第十五話 記録する者たち
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王城の書庫。
高い棚に古い書物が並び、午後の光が静かに差し込んでいる。
その中央の机に、六人の少年が集まっていた。
ルシアン・ヴァルセリオンは立ち上がった。
そして仲間たちを見回す。
「いま」
少し言葉を選んでから続ける。
「僕たちは歴史の転換点にいる」
皆が黙って聞いている。
聖女召喚。
結界の張り直し。
王太子と聖女の婚約。
王国史に必ず残る出来事だ。
ルシアンは続ける。
「だから記録しなければならない
もちろん」
机に置かれた本を指で叩く。
「正式な歴史は城の文官たちが書く
僕たちは彼らには遠く及ばない」
オスカーが小さく頷く。
文官たちは専門家だ。
正確な記録を残す仕事をしている。
しかし。
ルシアンは言った。
「でも
僕たちにしか書けない記録がある」
ジュリアンが少し身を乗り出す。
ルシアンは仲間たちを順に見た。
「僕は王家を書く
もちろん書ける範囲だけだ」
皆が少し笑う。
王族の内情は、何でも書けるわけではない。
ルシアンは続ける。
「ジュリアン」
ジュリアンが胸を張る。
「ヴェルディエ公爵家と貴族史」
ジュリアンは頷いた。
「任せてくれ
貴族の動きなら、父上の書斎でかなり聞ける」
ルシアンは次を見た。
「オスカー」
眼鏡をかけた少年が顔を上げる。
「侯爵家の資料と古代史」
オスカーは真面目に頷いた。
「聖女関連の古記録も調べる
初代聖女の遠征記録も残っているはずだ」
ルシアンはさらに続ける。
「エーリッヒ」
少年は静かに言う。
「伯爵家の資料と経済史
結界の維持費も調べる
今回の聖女召喚で財政がどう動いたかも」
ルシアンは笑った。
「それは重要だ」
そして視線を移す。
「マティアス」
騎士家系の少年が腕を組む。
「騎士団と軍事史
国境のワイバーンの記録もある
父上の部隊の報告書を見られる」
ルシアンは最後に言った。
「フロリアン」
静かな少年が顔を上げる。
「子爵家の領地と民衆史
王都の人々が聖女をどう見ているか
そこを記録する」
机の上に静かな熱が生まれていた。
ルシアンは言う。
「この六つの視点で記録すれば
未来の歴史家にとって意味のある資料になる」
ジュリアンが笑う。
「面白いじゃないか」
オスカーも頷く。
「百年後の学者が読むかもしれない」
マティアスが言う。
「その頃には僕たちは歴史の登場人物だな」
皆が笑った。
そして。
それぞれが紙を取り出す。
歴史の中にいる自覚。
少年たちは真剣だった。
その帰り道。
ルシアンはジュリアンを呼び止めた。
「ジュリアン」
「ん?」
ルシアンは少し迷ってから言った。
「……一つ聞いていいか」
ジュリアンはニヤリと笑う。
「ミレイユ姉上のことだろ」
ルシアンは少し赤くなった。
ジュリアンは楽しそうに言う。
「花だな?」
ルシアンは咳払いした。
「好きな花」
ジュリアンは少し考える。
そして言った。
「春なら
白いスズラン」
ルシアンは頷いた。
「そうか」
ジュリアンは肩をすくめた。
「頑張れ、第四王子殿下」
ルシアンは何も言わなかったが。
頭の中では、もう決まっていた。
次に会う時。
花を贈ろう。
白いスズランを。
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