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あうん  作者: あおあん
あの夏の思い出

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23/44

23,☆一人失恋

「清彦くんって、いつの話をしているの?あなたまさか、まだ好きなの?」


田浦くんに気付かず、余計なおしゃべりをしてる母を黙らせたい。


「お母さん、いいから!」


視線を逸らしてくれている田浦くんに胸が痛む。


「あら、さっきの人この人よ。わざわざご丁寧に、お花を買って来てくださったの?まあ、素敵、ありがとうございますね」


「ちょっと、外してくれない?」


さすがに雰囲気を察したのか、母がそそくさと退席した。


「田浦くん、ごめんね」


「なにに謝ってるの?」


言葉を失う。


「なんて、意地悪言ってこっちこそごめん。亜子さん、大丈夫?」


黙って頷く。


「香保里ちゃんから、亜子さんが倒れたってメッセ来てたの、さっき気付いて……来てみたらお母さんいらしてたから、花買いに行ったんだ」


どこまでも優しい。


花瓶を置いた田浦くんが、そっとベッドに腰掛けた。


向き合って目が合う。


二度目のキスの予感。


ぎゅっと目を瞑った。


「亜子さん、亜子さんも真壁さんのこと好きなの?」


はっと目を開ける……


「まだ好きなの?」


目を逸らしてしまった。


「大丈夫だよ。俺、まだやれる。少なくとも亜子さんに嫌われてるわけじゃなさそうだから、真壁さんより好きになってもらえるよう努力してみるよ」


さっと立ち上がり、爽やかな笑顔を見せてくれた。


「じゃ、俺、勤務明けで寝てないから、もう帰るね。起きたらメールしていい?」


「うん。待ってる」


田浦くんは颯爽と走り去った。






ぼんやりと、向かいの空いているベッドを眺めて過ごす。


特にする事はないし、母も帰ってしまった。


スマホの通知は一応ONにしている。


田浦くんからはまだ連絡はない。


「亜子先輩」


元気な声がして、まーちゃんがカーテンから顔を出した。


「来てくれたんだ」


突然シフトに穴を開けてしまったことを謝りたいと思っていた。


「まーちゃん、昨日はごめんね。私、よく覚えてないんだけど……」


まーちゃんの後ろに大きな影があるな、と思った瞬間、心臓がドキンと跳ねた。


「どうした?」


清彦の顔がまーちゃんの頭上から現れた。


心の準備が整っていなかったから、呼吸が乱れた。


また激しい耳鳴りが頭を絞め付けてくる。


「お前んとこ、そんなブラックだったの?」


「まさか!全然ですよね?亜子先輩、本当はどこか病気とかじゃないんですか?」


密着してしゃべる清彦とまーちゃんを見てると、涙が出そうになった。


「おい!そんなに辛いのか?医者呼ぶ?」


清彦が慌てている。


「大丈夫、ちょっと……あの……せっかく来てもらったんだけど……」


もう帰って欲しい。


「真壁さん、長居はよくないですから、私たちもう行きましょう?」


まーちゃんが清彦に腕を絡めた。


「あ、ああ」


首を捻ってこっちを見たまま、連行されていく清彦。


「まーちゃん……悪いんだけど、先帰ってくんない?俺、ちょっと亜子と話があんだわ」


ゆっくりとした動作で、清彦がまーちゃんの腕から逃れた。


「……それはちょっと」


露骨に不快感を表すまーちゃん。


「まーちゃんが心配してるようなことじゃないから」


清彦がまーちゃんの肩をそっと掴んで後ろを向かせた。


「下で待っててもいいですか?」


まーちゃんが食い下がる。


「いいよ。じゃ、10分頂戴」


ぺこりと私にお辞儀をして、まーちゃんは行った。


「彼女、すごいパワフルだよな」


清彦がベッドの足元に座った。


横を向いていて、私には表情がよく見えない。


「俺に好意を持ってくれている」


「うん」


「付き合って欲しいって言われたんだ」


「うん」


「亜子はどう思う?」


「……」


「田浦と仲良くやってんだろ?俺がまーちゃんと付き合った方が、田浦もお前も嬉しかったりするか?」


「……私に決めさせるの?」


「俺の気持ちは言ったよな?亜子が好きだよ。でも亜子が俺のことを好きになれないなら、側であーだこーだ言われても迷惑だろ?だから、その辺わきまえようかと」


親指の爪を摘まむようにいじっている。昔から、悩んでるときの清彦の癖だ。


私が清彦を苦しめている。


告白を保留にし、自分の気持ちを言わないままに……


「私がいいって言ったら、まーちゃんと付き合うの?」


「そういうことになるかな」


「私がダメって言ったら?」


「その時は、俺と付き合えよ。そういうことだろ?」


息をつめて返事を考える。


ブブッ


微かに震えたスマホに、体がビクッと跳ねた。


ふわっと画面に浮かんだメッセージ。


『俺だけを見て』


田浦くん……


清彦に気持ちはある。これが恋なのか、長年一緒にいたからの執着のようなものなのか分からない。でも、田浦くんを裏切るほどの力はないみたい。


「まーちゃん、いい子だよ」


気が付いたら、そう言っていた。


「そうか、分かった」


清彦は振り返らずに歩いて行った。






どれだけ泣いただろう。


頭がぼうっとして、何も考えられない。


うつらうつらと寝たり起きたりを繰り返した。


涙も鼻水も顔に乗っけたフェイスタオルに全部吸ってもらった。


「ふぅ~」


鼻が詰まって息が苦しい。


体を起こして、水を探す……


「ひぇっ!」


田浦くんがペットボトルを差し出してくれていた。


「いつからいたの?」


最悪だ!タオルを顔にあてて布団を被る。


「ごめん、ずっといた」


嘘でしょ!泣いたの見られてた!


「亜子さん、ありがとう。俺のことを選んでくれたんだよな」


もしかして、清彦との会話を聞いてたのかな。


「今はさ、罪悪感から俺といてくれるのかも知れないけど、それでも俺は嬉しいよ」


布団を捲られ、田浦くんの頭が潜ってきた。


優しく微笑む目で、私の瞳を覗き込まれる。


「亜子さん可愛い」


そう言って長いキスをされた。




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