第十四話 結界の向こう側
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聖女として王宮に来てから、数ヶ月が過ぎた。
小鳥遊美咲と王太子ヴァレリウスの関係は、誰が見ても良好だった。
午後になると、必ず王太子が聖女の部屋を訪れる。
二人は並んで座り、ゆっくり話をする。
歴史。
文化。
王都の暮らし。
そして毎日、花が届けられる。
美咲はそれを楽しみにしていた。
隠すつもりはある。
でも、隠せていない。
嬉しい気持ちがそのまま態度に出てしまう。
侍女たちはそれを微笑ましく見ていた。
一方で。
ヴァレリウスは完璧だった。
態度はいつも落ち着いている。
感情はほとんど表に出ない。
しかし、王宮では皆気づいていた。
王太子が無理をしていることに。
公務を午前に詰め込む。
午後は聖女の時間。
出席が必須の会議でさえ、代理を出すことがあった。
普通なら許されないことだ。
だが。
ここは聖女信仰の国。
聖女の機嫌を損ねることの方が問題になる。
王太子はそれを利用していた。
そして。
二人の関係が良好なほど、聖女の祈りも安定する。
そのため結界の張り直しは、予定より早く進んでいた。
その日。
美咲は王太子と共に王都を離れていた。
国境近く。
結界の柱の一つがある場所だ。
古い石塔が立ち、その周囲には魔法陣が刻まれている。
ここでも祈りの唄を捧げる。
それが聖女の役目だった。
美咲は少し緊張していた。
王都の塔とは違う。
ここは、本当に国境なのだ。
「大丈夫か」
ヴァレリウスが言う。
美咲は頷いた。
「うん」
目を閉じる。
そして歌い始めた。
柔らかな旋律。
祈りの唄。
結界が光る。
魔術師たちが息を呑む。
魔力が安定していく。
その時だった。
空から影が落ちた。
巨大な影。
「……!」
騎士が叫ぶ。
「ワイバーン!」
空から降下してきたそれは、結界へ突っ込んだ。
轟音。
結界が激しく揺れる。
しかし。
光の壁がワイバーンを弾いた。
怪物は咆哮しながら空へ舞い上がる。
美咲は固まっていた。
あんなものが。
本当に存在するのか。
あれが人を襲うのか。
恐怖で足が動かなかった。
気づいた時には。
美咲はヴァレリウスの腕にしがみついていた。
ヴァレリウスは静かに言う。
「大丈夫だ
結界は守っている」
美咲は震えていた。
でも。
今、はっきり分かった。
この結界がなければ。
人は、あの怪物に襲われる。
美咲は小さく言った。
「……頑張る」
ヴァレリウスが顔を向ける。
美咲は続けた。
「結界
ちゃんと張る」
それは覚悟だった。
数日後。
王都では噂が広がっていた。
「聖女様が結界を守ってくださった」
「ワイバーンを退けたそうだ」
「祈りの唄のおかげだ」
人々は聖女を称えた。
そして。
王都の人気はますます高まっていった。
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