「Interlude―97」
「無限の内乱」
言葉を切り、ナタリーは一瞬、シャノリアの目を穴のあくほど見つめた。
シャノリアが目をぱちくりさせる。
「……内乱関係者は信用ならないってこと? でも、それってちょっと暴論じゃ――」
「もっと広義に『内乱が始まるより前から生きていた方は信用ならない』ということですよ」
「それも……ちょっと言い過ぎなんじゃない?」
「はてそうでしょうか?」
ナタリーが視線を逸らすことなく続ける。
「このリシディアという国。ディノバーツ先生は、一度もおかしいと思ったことはないのですか?」
「お――大きく出たわね、国だなんて」
「暗い部分が多すぎるのです、リシディアは。人間と魔女の対立が招いた無限の内乱。四大貴族がほとんど脱した王国組織。内乱最大の傷を残した『痛みの呪い』。今回のプレジアでの騒ぎの容疑者に、国そのものの名前が挙がっていることも」
〝僕、最近よく解らなくなってきてるんだよね。誰がウソつきで、誰が正直者なのか。誰が敵で、誰が味方なのか。誰に何を話すべきなのか、誰を信用すべきなのか〟
「易々と信じる訳にはいかないんですよ。大人を――私の知らない時間を生き過ぎている者達は」
――きっとギリートは、自分が記録石を通して聞いていることも計算に入れていたのだろう、とナタリーは内心歯噛みする。
事あるごとに信用を盾に相手を品定めし、思ったことをはっきり伝えては各所でコミュニケーションに不全をもたらすいけ好かない男を、ナタリーはずっと敬遠していた。
一体何をそんなに恐れているのかあのコミュ障は、とずっと思っていた。
そうも言っていられなくなったのは、ナイセストが「痛みの呪い」を使用した実技試験決勝戦からである。
呪いの開発者。使用者。
そして、今回の記憶を奪う事件のターゲットにされている人物。
そして、いずれもに国そのものの関与が疑われる、という異常事態。
ナタリーは、急に何かとてつもなく巨大な闇に、自分一人で立ち向かっているような気がした。
そしてその闇は実際、実力行使という形で彼女の前に姿を現した。
眉唾物の陰謀論はその時を以て、ごく現実的な脅威へと変わったのである。
〝お前なら信用できる〟
誰を信用し、誰を疑うか。
目につく全てを疑いながら慎重に動く必要が、ナタリーにはあったのである。
そして、ナタリーのそんな思いは瞳を通し――――目の前のシャノリアに、どこか切迫した、祈りにも似た感情を想起させた。
「あなたは何か知らないのですか、先生。あなたもニ十歳以上で――あの内乱を経験した人なのでしょう?」




