表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/29

転入

 ――確かに教室に着いた瞬間異変には気づいた。

「さて、朝のホームルームを始める前に」

 ――昨日は無かったはずの場所に新たに机が設置されている。

「今日は転校生を紹介したいと思う」

 ――俺の後ろ。一人分空いていなければおかしいそこに、机は置かれていた。

「じゃあ自己紹介を頼む」

「うむ任せろ。私の名前はミア。この度縁があってこの学校に転入することになった――」

 それ以降も何か言っていた気がしたが、俺は目眩を覚えてしまいよく聞いていない。

「よし、じゃあ分かっているとは思うが席は窓側一番奥のあそこに座ってくれ」

「うむ」

 パタパタとこっちに向かって歩いてくるちびっ子。俺は机に突っ伏して他人のフリをする。

 大体おかしい。ミアが今この場にいるってことは、俺が登校途中でこいつに追い抜かれて先に学校に行ったか、俺の後ろをつけてきて学校に入った瞬間担任のいる職員室へ直行したかぐらいしか方法がない。俺はミアに追い抜かれた記憶もないし、つけられていた気配もない。あいつがアサシン的な能力を持っているのなら話は別だがそんなものは単なる妄想に過ぎない。この通学路には近道も無いし、俺の脳みそでは魔法か何かを使ったとしか考えられなかった。

クラスのみんなは口々に「なんで髪の毛ピンク?」とか「かわいい」とか「結婚して」とか囁いている……はやくもクラスの人気者になりそうな雰囲気MAXだった。

 ミアはそんな羨望の言葉には全く耳を傾けることなくちょこんと椅子に座った。

 そして言い放つ。

「おい、なぜ私が四六時中お前の背中を見て授業を受けなければならないのじゃ」

 こいつは本当に……。

 俺はあくまで聞いていないフリを通す。

「こら」

 黙殺。

「聞いてんのか」

 だんまり。

「大哉!」

「……っ!」

 その瞬間、見て見ぬ振りをしていたクラスメイトたちがいっせいに俺たちに目を向ける。

「なんだ市川ー知り合いだったのかー!」

 みんなの気持ちを代弁するかのように担任が目を丸くする。

「ええと……いや、あの……」

「じゃあお前がミアにいろいろ学校のことを教えてやるように! よしホームルーム終わり、日直号令!」

 担任の快活な声にびくりと立ち上がり日直が号令をかけた。

「なっ!? ちょっと先生!」

 俺の訴えもむなしくホームルーム終了。クラスメイトたちから羨ましいやら妬ましいやらいろいろなことを言われた気がするが、そんなもの耳に入るはずもなく、全て生返事でがっくりとうなだれながら席に着くのだった。

 その後、四限まで背中に執拗にミアの視線を感じながら授業を受けるのは、精神的に堪えるものがあった。


 ――時刻は十二時五十五分。昼休み。

 普段なら授業という名の監獄に収容されていた俺を救い出してくれる唯一の時間。文子や陽介と適当な机をくっつけて昼飯を食べながら駄弁る。これで午後の授業も仕方ないから頑張るかという気持ちになるのだが。

 ああ神よ、俺に安息の地は無くなってしまったのだろうか。

「ねえ、その子大哉の知り合いなの? 今まで聞いたことも見たこともなかったんだけど……」

「俺もだ。ダイヤにそんな美貌……いや、かわいらしい知り合いがいたなんて知らなかった。教えてくれればよかったものを」

「教えたところでお前喋らないだろうが」

 ジト目で見てくる二人をジト目で返す。

 この場にある机は四つ。二対二で対面するようにくっつけられて並んでいた。

 俺の前には陽介と文子がいる。ということは俺の隣に誰が座っているのかというと。

「めしは! めしはまだかー!」

 憮然とした表情で、しかし大声で叫ぶミアがそこにいた。

「本当に私たちと同い年なの?」

「それがですね、誠に申し訳ないんですが、俺たちとは一つ上にあたる十六歳です……」

「じゅっ!?」

 思わず飲んでいたお茶を吹き出す陽介。

「なぜ謝る!? なぜそんなにも悲しそうな顔をするのじゃ!?」

「いや、こんなのが十六歳でごめんなさいって……ほらお前も頭下げろよ」

「な、なんでなんで!? ふぎゃっ! 無理矢理頭を押さえつけるな!」

 下を向きながらもがくミアに苦笑する文子。

「謝罪会見はそれくらいでいいから。でもなんで一つ年上の人がこのクラスに来たのよ? 普通上の階でしょ?」

 上の階というのは二年生のクラスが入っている階だ。うちの学校は二階に一年、三階に二年、四階に三年と年を追うごとに階も上がる仕組みになっている。

 そういやそうだよな。なんで頑なに十六歳を主張するこいつが俺たちと同じクラスに入ろうと思ったんだろう。

「おい、なんとか言えよ」

「……ちょっといいか」

「なんだよ」

 ミアは気まずそうに座っている向きを後ろに変えてこそこそと話し出した。

「悪いんじゃが適当に理由を作ってくれ!」

「はぁ!? 理由もなく来たって訳じゃないだろ? そもそもどうやって転入出来たのかさえ教えてもらってないし!」 

「理由は、まぁアレじゃ……」

 目を逸らすミア。同時に少し恥ずかしそうでもあった。

「なんだよ」

「家に一人でいるのがつまんなかったから、みたいな感じじゃ」

 そうなのか、となんにも納得してないけれど一応納得する素振りを見せる俺。やっぱこいつ子供だなー。

「じゃあなんでこのクラスにしたんだ?」

「それは、その……アレじゃ。知り合いがいないと不安じゃから……その……うん」

 ミアの目がもうこれ以上聞かないでくれと訴えていたのでこれくらいにしておく。

「おーいまだかー」

 痺れを切らした陽介が急かしてくる。

「え? あぁ、おう。つまりだな――」

 俺は二人に、ミアは外国を転々としている父親の知り合いだという設定で話を進めることにした(父さんが外国を転々としているのは本当だ)。もともと日本に興味があり日本語もそれなりに喋れたミアは父さんに日本に行きたいことを相談。すると父さんはここに行ってみなさいとうちの住所の書かれた紙を渡す。ミアはそれ一枚を頼りにここまで来たのだという。学年が一つ下なのは留学生だからという学校側の配慮らしい。

 ……らしいっていうか俺が即興で作ったんだけどな。無理あるだろこれ。なんでいいおっさんと幼女が知り合いになるんだよ。下手すりゃ犯罪だよ。

 俺の渾身のシナリオに案の定訝しげな表情を見せる陽介。しかし文子は頭がアレだからすんなりと受け入れてくれたようだ。

「まぁこんなところだ。そうだろうミア」

「う、うむ。お前のお父さんには感謝してもしつくせないな本当に!」

 ちょっと棒読みだぞ。

「ふむ、留学生なのか。それでその、ミ、ミア……さんはどこの国から来たん――」

「さーてところで大哉! めし! めしはまだなのか! 一向に出てくる気配がないのじゃが! 私はおなかが減って肩甲骨と肋骨がくっつきそうじゃぞ!」

 陽介が一年のうちに一回見るか見ないかの渾身の力を込めて俺たち以外の人間とコミュニケーションを取ろうとしたがあえなく空振り。答えられないと判断したミアが一方的にこの話を終わらせたのだった。

「お……そ、そうだな! ……っておい、昼飯は自分で持ってくるもんだろうがー!」

 ミアの発言に乗っかりテンション高めにツッコむ。

「え……そうなの? 持ってきてない……めし」

 愕然とするミア。週末に遊園地に行くことを楽しみにしていた女の子が、お父さんの急な仕事で無しになったと宣告された時のような表情である。しかし本当に待っていれば出てくるものだと思っていたのか。まあ、仕方ないと言えば仕方ないか。知るはずがないよな。

「仕方ないヤツだな――じゃあお前はこれでも食え」

 俺はそう言ってカバンから菓子パンと惣菜パンを……

「ん? あれ?」

 無い。今日の昼飯のためにと思って入れたはずのパンがカバンのどこを探しても入っていない。……おそらく今朝は何かとドタバタしていたせいもあって忘れてしまったのだろう。台所のテーブルに置いたところまでは覚えてるんだけどな。なんというスパイラル。ぬかった。

 そうなると俺とミアは今日の昼飯は無し。文子と陽介の食事を指をくわえて見守るしかない。

 ……んなわけあるか。購買行って買ってこよう。

「じゃあ俺ちょっと購買行ってくるから」

「ちょっと待ったぁ!」

 俺が立ち上がると文子は手を突き出し不敵な笑みを浮かべだした。

「ふっふっふ。こんなこともあろうかと! 今日は大哉のためにお弁当を作ってきたのだった!」

 ジャッジャーンと言いながら自分と俺の分、二つの弁当を机の上に置いた。

「俺の分は無いのか」

 そこで陽介が尋ねる。

「え? 無いに決まってるでしょ。いま大哉家に一人だから、お弁当ないと思って作ったの。家にお母さんがいる陽介に作ってもしょうがないし。私は大哉のおばさんに宣言した通り、食事、衛生管理などを徹底していくつもりです!」

「ったく、すこぶる大きなお世話だよ!」

 胸を張る文子にツッコむ俺。

「まぁ、そうだな」

「? 変な陽介。そんなことより、ほら早く食べてよ!」

 俺の目の前に文子お手製の弁当が置かれる。弁当箱は文子が普段使っている赤い弁当箱で、文子本人はというと、昔使っていたと思われるポップな柄の弁当箱を使っていた。彼女なりの配慮なのだろう。

「……」

「どうしたの? 早く開けなよ! 腕によりをかけた私のお弁当にひれ伏すが――」

「いや、俺はいいや」

「――いい! ……って、え?」

「俺は購買で適当に買ってくるから、これはミアにやってくれ」

 一瞬の間の後、

「――――、そうだよね! うん、全く大哉ったら優しいんだから、こういう時にだけ頭が回るんだねー」

「ほっとけ!」

 一瞬ためらう素振りを見せた気がしたが、文子は快く弁当をミアの方にスライドさせた。

「私が食っていいのか?」

「おう食え。あと飲み物も欲しいだろ? なんか買ってきてやるから、何がいい?」

「ほんとか! なら牛乳! 牛乳がいい! はっはっは、ようやく年下としての自覚を持ち始めたか我がパシリよ」

「弁当取り上げるぞ」

「そんな!」

 そうして俺は購買からパンを二つ、フルーツオレに牛乳を買ってきた。その後の食事は何故か空気が微妙にギクシャクとしていた気がして、イマイチ食べた気がしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ