第十八話 走る王子
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王太子の結婚式から数週間。
王城の庭園にある小さなテラスで、ルシアンとミレイユはお茶をしていた。
春の風が柔らかく吹いている。
ルシアンは楽しそうに話していた。
「それで
オスカーが言ったんです
聖女召喚の記録は、古代聖女史の中でもかなり重要だって」
ミレイユは紅茶を飲みながら頷く。
ルシアンは続ける。
「ジュリアンは社交界の動きをまとめていて
エーリッヒは結界維持の財政を調べている
騎士団の記録はマティアスが
民衆の反応はフロリアンが書いている」
熱が入ってきた。
「それぞれの視点を合わせれば
かなり意味のある資料になると思うんです」
ミレイユは微笑んだ。
「それは素晴らしいですね」
ルシアンは嬉しそうだった。
だが。
ミレイユは静かに言った。
「ただ」
ルシアンは顔を上げる。
ミレイユは穏やかに続けた。
「そろそろ
将来のことも考えた方がいいかもしれません」
ルシアンは固まった。
将来。
職業。
十四歳。
そろそろ決め始める年齢だ。
騎士。
官僚。
外交官。
学者。
王族にも進路はある。
しかし。
ルシアンの頭の中は真っ白だった。
何も思いつかない。
その日の午後。
ルシアンは騎士訓練場にいた。
第三王子がいる場所だ。
砂の訓練場では騎士たちが剣を振っている。
第三王子は鎧を脱ぎながら言った。
「どうした」
ルシアンは正直に話した。
ミレイユに言われたこと。
将来のこと。
職業のこと。
最後に言う。
「兄上みたいに
剣を振るえばいいんでしょうか」
その瞬間。
第三王子は大笑いした。
「ははは!」
ルシアンはむっとする。
第三王子は笑いながら言う。
「無理だな
お前は頭を使うタイプだ」
ルシアンは黙る。
第三王子は肩を叩いた。
「頭で考えても分からない時は」
少し楽しそうに言う。
「馬で走るのが一番だ」
そして騎士に叫ぶ。
「馬の用意!」
王城の軍馬訓練場。
広い草地が広がっている。
ルシアンは半ば強引に馬に乗せられた。
第三王子が笑う。
「走れ!」
ルシアンは馬を走らせた。
最初はぎこちない。
しかし。
風が頬を打つ。
蹄の音が地面に響く。
どんどん速度が上がる。
ルシアンは必死だった。
体を前に倒す。
手綱を握る。
馬と呼吸を合わせる。
いつの間にか。
頭の中が空っぽになっていた。
悩みも。
考えも。
全部消える。
ただ。
走る。
人馬一体。
遠くで。
第三王子が満足そうに見ていた。
「そうだ」
小さく呟く。
「それでいい」
ルシアンはまだ知らない。
この日。
走りながら。
少しずつ。
自分の道を見つけ始めていたことを。
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