31,☆私の片想い……
「いや、参ったよ~。林に頼まれてナンパなんて、久々にしたけどさ、一応いい反応もらえて、ほっとしたよ」
今日、家に来るって言ってたから、お昼のサンドイッチを作って待ってたのに。
「ホント、林に誘われて仕方なくだよ?だからこうして正直に亜子に報告してるわけ。俺に下心は微塵も無かったから。信じてくれるよな?」
嘘ではないと思う。
だけど、何でも報告すればいいってもんじゃないでしょ。とも思う。
「黙ってて、後から亜子の耳に入ったら嫌な気分になるだろ?誤解されると困るから、先に白状したんだけど……もしかして怒ってる?」
そう言われて『怒ってます』とは言えない。
……そう。言えなかった。
今までの私ならね。
だけど、変わろうと思う。
これまで、肝心なところで気持ちを打ち明けずに、後悔してきたから。
もう繰り返したくないから。
「じゃ、林くんに誘われたらデートもするの?林くんじゃなくても友達に誘われる度にナンパしたり合コン行ったりするの?」
香保里ちゃんは、林くんとは『付き合ってない』って言ってた。
お互いが、別の出会いを求めて行動することを許しているって。
だけど、私と司は違うでしょ?
最低限のマナーってものがあるはずだ。
「大袈裟だな。ちょっとコーヒー買って声を掛けた程度だよ。連絡先は交換しなかったし。林はしてたけど」
「林くんは有罪だけど、司は自分が無罪だと言いたいんだね。私にはどっちもどっちだよ」
「亜子、どうした?」
八つ当たりもあったと思う。
清彦にキープみたいに思われてたんじゃないかってショックだったし、
こうして司まで他の女性と私を天秤に掛けたりするの?……って、
被害妄想かも知れない。
だけど、どうにも腹が立ってしょうがない。
持っていたまな板をシンクに叩きつけて、大きな音を出した。
「ごめん、ごめん。俺の態度なかったよな?軽率だったよ。悪ノリした、ホントごめん」
本気で謝っているって伝わってくる。
でも、一旦吹き出した私の怒りは、そう簡単に収集できそうにない。
「今日は帰って」
「待てよ。もう二度としないって約束するから。俺が亜子一筋なの知ってるよな?」
「分からなくなってきた。『俺のことだけ見て』って言う割りに、自分はナンパとかしちゃうんだもん。それを嬉しそうに私に報告するってどういうことなの?」
「だから……それは林に乗せられてつい……亜子と付き合い始めてから、ナンパなんて一度もしてなかったよ。最初で最後だから信じて欲しい。それに、亜子だって……」
マズい事を口走ったかのように、司がそっぽを向いた。
「私がなに?」
体がくっ付くくらいに、詰め寄った。
「いや……」
「私がなに?何かした?」
司が『はぁ~』と息を吐きながらしゃがみ込んだ。
「お前だって、まだ真壁さんに片想いしてるだろ?」
司の声が遠くに聞こえる気がした。
「なに言ってるの?」
「見てれば分かるよ。真壁さんの話をするときの亜子は、すごく生き生きしてるから。俺じゃないんだなって思い知らされるよ。だから……って言ったら、また亜子は怒るだろうけど、ちょっとくらい嫉妬させてやろうかと……魔が差したんだ。亜子が、俺に固執する姿を見てみたくて」
「そんな理由?」
「大事なことだよ。好きな女が、他の男を想ってるなんて俺にとっては地獄だよ。ずっと気付かないふりしてきたけど、もう限界だよ」
「私、清彦のこと好きなんかじゃ……」
『ないよ』って言おうとしたのに言葉が詰まった。
「30日楽しみにしてるんだろ?俺の誕生会って言いながら、真壁さんの好きなもんばっか作ってるもんな」
さっきまで用意していたサンドイッチは、清彦の好物だ。
「いいよ。俺のことはついででも。俺はパンは好きじゃないけど、唐揚げでもグラタンでも、食べられないわけじゃないし」
どういうわけか涙が溢れてくる。
「そんな風に思ってたの?」
「だって、本当のことだろ?」
自分の気持ちが掴めない。
私は清彦に片想いしてるの?
「ごめん。悪いんだけど、今日は帰ってくれる?一人で考えたい」
パサパサになりかけたサンドイッチにぱくつきながら、ぼんやりと思い返している。
私は無意識のうちに司を傷つけていたの?
いつも私を肯定してくれて、側にいてくれる司に甘えてた?
注がれる愛に、愛を持って応えられていただろうか?
涙が止まらない。
だって……
出てくる答えが……
どれもこれも……
「なんて最低なの」
自覚しないようにしてた。
だって、常に頭のどこかに清彦の影があるって分かってたのに、
私はそれをずっと放置したまま、司と会っていたんだ。
もっと努力をすべきだった。
目の前にいる司だけを愛する努力を……していなかった。
重い腰をあげて、スマホを取りに行く。
司に謝ろう。
一方的に感情を押し付けてしまったことを。
確かに司は馬鹿なことをしたけど、私はもっと酷いことをしてきたんだから。
手元を見て息が止まる。
まただ……
諦めよう、忘れようとする度に、私に憑りついて離れない亡霊のように……
『少し話せないか?』
清彦からの短いメッセージに金縛りにあったみたいに動けない。
『ごめん』
震える指を動かして、やっとの思いで返す。
一瞬にして司のことが頭から消え、清彦の反応を気にしてしまう。
こういうところだ。
司に指摘された、私の片想い……
胸に抱いていたスマホが震えている。
清彦からの着信。
『出ちゃいけない』
頭では分かっているのに、
「もしもし……」
抗えないこの気持ち。
私の片想い……




