノを出せるようになったぞ!」と言ったところで出てきたそのモノはちんちくりんの幼女だ。文子からすれば一体どんないかがわしい夢を見ていたのかと思うに違いない。結論からして、俺にとってプラスに働くことは何一つないと言っていい。はい、本日の脳内議会を終了します。

「すまんすまん」

「もう、陽介だって待ってるんだからね!」

 そんな文子の顔もミアと同じく膨れ気味だった。朝から女の子を二人も怒らせるなんて俺も罪な男である。

 そうして家を出ようとした時だった。

「大哉ー、トイレはどこじゃー?」

 二階から聞こえてくる幼い声。

「? なんか今声しなかった?」

 文子が訝しげな表情を見せる。

「うおっとー! テレビつけっぱなしだったかなー? ちょっと見てくるわー!」

 思わず声が変に上ずってしまった。

「そうなの? 早くしてよね」

 感づかれたか、と一瞬肝が冷えたが特にそういうわけでもなかったらしく、文子は外へと歩みを進めた。

 それを見計らって俺は猛スピードで階段を駆け上がりミアにトイレの場所を説明。またも猛スピードで階段を駆け下りて文子に追いつくのだった。さっき脳内議会で決めたばっかりだぞ言わんこっちゃない。朝からすでに一日分の労力を使った気がする。

 ――あ、そういやあいつが俺のことを大哉って呼んだの、今のが初めてじゃないか? その初めてがトイレの場所を教えてくれって……。

 俺は苦笑しながらいつもの三人で登校するのだった。


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