22,☆そんなに愛される理由が分からない
田浦くんに優しく抱きしめられ、耳元で「さっきは勝手なことしてごめん」と言われた。
交際を申し込まれ、『うん』と答えて今に至るのだから、こういう展開も予想は出来ていた。
だけど、田浦くんの真っ直ぐな気持ちが恥ずかしくて、まともに顔が見られない。
……清彦?
ふっと風に乗って彼の匂いがした気がした。
離れたところを背を向けて歩く男性に意識が向く。
「亜子さん」
呼び戻される。
「でも……」
清彦に誤解されたかもしれない。
田浦くんが黙って首を横に振っている。
やっぱり清彦に気付いたんだ。
「お願い。俺だけを見て」
「だけど……友達なの……」
「それが本当の意味で『友達』なら俺だってこんなお願いしたりしないよ。だけど、真壁さんは亜子さんに本気だろ?だからそれは、俺には大問題だ。行かせられない」
ちょっとだけ語気が強くなって、私の腕を握る手に力がこもってる。
「そうだよね。ごめん」
口では田浦くんに謝ったけど、心の中では清彦に謝っていた。
一人部屋に戻り、スマホを眺める。
清彦は何しに来たのだろう。
今日はまーちゃんが告白するって言ってた……なにかあったんだろうな。
好きだと言われたけど、長年の『親友癖』が抜けてないみたい。
何度も迷ったけど、清彦にメッセージを送ることはできなかった。
田浦くんに不義理のような真似はさすがに出来ない。
明日、まーちゃんにそれとなく様子を伺ってみよう。
遅番の今日は、私が持ち場に着いたとき、既にまーちゃんと香保里ちゃんがいた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、亜子先輩」
二人ともディスプレイの並べ替えに夢中になっている。
「こっちの方が絶対可愛いって!」
「いーや。さっきの方がいいと思う」
ムキになって言い合っている姿が可愛らしい。
仕事に熱心だからこその意見の衝突だもんね。
「私はこの感じ好きだよ」
香保里ちゃんの押しているディスプレイに一票を投じる。
「ほらね!じゃ、これで決まりだね~」
これにて一件落着……
とは、ならなかった。
「亜子先輩、ズルいです」
まーちゃんに食ってかかられる。
「今来たばかりですよね。さっきのちゃんと見てなかったくせに、私の案だから却下しただけなんじゃないですか?」
「そんなことないよ……」
確かに今来たばかりで、まーちゃんの提案はあんまり見ていなかったけど。
「まーちゃんどうしたの?亜子先輩にそんな言い方して、よくないよ?」
香保里ちゃんが間に入ってくれる。
「亜子先輩は私のことが嫌いなんだよ。私が真壁さんと付き合うことになったのが気に入らないんだよ」
「え?付き合うことになったの?」
「聞いてないんですか?昨日、告白してオッケーもらいましたよ」
勝ち誇った顔のまーちゃんが、目の前にぐるぐると……思わず目を瞑った。
「あ。そういうこと?」
香保里ちゃんが妙に納得をして、私の肩に手を置いた。
「もう『お友達ごっこ』は駄目ですよ。真壁さんはまーちゃんのものになりましたので、亜子先輩は縁を切ってください」
頭の上からすぅーっと寒気がして、本当に気分が悪くなった。
足先にぐっと力を入れて自我を保つ。
「分かった」
かろうじて返事をして、その場を離れた。
昨日、清彦はこのことを言いに来てくれたのだろうか。
どうしてだろう……なんでこんなに気になるんだろう……聞きたい。清彦の口から聞きたい。
今日は勤務のはずだから、明朝まで連絡はつかない。
一昨日、清彦んちで天ぷらを食べた日のことを思い返す。
あの日、清彦は退院してきて、福ちゃんと散歩している私に会いに来てくれた。
田浦くんと上手くいってるか聞かれた後、清彦は『俺の言ったこと考えてくれたか?』って言った。
私の考え違いでなければ、それは病院での告白のことだ。
清彦は私のことが好きなんだよね?
それなのに、まーちゃんと付き合うなんてある?
残念だけど……それは『ある』。
だって、今までだって他の女性と付き合ってきたのを私は知ってる。
『上手くいかない』って言いながら、またすぐに別の女性と交際を始めていた。
私のことを好きだと言いながらも、清彦は他の女性と付き合える人なんだ。
清彦は完璧じゃない、清彦と私の関係は終わっている、清彦は好きでもない女性と付き合っちゃうような……彼を嫌いになる理由をたくさん思い浮かべる。
じゃないと……私、どうにかなっちゃう……
ひどく耳鳴りがして、頭が締め付けられるように痛い。
視界が徐々に狭まり、息が出来なくなった。
足に力が入らなくて、床に手を着いた……
ところまでは覚えている。
「亜子、大丈夫?」
「……お母さん?」
「もう、心配したわよ。職場からお電話頂いて、倒れたって聞いて、慌てて来たんだから」
カーテンで仕切られた相部屋のようだが、隣も向かいのベッドも空いているようだった。
「今何時?」
窓からは光が刺しているから、夜ではなさそうだ。
「10時よ」
「え?」
「あなた一晩中、眠っていたのよ。過労って言うと……ほら、職場に問題があるみたいに聞こえるから、そういう言葉は使わないで欲しいって言われたんだけど、要は……あれね、『疲れが溜まってた』ってことらしいわ」
「私が?」
そんなに忙しいことなんてちっともなかったのに。
なんだか可笑しくて笑ってしまった。
「そう言えばさっき、男の人がお見舞いに来てくれたわよ。なんて言ったかしら……」
「清彦……?」
そう聞いたと同時に、カーテンの陰から田浦くんが現れた。




