「Interlude―98」
「わ……私?」
シャノリアが困惑気味に頬を緩ませる。
「知ってるワケないじゃない、よく知らせを聞いていたくらいよ。その知らせだって、『酷いことが起こった』くらいの認識で……だってその当時、私四、五歳くらいだよ?」
「ディノバーツ先生は大貴族の一、雑に言えばあのティアルバーと同類ですから。いかに幼かろうと疑う余地はあるなと思ったまでです。それに」
「ああ……でも、物心はもうついてた頃だったから……父さんと姉さんが内乱で死んじゃったのは、悲しかったな」
「――お姉さんも亡くなっておいでだったんですか?」
ナタリーが目を瞬かせる。
シャノリアは彼女を見ずに頷いた。
「さすがに、父さんの――――ダンセル・ディノバーツのことは知ってるのね」
「知らない人の方が少ないでしょう。過去のリシディアに於いて、当代最強と謳われた貴族じゃありませんか。現在のヘヴンゼル騎士団も、彼が創設の提案をされたと聞いています」
「うん。そうしてものすごく忙しいはずなのに、ちゃんと家族も大事にしてくれて……自慢の父親だった。だから――戦死したって聞いたときは、びっくりしたな」
「……直接の死因などは?」
「詳しくは覚えてないし、たぶん聞いてないんだと思うけど。戦死だって言ってたくらいだから、戦場でやられちゃったん……だろうと……」
「…………でしょう?『当代最強と言われた百戦錬磨の父親が、戦場で死ぬなんてことがあるか』と、一瞬思うでしょう? まあ、戦場ですから常にイレギュラーは起こり得るのでしょうが」
「う、うん……でも、それだって暴論には変わりないわ。戦死じゃない証拠は無いわけだから」
「ええ、ですがどれも一方的に出された証拠ばかりです。私は自分で、この世界の正体を明らかにしたい」
「正体、ねぇ……」
「ちなみに聞くのですが。お姉さんの死因は、なんだったのですか?」
「え?」
シャノリアが動きを止める。
ナタリーはすぐに眉をひそめた。
「聞いていないのですか?」
「ああ、いえ。判ってるのよ。戦火に巻き込まれて犠牲になった、って」
「戦火に巻き込まれるような場所に居たのですか――――と聞きたい所ですが、無駄な質問ですかね。無限の内乱では、『魔女狩り』が起こり、非戦闘区域がいくつも犠牲になりましたし――――」
「……先生?」
ごく近い、ナタリーの声。
それが、耳に入らない程――シャノリアは、意識を自身の内へ潜り込ませていた。
(姉さんは――戦火の中で死んだ。それは分かってる。でも、どうして――)
〝お父上――ダンセル・ディノバーツ様は、此度の戦乱の中で戦死なされました〟
その知らせも。
知らせた声も、その顔も。
その時の感情も、はっきりと覚えている。
その声が憎らしくて堪らなくなったことも、彼女は鮮明に覚えている。
だからこそ。
(どうして私は――姉の死を知らせた人のことを、こんなに思い出せないんだろう?)




