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ウォッチ! ウォッチャー! ウォッチェスト!  作者: saco
第三章:パンツ・ミッション
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時間時計

「――どこぞの誰かのせいで話が脱線しすぎたようじゃ。さて次の話じゃが――」

 強がってはいるが、わずかに目に涙を浮かべているミア。それを半ば失神気味に聞いている俺。

 今のは百パーセント俺に否があったと言っていい。ミアが俺を煽っていたというのもあるが、それにまんまと乗ってしまった俺の責任である。

俺は頭の中でそう整理してなんて大人な対応なんだろう、と自画自賛する。

「――歴史上の事件に介入とお前は言っていたが、それも出来ない」

 もうおとなしく聞くことだけに徹しよう。

「大哉、お前は今何歳じゃ」

「十五だな」

「誕生日は」

「十月。十月七日だ」

「ふむ。今お前はこうして昨日に来ているわけじゃが、ただ昨日に来たわけではない。一日時間を戻したということは、一日若返ったということなのじゃ」

「え、そうなのか」

 タイムマシーンは自分が未来の自分として過去に行くわけだから年齢に変化はない。しかしこの能力の場合は時間が戻るとその分自分の年齢も若くなるらしい。

 ん? ってことは……。

「うむ、つまり自分が生まれるより前の時代には行くことが出来ないのじゃ。それと、もといた時間に戻すための早送りは出来ても、それ以降の早送りは出来ない。ビデオテープも録画したところまでしか見ることは出来ないじゃろ?」

「なんと不便な!」

 つまるところ、俺が時間移動を出来る範囲は、俺がこの世に生まれてこうして生活している十五年六ヶ月と数日間ということになる。

「ミアはなんで変化しないんだ?」

「未来の技術じゃ」

 そんな言葉で片付けられてしまった。一千年後の未来人に言われたら頷くしかない。

「なんで俺にはその時計みたいなの使えないんだよ」

「『時間時計』を持っているだけではなんの意味もない。それを使う人間が修行に次ぐ修行を重ねて初めて使えるようになるのじゃ!」

「さいですか……」

 というか『時間時計』って。シュールな名前だなおい。

「私がお前たちよりも早く学校に行くことが出来たのはこれのおかげじゃ」

「学校に……早く?」

「不思議に思っていたじゃろう。どうやって来たんだって」

「あーそういやそんなこともあったな。なんかすごい前にあったみたいに感じる」

 一応明日の話だけど。

「で、どうやったんだよ」

「よくぞ聞いてくれた。これじゃ!」

 そう言ってミアはまた時間時計なるものを俺に掲げる。そしてある一点を指さす。

 時間表示ディスプレイの下にある三つのボタン。その真ん中のボタンだった。

 この記号は俺もよく見たことがあった。長方形が二つ――一時停止の記号だ。

「時間を止めたってわけか」

「おお、大哉にしては賢いな」

 関心するミアに少々照れくさくなる。……照れくさくなってどうする。反論するとこだろ俺! そこの俺だよ! 聞いてんのか!

「じゃがなー一時停止はぁチートっぽいからぁ本当に困ったときにしか使わないのじゃ。一時停止した時間だけ今月の給料から引かれるし……」

「げ、現実的のようなそうでないような……」

 投げやりに唇を尖らせるミアに苦笑する。

「じゃあお前にとって俺より学校に早く行くことはとても重要だったってことか」

「んなっ……! う、うるさいっ!」

 俺のその一言にミアはぎょっとしてクッションを投げてきた。心無しか顔が赤くなっているように見える。

「わ、悪かった――怒るなって」

「…………寂しいに決まってるじゃろが」

 何かブツブツ言っていたような気がするが小さくて聞こえなかった。

「あと残ってる謎といえばどうやってお前が転入出来たかだな」

「ああそれはちゃんと受験したんじゃ」

「――」

「何をいまさら驚いているのじゃ。ちょっと時間を戻して試験を受けさせてもらったんじゃよ。それだけのことじゃ」

「そ、そうだよな……」

 一瞬受験日まで戻ったのかと思ったが、よく考えるとそんなのだったら転入生として学校に入る必要はなくなり、普通に入学初日から何食わぬ顔で登校していてもおかしくない。

「なら別に転校生じゃなくても良かったんじゃないか? どうせ誰も気づかないだろ」

「いや……そこは私のせいで入学するはずじゃった者を蹴落としたくなかったから……その……まあそんな感じで……」

 もじもじとクッションを抱きしめるミアになんとも言えない気持ちになる。な、なんだこの感じは……愛でたくなるというかなんというか……。

「い、意外と大人じゃないか」

 そう言ってミアの頭を撫でてやる。

「え、えへへ……! ――はっ! 意外でもなんでもなく私は大人じゃからな!」

 にへらぁと顔を緩めていたミアだったが、思い出したように俺の手を華麗にはたいた。はたかれた手がジンジンと痛む。

「ったぁー……かわいくねえなぁ……」

「私はかわいいなどと思われたくない! 美しいとかビジンとかそういうふうに思われたいのじゃ」

「美しいと美人ってほぼ同じじゃねえか」

「ぐっ……もういい! 一通りの説明も終わったことじゃからさっさと本来の目的を達成させるぞ!」

 俺のツッコミにたじろぐミアだが話をそらすことでこの場をやり過ごしていた。

「本来の目的……」

 そういやなんで昨日に来たんだっけか。確か大月がミアの能力を信用しなくて、だったら今大月が履いている――――

「パン……ツ……」

「そこだけ覚えているとはやはり変態じゃったか」

「違うわ! ちゃんと頭の中で振り返っていた結果のパ……パンツだ!」

 失敬な、と一つ咳込んで反論する。

「だったらこんな時間に戻る必要なんてなかったんじゃないか」

「この時まだ私はお前と会ってなかったから分かんなかったんじゃよ。これくらいの時間なら自由に動けるかなあと思ったんじゃが、まさかこんなパーティを開いていたとは予想外じゃった」

 ミアは少し眉間にしわを寄せながら言う。確かに、俺の家に誰か遊びに来るなんてここ最近なかったからな。不幸と言えば不幸だ。

 そんなことを思っていると俺はあることに気がついた。

「――待てよ。ってことはわざわざあんなことする前にさっさと違う時間に行けばよかったんじゃないのかおい!」

「う……これは、あれじゃ。お前にこの能力について知っておく必要があったから……頭で覚えるよりも体で覚える方がお前には合ってるかと思って……な?」

 取ってつけたような理由にどうも釈然としない。

「大体、ここから大月の家までの道は分かってるのか?」

「え……大哉知らないの?」

「知るかっつの! ついさっき会ったばっかりだろうが!」

 大きな目をぱちくりさせるミアの額にデコピンをお見舞いする。

「うぎゃっ! デコピンは反則じゃろ! だったら今のデコピンで私もお前にデコピン一発する権利があるからな! 覚えとくんじゃぞ!」

 広めの額に手を当てて悔しがるミア。何から何まで子供っぽい。

 こんな茶番をいつまでもやっている場合ではない。大月の住所を確認する方法……何があるだろうか。

 俺とミアは二人して腕を組み考える。

「……あ。あった!」

「お、早いな。ちょっと言ってみ――」

 暗転。

 停止。

 さらに暗転。

「――ろ……おえええええええええええええええええ!」

「どうじゃ! 八組の担任の机にあった名簿をメモしてきてやったぞ!」

「不意打ちすぎるから! 時間を操作するなら先に言えよ! こっちにも準備ってものが……うえぇえ」

 どうやらミアは時間を操作してどこかの日の八組担任の机から名簿を拝借、大月の住所をメモしてきたらしい。名簿ごと持ってこなかったのは改変を恐れてのことだろう。というか俺を一緒に連れていった意味はあったのか。

 猛烈な吐き気に襲われながらもミアのメモを確認する。上手い下手で言えばそれほど上手くないミアの字には、山王学園から歩いてすぐ近くの住所が記されていた。住所がわかればこっちのもの。早いところ大月の家に向かうとしよう。

 そうして揚々と玄関を飛び出すミアに対し、俺はよろよろと大月の家を目指すのだった。


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