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ウォッチ! ウォッチャー! ウォッチェスト!  作者: saco
第一章:夢を、見ていました 
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第一級時空捜査官

 結局正座状態でミアの話を聞くハメになってしまった。まあ昔から剣道で正座をする機会は多かったし、全く辛くはない。俺からすれば刑でもなんでもないということだ。

 というか未だにこんな少女が十六歳なのか疑わしい。しつこいかな俺。

 別に人の年齢にこだわるような変な性格ではないが、この子だけは例外として認めて欲しい。だってどこからどう見ても幼女っていうジャンルなんだもん。

「俺はこうして素直に正座をしているんだから、せめてお前が十六歳だっていう証拠を見せてくれ」

「こ、こいつは人生の先輩に向かってお前などと……一体何様じゃお前は」

 またも顔をしかめるミア。

「だがそんな悠長なことを言っていられるのも今のうちじゃ! これを見ろ!」

 そう言うとミアはどこからか何かを取り出す仕草を見せたが、すぐに見つからなかったらしく焦りながら服のポケットをまさぐっていた。

「まだかー」

「ま、待ってろ! こんなことも待てないとはまったく近頃の若者は我慢というものを知らなくて困る……本当に――あった!」

 ミアは満面の笑みを浮かべてお尻のポケットから一枚のカードを見せてきた。お尻のほうにしまっていたせいか微妙に湾曲してしまっている。何かの免許証か? でも十六歳じゃ車の運転免許証は持てないし。

「これは、なんだ?」

「一番上を声に出して読んでみろ! さあ!」

 なんなんだ急にテンション高くなって……。

「ええと……『第一級時空捜査官』」

 ……音読してみたが全然ピンと来ない。「あぁ時空捜査官! すごいじゃないですか! お見逸れしました!」とでも言って欲しいのだろうが、悪いが期待に添えることは出来ない。なんだよこの胡散臭い資格は。

 ミアは俺の謝罪の言葉を待っているらしく、目を閉じ腕を組んでいた。

「ごめん、すごいんだろうけど俺にはよく分からない」

「そうそう分かれば……って、なんだと!?」

 予想外の言葉に目を見開く。

「というかこの資格とお前の年齢に関係はあるのか?」

「……あ、関係なかった!」

「無いのかよ!」

 てへへと舌をだすミア。時たま見せる子供っぽさが卑怯だ。どっちの性格が本物なのか分からない。

「私が見て欲しいのは生年月日じゃ!」

「生年月日ね、確かに年齢を確認する一番手っ取り早い証拠だな」

 どれどれ、とミアと氏名の書かれた右の生年月日を読み始める。

「二九九四年――」

 ……自分の見間違いか? と一瞬固まる。もう一度視線を左に戻し生年月日を見る。

 二九九四年六月十日。免許証にはそう記載されていた。

「なんだこのくそデタラメな西暦は……」

 動揺の色を隠せない。二九九四年だろ? そんでもってミアは自称十六歳。計算してみると……ええと、待ってろ。ひっ算するからな……こうして……三〇一一年か。おいそこ! 遅いとか言うなよ! ……まあいい。つまりこれはちょうど千年多いということになるな。

 お前は未来人か何かか。

「未来人。なかなか面白い表現をする。――まぁお前たちからすればそんなものじゃ」

 ミアは微かに笑いながら重ねる。

「書いてあったじゃろ? 私は時空捜査官。この世界の時空の秩序と安全を守るものじゃ」

 あったけどさ。

 まさか本当だとは思わないだろ。今でさえ信用ならないし。

「時空捜査官って……何をするんだ?」

「と、その前に」

 手を突き出し俺の言葉を遮るミア。

「ここはどこじゃ」

今更その質問はどうかと思うぞ。何ページ使ってると思ってるんだ。

「俺の夢の中だ」

「『俺の夢の中で眠れ』とは! 初対面の女性に対してなんと卑猥な!」

「それが言いたかっただけだろ!」

「そ、そんなことはない……」

「目を逸らすな」

 本当に言いたかっただけらしい。

「こ、こほん! で、時空捜査官は何をするのかということじゃったな?」

 そそくさと話を戻された。

「ああ、具体的に頼む」

「時空捜査官、通称時空Gメンは時間操作を悪用している人間を取り締まる者のことである!」

「ふーん。例えば?」

「ニートとか」

 ……。

「うおおい!? なんか急に現実味を帯びたぞ!?」

「だって悪用しているじゃろ? 時間を」

「やめろよ! 大目に見てやれよ! きっとまだ本気出してないだけなんだよ!」

「あ、ちなみに正式名称は日本私設時空警察。実際警察ではないけどそれっぽいから警察って言葉を入れたらしいぞ」

「雰囲気かよ! 免許証見せられたのになんか自称って感じが否めない!」

 時空Gメンに対する胡散臭さは増すばかりだった。

「どうじゃ、恐れ入ったかこの年下め!」

「くっ! よく分からんがすごいと言わなければ話が進まなそうだ……ここは褒めておいてやろう……」

 なんだか今日は折れてばかりだ。夢の中で今日という表現もおかしいが。

「え! ホントに!? やったー!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるミア。ただ俺が褒めただけであそこまではしゃぐなんて、とんだお子様十六歳がいたもんだ。

 もしも妹、もしくは娘がいたとしたらこんな気持ちになるのだろうかと、はしゃぐミアを微笑ましく眺める。

 そんなミアに俺は素朴な質問をしてみることにした。

「ところでミア」

「えへへー……ハッ! な、なんじゃ」

「気になってたんだけど、お前のその『~~じゃ』みたいな喋り方、それ作ってるのか?」

「――っ!」 

 瞬間、ギクリとバツが悪そうにする。

「な、何をそんな……私はいつだってこんな感じの喋り方じゃろう」

「時々ブレてるぞ」

「え、そうなの!?」

「ほら今とか」

「うぐ……」

 なんていうか、ミアの口調には法則があるようで無い。わざと古めかしい言葉を使おうとしているようだが『~~じゃ』くらいしか使っていない気がする。それ以外はただの標準語。無理してる感が否めない。

 ミアは俺に指摘されると、背を向けてアスファルトに体育座りをキメてしまった。

「……だって……じゃろうが……」

「ん?」

 二人の間を微妙な空気が流れてしまい、どうしたものかと頭を掻いているとミアが何か喋った気がした。しかしくぐもっていてよく聞こえない。

「なんだって?」

「だから、この喋り方の方が大人の女性っぽく見えるじゃろう!」

 えー。

 ミアの予想外というか、その気持ちもわからんでもないような返答に拍子抜けしてしまった。それでは大人の女性というより老婆である。しかも『~~じゃ』くらいしかわかっていないのでどうにも中途半端な口調。ピンクの髪の毛も相まってただの電波の入った女の子にしか見えない。

「いや、なんというか……イタいぞ」

「ガガーン!」

 声に出してショックを受けるミア。

「――確かに、外見は子供っぽいけどな、お前は十六歳なんだろ?」

「……そうじゃ」

 涙を浮かべて頷くミア。

「だったらお前はお前らしくいけばいいんじゃないか」

 自分のボキャブラリーの無さに絶望する。もうちょっと気の利いたこと言えないもんかなあ俺。そこの俺だよ! 聞いてんのか!

「……ふむ……」

 ミアは袖で目に溜まっていた涙を拭き取った。そして腕を組み何やら考えごとを始める。

「まさか貴様に励まされることになるとはな。あとお前って言うのをやめろ。私は年上じゃぞ」

「はいはい、すいませんでした」

 まだ言うかと苦笑する。

「なるほど、私らしくか――確かにこの喋り方はこの幼い容姿をカバーするために作っている」

 カバーしてるつもりだったのか……。

「だがお前の言うことにも一理ある。自分らしく。それもいいかもしれないな……」

 すっくと立ち上がり、感慨深く頷くミア。あんなヘチマのように中身の無いフォローに納得してくれるとは、申し訳ないような嬉しいような複雑な気持ちだ。

 とりえあずこの件については一件落着。さて、他に何か聞きたいことは無かったっけか。

「…………」

 ん? ミアの様子がおかしい。腕を組み、目を閉じたっきり何も喋らなくなってしまった。

「どうした?」

 下からミアを覗き込む。ミアは眉にシワを寄せ汗を滲ませていた。

「だ、大丈夫かおい」

 俺が何事かと焦っていると、

「まずい……どうしよう」

「どうした!」

「……普通と言われても、どんな風に喋っていたか思い出せないのじゃ!」

「なっ……!」

 こいつ、真性の馬鹿なのか。

「さっき喋ってただろうが! 飛び跳ねてる時とか!」

「……?」

 首をかしげるミア。

 なんてこった。あれは完全に無意識で喋っていたのか。要するにこいつは意識的に標準語を喋ることが出来ない。もはやこいつにとってこの古めかしいようなそうでないような口調が標準語となってしまっているのだろう。なんて残念な女の子なんだ。ご愁傷さまとしか言いようがない。

「……もう、諦めろ」

 俺はミアの肩に手を置き儚げに言う。

「ええ!? なんで!?」

 わけも分からずうろたえるミアだった。

 あと、人生の先輩って俺のほうじゃないか。


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