24,★誰でもいいってもんじゃない
正式に振られた。
重い足取りで階段を下りる。
「ここです!」
まーちゃんが駆け寄ってきた。
嬉しいとは思わないが、誰にも声をかけられないよりはマシだった。
「あれ?泣いてる?」
「んなわけないだろ」
調子が狂うほどの明るさに、今は救われる。
この能天気な態度が今の俺を癒してくれるのは確かだった。
「ねぇ真壁さん、パフェ食べに行きません?」
「いいよ」
俺の初恋、初体験、12年の片想い、俺の人生は馬鹿らしい程に亜子ばかりだった。
こうして寄ってくるから常に女性は近くにいたが、申し訳ないが、誰もかれも亜子の身代わりとしか思ったことがなかった。
「そう言えば、さっき田浦さん見かけましたよ」
「あ、そ」
「会いませんでしたか?」
「いや」
今はその話はやめてくれ。
たとえ女相手でも本気で怒るとどうなるか、今は俺にも分からない。
「まーちゃん、一人暮らし?」
「そうですよ?」
「パフェ食ったら、行ってもいい?」
「えー?彼氏じゃない人を家にあげるのはちょっとなぁ」
そう言いながら、俺の腕に胸を押し当ててくる。
「じゃ、付き合おっか」
「ほんとですかー?彼氏なら来てもいいですよぉ」
まーちゃんほど積極的な女性も珍しいと思うが、亜子とは違うタイプの方がいっそ気が楽か。
「ここです!お勧めの店!」
女子でごった返している、おもちゃ箱みたいな店に入った。
椅子が小さくて、ケツが痛い。
「私はイチゴパフェにします。真壁さんは?」
「清彦でいいよ」
メニューを受け取る。
俺はメロンパフェにした。
目の前で大口を開けて甘いものを頬張る女性から目が離せなくなる。
言いたいことを言って、食いたいもんを食って、自分の欲求にどこまでも素直な女だ。
好みのタイプじゃないが、果たして俺とどこまで続くだろうか。
まーちゃんも俺もグラスいっぱいのパフェをペロリと平らげ、ぶらぶらと歩く。
べたべたとくっ付かれるのは正直好きじゃないが、『まーちゃんならありえるか』とどこかで納得してしまっている自分がいる。
「本当にうち来ます?」
上目遣いが慣れていそうだな。あからさまなアピールは男としては悪くない。
「行こうかな」
暇だし、どうせ家に帰っても福ちゃんの散歩を押し付けられるのが落ちだ。
途中のコンビニで酒と弁当を買わされた。
「まーちゃんは料理とかしないの?」
「しません。めんどくさいもん」
はっきりしていて分かり易い。ふにゃふにゃした女よりはよっぽどいい。
「俺は家庭的な女性が好きだけど」
「へえ。家庭的じゃない女性と付き合ったことはあるんですか?」
はて……あったような、ないような……
「どうだったかな。あると思うけど」
「亜子先輩のことが好きって言ってるんですか?私に亜子先輩みたいになれと?」
そんなつもりじゃなかったが、そう聞こえたのだろう。
「気を悪くしたならごめん」
「私と付き合ってるんだから、亜子先輩のこと考えるのやめてくれませんか?」
「そうだな」
女は面倒だなって思ったことはこれまでもあったけど、たぶんこの子は別格だ。桁外れに我儘そうだ。ただ、思ったことを言葉でストレートに伝えてくれるから、その辺は分かり易いが。
まーちゃんの部屋は、びっくりするほど散らかっていた。
「入ってもいいのか?」
こんな部屋に人を招き入れるなんて、どうかしてないか?という意味だ。
「どうぞ、どうぞ。散らかってますけど。へへ」
……取り繕うとかしないのか?好きな男にどう思われるか考えたりしないのか?
正直、入りたい気は全くしないが、ここで帰るのも失礼な気がして、仕方なく靴を脱いだ。
「散らかってるけど、物が多いだけで、汚れてたりはしないよ」
「ああ」
何かを踏みながら部屋の中を歩くのには慣れてなくて、見えている床を探す。
「ここ座って」
どこから出て来たのか、二人掛けの小さなソファがあって、まーちゃんはその前の床をズザーと両手でどかした。
「ブルドーザーみたいだな」
「やだー、ウケる」
ウケ狙いで言ったつもりはないんだが。この子には嫌味が通用しない。
「温めてくる」
器用にぴょんぴょんと物を避けながら飛び回り、電子レンジに辿り着いている。身軽だな……
「グラス使います?」
「いや。缶のままで」
被災地の支援に行けば野営の食事なんてよくあるが、ここまで縮こまって飯を食うのは初めてだった。
「まーちゃん、なんで片付けないの?」
「え?だって、すぐに使うもんばっかりだから」
「これ全部すぐに使うの?」
「そうだよ。全部使う」
同じような洋服や、鞄が折り重なっているように見える。さすがに嘘が過ぎるだろ。
「まーちゃんは花嫁のようにお色直しをするんだな」
相当、感じ悪く言ったつもりだ。
「やだぁ!結婚式の話なんてまだ早いよ!」
恐ろしく強い力で背中を叩かれた。若干の嫌悪感を感じた。
弁当食ったらさっさと帰るか……もともと早飯だが、あっという間に食い終えた。
缶ビールも一気に煽る。
「さっ」
立ち上がろうとして、隣を見てギョッとする。
まーちゃんが上着を脱いでいた。
「おいおい」
片手で視界を覆って、落ちていた服を拾った。
「早くこれ着て」
「大丈夫ですよー、これキャミです。下着じゃないですから。暑いですし」
「いいから着て」
目を瞑っていたら、腹にまーちゃんが抱き付いてきた。
「まずいって」
「何がですか?別によくないですか?」
積極的な女性は嫌いじゃないが、さすがにこれはちょっと引く。
まーちゃんの手が、俺のTシャツの中を這いまわってくる。
「やめてくれないか」
ちっとも聞かず、両手でまさぐられる。なんなんだこの女。
「まーちゃん!よせって!」
大きな声で叱りつけて、手の自由を奪った。
力を込めすぎないよう、かろうじて加減する。
「もぅ、いくじなしー」
何と言われようとも構わない。いくらこんな状況の俺でもお前だけは無理だ。
「邪魔して悪かった」
そう言い放って、どしどしと足を鳴らしながら部屋を出た。




