28,☆熱が低い恋
本社ビルには各店舗から1~2名の美容スタッフが研修に来ていた。
早く出たのに、時間ギリギリに会場入りする。
一緒に電車に乗ってくれた清彦に、心の中で改めて感謝。
「亜子ちゃんじゃない?」
明るい髪色のカールしたロングヘア、長身でモデル体型の同期入社の子。
「美玖ちゃん!久しぶり!」
ハイタッチ。
「きゃー、亜子ちゃん変わんないね?今もあそこの駅デパ?」
「そうそう。美玖ちゃんは?」
あ……あそこか。
聞いた場所は、清彦が引っ越すと言っていた街の百貨店だった。
談笑しながら、適当に並んだ席に座り、講座が始まるのを待つ。
「なんかさ、若い子が多くない?」
キャピキャピした明るい雰囲気に、私は付いていけてない気がする。
「って言うか、私たちがおばさんになっちゃっただけじゃない?もう職場に後輩しかいないんですけど……亜子ちゃんとこは?」
「同じく。一緒に働いてる子は全員年下だよ。この春入ってくる子なんて10こも離れてるし」
「だよね。亜子ちゃん、結婚は?」
「ううん。付き合ってる人はいるんだけど、まだ1年も経ってないし、そういう話はこれからかなって」
「そっか。いーなー。私も誰かお相手見つけないとなぁ」
美玖ちゃんが『んー』と両腕を上に伸ばした。
「彼氏いないの?」
清彦の『誰か他の子紹介しろよ』が頭を過る。
「いない、いない。もう何年もいないよ。ってか、皆どこで出会いって見つけてるの?」
美玖ちゃんとは入社当時の研修会や、こういう勉強会でたまに会うだけの仲だけど、気が合うのか、いつも話が盛り上がって楽しい。
見た目も美しいし、性格も良いから、清彦とはお似合いかもしれない。
「どんな男性がタイプなの?」
さっき、まーちゃんと上手くいかなかったって文句言われたから、ちょっと慎重にね。
「うーん。男っぽい人がいいな。ほら、私って背が高いじゃん?だから、元彼がそうだったんだけど、並んで歩くの嫌がってさ。そういうのはもう気にしたくないかもなぁ」
がたいの良さが清彦の売りです。
「あとは、仕事に理解がある人がいいかな。家は父親が公務員だったんだけど、接客業に理解がなくてさ、シフトが入ってない日に家でごろごろしてるとサボってるって未だに勘違いしてるの、きつくない?」
清彦は私の仕事に不満を思ってはなさそうだ。
「かっこ良ければ尚いいけど、贅沢は言わないよ」
見た目だっていい。
「あ。歳は近い方がいいな。できればちょっと年下とか?」
同い年、セーフ。
「亜子ちゃん?どした?」
条件クリアしてる……よね……?
「おーい、亜子ちゃーん」
美玖ちゃんが私の顔の前で手を振っている。
「紹介したい人がいるんだけど、今度会ってみない?」
美玖ちゃんから快諾をもらったから、早速、報告だ。
久々に見る、清彦のアイコン。
過去のやり取りがずっと下の方にあって、時の経過を実感した。
私のことを好きって言ってくれたけど、今朝は、他の子を紹介して欲しいって言ってた。
もう私のことは何とも思ってないんだろうな。
『いい人紹介できそうだよ。次の休み空いてる?』
こういうのはタイミングだったりするからね。
今日、清彦と偶然会ったのも、美玖ちゃんと会場で話せたのも、きっと何かのご縁だ。
帰りの電車の中でメッセージを送った。
今日は勤務日だから、明朝まで見ないだろう……って分かってたけど……
さすがに2日も返信よこさないってどういうことなの?
私だって美玖ちゃんに連絡したいのに。
司の家で焼うどんを食べながら、清彦への不満を漏らす。
「自分から紹介しろって言ったくせに、既読スルーってどうなのよ?おたくの隊長さん、酷くない?」
「ははは。知らねえよ。忙しいんじゃねえの?」
司は先に食べ終わって、段ボール箱を開けていた。
「なに買ったの?」
「腹筋を鍛えるやつ」
「……え。また?」
部屋中にトレーニング機器が転がっているのに、まだ満足できないの?
「ちっちっち、これは外腹斜筋を鍛えるよう、あっちは内腹斜筋を鍛えるようの器具なの」
「ふふん」
「鼻で笑ったな!亜子の腹筋は俺が鍛えてやろうか……!」
司にくすぐられる。
「ぎゃははは……ちょっと!まだ食べてるから……やめてってば!」
お箸を投げ出し、床に転がり落ちる。
「亜子……」
司が私に跨って、じっと見つめられる。
「司……」
急な展開にドキドキが止まらない。
「少し太った?」
「え?本当?」
急いで脱衣所で体重計に乗る。
「……やば」
去年の夏から5kgも太ってた。
確かに司といる私はよく食べる気がする。
自分でも上手く説明できないけど、『安心』とか『自然体』とかそんな言葉が当てはまりそう。
司は私に率直に想いをぶつけてくれるし、『愛されてるなぁ』と実感することも多い。
だから……
なんて言い訳したら、ダメなの分かってるんだけど……
好かれようとか、振られないようにとか、必死に頑張る必要が無くて、それが返って自分を油断させていた……的な?
最後にダイエットしたのは、去年の夏、海に行く前だった。
水着を着た姿を意識して……
そうだったね……
あの時は、清彦にどう思われるかを意識して……
胸が苦しくて、大きく息が吸えない。
まーちゃんが清彦のこと好きだからって……
自分の気持ちに蓋をして……
司への想いが嘘とは思わない。
だけど、やっぱりちょっと、燃えるような恋とは思えないままに今を過ごしている。




