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あうん  作者: あおあん


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3,★初恋を超えられない

ああ。マジで疲れた。


隣の区のビル火災の応援要請で、一晩中動き続けた。


今日の夜、亜子はプロポーズされるだろう。


なるべく考えたくない。


自暴自棄になりたくない。


俺たちは高2の夏、付き合い始めた。


亜子は特別可愛いわけじゃないけど、性格が良くて、一緒にいるといつもいい気分になれた。


1年間付き合って、高3の俺の誕生日に亜子の初めてをもらった。


お互い初体験で、照れながらも、好き合ってるなら当然こうなるよなって流れで。


夏休みは受験勉強そっちのけで、互いの体についていろいろ学んだ。


俺は、このままずっとこの関係が続くんだろうって思っていた。


ところが夏休みが明けて、新学期、クラスメイトが俺たちを冷やかし始めた。


あることないこと言われて、亜子は俺と距離を取った。


もちろん別れたくなんて無かったけど、嫌がる亜子を説得できず、結局それっきり。


「この方がマシだ」


俺の声に驚いて、後輩がこっちを見てる。


「すまん。こっちの話」


そうだ。あの時、誓ったんだ。


あのままずっと亜子と話ができなくなるくらいなら、友達でいると。


あいつがどんな彼氏を連れて来ようとも、俺はただ、父のごとく受け入れてやる。


彼氏は入れ替わる。


だが、父は不動だ。






いつもそうだけど、気絶するように寝た。


出動が無ければ仮眠が取れるけど、昨日は休めなかったから……起きたら夕方だった。


8月3日、亜子の30歳の誕生日。


一応、『おめでとう』って送っておくか。


スマホを開いて、あいつの気に入りそうなスタンプを送った。


送った瞬間『既読』がついて、何やってんだ?って思った。


「真面目に準備してんだろうな?」


亜子は化粧でだいぶ盛ってるからいいけど、すっぴんは地味だからな。


返事は無いから、とりあえず、散歩に出ることにした。


飼い犬の『福ちゃん』を連れて家を出る。


『福ちゃん』の名付け親も亜子だ。


節分の日に家に来たコイツに『福は内』だもんね、そう言った。


俺の家族は皆して賛成した。


いろんな女と付き合ってきた、ぶっちゃけ、見た目は亜子より全然いい女たち。


だけど、誰もかれも性格は亜子とは比べ物にならない。


亜子のあの『圧倒的な素直』は他の追随を許さない、どころか、マジ、足元にも及ばなかった。


最初はどっちが本当の女の姿か分からなかったけど、ここまでくると、亜子が特殊なんだろう……と思うほどに、女ってのは根本うざい、と俺は思う。


合コンとかで出会った初期は、『この子も亜子みたいないい子かな』なんて時もある。


が、数カ月、平均して4ヵ月ってところかな。


俺の知ってる女たちは揃って、面倒臭くて、うっとおしい生き物に変化していった。


そして今は確信に変わりつつある。


亜子に敵う女はいないんじゃないか?






福ちゃんにグイグイ引っ張られて、勝手に亜子の家に連れて来られた。


「今日は会えないぞ」


俺だって会えたらいいと思うけど、直接『誕生日おめでとう』って言いたいけど……


もう出掛けたのかな?


何の気なしに亜子の部屋を見上げる。


カーテンが開いてるから、まだいるかも知れない。


でも、あいつの事だから、閉め忘れもあり得るな。


どうでもいい事を考えながら、福ちゃんの散歩を続けた。






「清彦、お風呂沸かしてちょうだい!」


母親に怒鳴られて、重たい腰を上げる。


この家にいると、こき使われるから、できれば亜子んちに行きたい。






一番風呂をもらって、自分の部屋に戻る。


スマホに小さな緑の点滅がある。


勤務の翌日は非番で、要請があればすぐに駆け付けなければならない。


慌てて画面のスイッチを入れる。


「亜子?」


こんな時間に何だよ……20時半……


レストランにいるはずだろ?


タップした。


『起きてる?』


起きてるに決まってるだろ。


『どうした?』


返事を待つ間に出掛ける準備をする。


消防士を舐めんな、防火服を数秒で着るスキルが身に付いている。


『ふられちゃったの』


はあああ?!


ふざけんなよ!


なにドジったら、『プロポーズ確定』が『ふられた』になるんだよ!


とりあえず電話を掛けた。


『あ、清彦?起こしてごめんね』


「いい。起きてたから。んで?なんでフラれた?」


『実は昨日ね……』


亜子はとつとつと出来事を話してくれた。


「あのなあ……なんでもっと早く連絡よこさないんだよ」


もう靴を履いて走り出している。


『だって……疲れてると悪いと思って……』


「気にし過ぎなんだよ。俺の誕生会のお返しすっから。今向かってるから」


『む、向かってる?それはちょっと……』


「化粧してないとか言ったら、ぶっ飛ばすぞ」


『げ……』


途中のコンビニで、ケーキとクラッカーと泡が出そうな飲み物を買った。


もっと早く報告しろっつんだよ。


ちっとも準備が間に合わねーじゃねえか。


あとは……


亜子が好きなアイスクリームをたくさん買った。






「いらっしゃい」

「スナックかよ」


亜子を押しのけて部屋に入り込む。


「なんか怒ってる?寝起きで機嫌が悪い?」

「んなわけねーだろ」


昨日のグラスがキッチンでひっくり返ってたから、テーブルに並べる。


適当に手に取ったスパークリングワインは、ロゼだった。


「可愛い!ピンクだね!」


案外元気そうだな。


装ってるだけか?


「言うのが遅いんだよ。誕生日、終わってたらどうする気だったんだよ」

「だってぇ……」


亜子にグラスを渡す。


少し屈んで、目線を合わせる。


「お誕生日おめでとう、亜子」

「ありがとー!!」


一口飲んで、嬉しそうににこってこっち見て笑った。


亜子ほど可愛い女はこの世にいない。


不思議なことに、この事実に気付いているのは俺だけらしい。


「なにがあったかはさっき聞いたけどさ、で、亜子はどう思ってんの?」


そこが重要だからな。


「それがさ……そんなショックじゃないの。それに気付いて、ショック受けてる」


「は?意味分かんね」


亜子はこんな大事な日にカレーを食ってたのか?


コンロの鍋を確認して驚く。


「なんていうかさ。時間無駄にしたなーとか、本当に好きだったのかなーとか、そんな事ばっか考えちゃって。豊の事はちっとも思い浮かばないの。自分の事ばっかでさ。最低だよね、私」


「好きじゃなかったってことか?」


「うーん。好きだった……はずなんだけど……未練がないのはなんでだろう?」


人差し指を額に当てて首傾げてるけど、それで真剣に悩んでるつもりか?


「俺に聞くなよ」


笑いを堪えるのに必死だ。




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