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あうん  作者: あおあん
この春の出来事

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27/44

27,★リベンジ

駅で亜子を見かけて、足が止まった。


見間違いかと思い、目を擦ったが、亜子は亜子だった。


会いたくてたまらなかった、一目でいい、目を見て話がしたいと思っていた。


遠目で観察を続けたが、一向に電車に乗り込む様子がなく、怖がっているのだと分かった。


俺も亜子に話しかけるのは勇気がいったが、二度とないチャンスかもしれない。


握った手の平には汗をびっしょりとかいていた。


ズボンで拭って亜子に近寄る。


「おはよう、亜子」


逃げられたらどうしようと考えていたが、有難いことに口をきいてくれた。


やっぱり混雑した電車に乗れないようだったから、促して同じ車両に連れ込んだ。


こんな時間にまともな格好して駅にいたんだ、どうせ本社にでも行くのだろう。


という事は、亜子が降りるまでは5駅しかない。


俺は勝負をかける。


……うまいこと、奥のスペースで亜子を隔離できた。


それ程、押し合いへし合いではないが、亜子に近付くため苦しそうに装う。


亜子に俺の鍛え上げた筋肉を見せつけ、髪の匂いを嗅げる。


一石二鳥だな。


「ごめんね、きついでしょ?」


「ああ」


何ともないが、恩を着せておこう。


「お前さ、ちょっと言いたかったことがあるんだけど」


「なあに?」


ふさふさの睫毛とぱっちりな二重がたまらない。


「まーちゃんのどこが『いい子』なんだよ」


亜子がムッとした顔で、下唇を出した。


「いい子だよ。どうして上手くいかなかったの?」


「ちっともいい子じゃなかったから上手くいかなかったんだよ。あんなの勧めてくるなんて亜子はなかなかひでぇ女だ」


「ええぇ……そんなぁ……」


亜子が目を瞑った。


うっかりキスをしないよう、気を引き締める。


「新しい勤務先に行ったら知り合いもいないからな。誰か他の子紹介しろよ」


とにかく次に繋がる約束を取り付けたい。


「私ももう紹介できる子なんていないよ……」


「誰でもいいから」


自分が恐ろしく軽い男に思えてならない台詞だが、背に腹は代えられない。


「うーん、考えとく」


「連絡しろよ」


「分かった」


よっしゃ!


俺の目的が果たされたところで、亜子の本社がある駅に到着した。


背中を押して、一旦、一緒に降りてやった。


「気を付けて行けよ」


「うん。ありがとね。じゃ、また」


『また』が聞けてよかった。大成功だな。


ベルが鳴り、慌てて自動ドアに飛び込む。


顔がにやけてるから、気持ち悪がられないよう、ガラスに額を押し当てて笑みを噛み殺した。






久しぶりの生亜子の興奮は冷めやらないが、4月からお世話になる消防署に挨拶に伺う。


ここの隊にいたベテランが移籍し、その穴埋めに俺が入ったようだった。


「真壁隊長、よろしくお願いします!」


若いな。弾けるような笑顔が印象的な隊員だ。


一通り顔合わせを済ませ、不動産屋に向かった。


ワンルームの小さな部屋と、2部屋ある少し大きめの部屋を内見した。


そもそも寝に帰る場所さえあればいいと思っていたが、亜子に会ってしまい、考えが変わった。


「大きい方の部屋にします」


30歳という年齢が仕事に与える影響は少なからずある。


俺たちレスキュー隊にとって、体力は何よりも重要視される要素だ。


まだ衰えを感じているわけではないが、これから下り坂に差し掛かる予感はある。


仕事ばかりを優先した人生を送ってきたが、そろそろプライベートも考えたい。


亜子が20代での結婚にこだわっていた理由が、理解出来つつあるのだ。


田浦が亜子と結婚しないなら、俺がもらう。







「真壁さん、あっちはどうでしたか?」


戻ると早速、林と中村が話しかけてきた。


ここで俺が率いる隊のメンバーだ。これに田浦と水島を加えた5名で活動している。


「まあ、いいんじゃないか?」


「ははは。なんすか、それ」


機材のメンテナンスで手を動かしながら、おしゃべりを続ける。


この隊の中で唯一の既婚者、中村の話が聞きたい。


「中村は実家だったっけ?」


「はい。妻の両親と同居してます。子どもの世話を義母が手伝ってくれていますので助かっています」


子どもか……亜子と、子育て……楽しそうだ。


「俺は無理っす。同居とか嫌ですし、子どももまだ考えられないっす」


林は20代半ばだ。


「俺もお前くらいの時にはそう思ってたよ」


「俺も結婚は考えられないですね」


田浦が会話に入ってきた。


こいつに結婚願望がないことは前々から知っている。


「亜子はなんて言ってるんだ?」


それとなく聞いてみる。


「そういった会話がそもそも出ないんで、向こうも別に考えてないと思いますよ」


これまで田浦と亜子の関係を直視できず、聞かないようにしてきたプライベートだが、放っておけなくなってきた。


機材を触りながら、もう少し踏み込んだ質問をしてみる。


「亜子が結婚したいって言い出したらどうするんだ?」


「ないと思いますけど……説得しますかね。結婚イコール幸せじゃないじゃないですか。俺は今のままの関係を続けていきたいって思ってるんで、亜子も話せば分かってくれると思いますよ」


これは各々が持つ『価値観』というやつだから、田浦がどう思おうが俺には関係ない。


が、亜子が田浦の価値観を承知のうえで付き合っていないのなら、無関係ではいられない。


「真壁さん、言っておきますけど、俺と亜子は幸せにやってるんで、ちゃちゃ入れてこないでくださいよ」


「分かってるよ」




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