「Interlude―96」
◆ ◆
「……一体何だというのです、あの化け物は……」
壁を背にしたまま、ナタリーはそう吐き捨てた。
彼女は既に、標的となるべきマークを失っている。
故に襲ってくる者はおらず、ナタリーはじっくりとトルトと圭を観察し――思索にふけるだけの時間があった。
(……実際、あの教師はああまでならずともケイさんを追い詰めることが出来た。あんな妙な肉体強化などせずとも、英雄の鎧を使うだけであっさり歯が立たないように出来た筈。ということは、あれは――)
〝記憶がねえんだ。俺にはよ〟
(――あれは本当で、今記憶と共に力も取り戻している最中、ってことですか。まったく厄介な。そんな訳の解らない体の仕組みになるなんて、一体どんな過去があればそんな――)
「コーミレイさん」
視線を動かさず、頭を壁に預けるようにして視界を上向かせるナタリー。
神妙な顔をしたシャノリアが、彼女を見下ろしていた。
「何か用ですか」
「傷。終わったらすぐ治してあげるからね」
「大丈夫ですよ。このくらい自分で治せますから」
「顔の傷を甘く見ちゃダメ。処置甘いと痕残るんだから」
「……ではお願いします」
「……美貌も駆使する報道者になるために顔のケアは欠かせない、ってところかしら。折れた理由としては」
「一々言わなくていいですって」
「ご、ごめん。なんかちょっと嬉しくって」
「で? そんなものが近寄ってきた理由じゃないのでしょう」
「……どうしてすぐに戦いを降りなかったの?」
『おおっとぉ!? もはやゲームなど関係ない領域に入りつつある二組のカップルゥ!! ルールのことは既に全く頭にないのかぁ!? ってかいい加減にしてくれー! 主催者たちが困っているゥ! 「一部企画倒れでしたね」と総括会議で言われる未来が見えるぅ!!』
「言われてますけど」
「私は生き残ってる強者の権利を行使してるだけですからー」
「はあ」
「よく分からないけど、ケイには戦う理由があるみたい。でも顔の怪我を気にするくらいなら、コーミレイさん的にはゲームを降りる道以外選ばないんじゃないかな、って思ったのね。それなのに、あなたはここにいる。それは――」
「無論、私にも目的があるからです。彼の糞どうでもいい目的に惰性で付き合っているからでは断じて無い」
「そうよね。そこは疑ってなかったわ」
「何を疑っていたんです?」
「えっ? あっ……もう。ホント絡めとるの上手いわね」
(あなたが下手なだけでは?)
「疑い、っていうと聞こえが悪いわね。ただ疑問なだけ。単刀直入に訊くわね。今あなたが得たい情報は、今回の記憶を奪われる事件と関係しているの?」
「耳が早いですねぇーェどこで情報を仕入れられたのやら? これはあそこの筋肉先生にも言えることですけど」
「アルクスのフェイリー君から連絡があったの」
「そんなに早くですか? へーェ」
「もっと大人を信用してもいいんじゃない?」
「信用なりませんよ。連絡があったのでしょう、校長の件も」
「……そうだけど」
「大体大人は信用ならないのですよ」
「そんな子どもみたいな言い方――」
「そんなことを私が言うとお思いで? だったらもう話したくないので消えていただけませんでしょうか」
「だ、だったらどういうことなの? 『大人は信用ならない』って――」




