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あうん  作者: あおあん
あの夏の思い出

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22/44

22,☆そんなに愛される理由が分からない

田浦くんに優しく抱きしめられ、耳元で「さっきは勝手なことしてごめん」と言われた。


交際を申し込まれ、『うん』と答えて今に至るのだから、こういう展開も予想は出来ていた。


だけど、田浦くんの真っ直ぐな気持ちが恥ずかしくて、まともに顔が見られない。


……清彦?


ふっと風に乗って彼の匂いがした気がした。


離れたところを背を向けて歩く男性に意識が向く。


「亜子さん」


呼び戻される。


「でも……」


清彦に誤解されたかもしれない。


田浦くんが黙って首を横に振っている。


やっぱり清彦に気付いたんだ。


「お願い。俺だけを見て」


「だけど……友達なの……」


「それが本当の意味で『友達』なら俺だってこんなお願いしたりしないよ。だけど、真壁さんは亜子さんに本気だろ?だからそれは、俺には大問題だ。行かせられない」


ちょっとだけ語気が強くなって、私の腕を握る手に力がこもってる。


「そうだよね。ごめん」


口では田浦くんに謝ったけど、心の中では清彦に謝っていた。






一人部屋に戻り、スマホを眺める。


清彦は何しに来たのだろう。


今日はまーちゃんが告白するって言ってた……なにかあったんだろうな。


好きだと言われたけど、長年の『親友癖』が抜けてないみたい。


何度も迷ったけど、清彦にメッセージを送ることはできなかった。


田浦くんに不義理のような真似はさすがに出来ない。


明日、まーちゃんにそれとなく様子を伺ってみよう。






遅番の今日は、私が持ち場に着いたとき、既にまーちゃんと香保里ちゃんがいた。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です、亜子先輩」


二人ともディスプレイの並べ替えに夢中になっている。


「こっちの方が絶対可愛いって!」

「いーや。さっきの方がいいと思う」


ムキになって言い合っている姿が可愛らしい。


仕事に熱心だからこその意見の衝突だもんね。


「私はこの感じ好きだよ」


香保里ちゃんの押しているディスプレイに一票を投じる。


「ほらね!じゃ、これで決まりだね~」


これにて一件落着……


とは、ならなかった。


「亜子先輩、ズルいです」


まーちゃんに食ってかかられる。


「今来たばかりですよね。さっきのちゃんと見てなかったくせに、私の案だから却下しただけなんじゃないですか?」


「そんなことないよ……」


確かに今来たばかりで、まーちゃんの提案はあんまり見ていなかったけど。


「まーちゃんどうしたの?亜子先輩にそんな言い方して、よくないよ?」


香保里ちゃんが間に入ってくれる。


「亜子先輩は私のことが嫌いなんだよ。私が真壁さんと付き合うことになったのが気に入らないんだよ」


「え?付き合うことになったの?」


「聞いてないんですか?昨日、告白してオッケーもらいましたよ」


勝ち誇った顔のまーちゃんが、目の前にぐるぐると……思わず目を瞑った。


「あ。そういうこと?」


香保里ちゃんが妙に納得をして、私の肩に手を置いた。


「もう『お友達ごっこ』は駄目ですよ。真壁さんはまーちゃんのものになりましたので、亜子先輩は縁を切ってください」


頭の上からすぅーっと寒気がして、本当に気分が悪くなった。


足先にぐっと力を入れて自我を保つ。


「分かった」


かろうじて返事をして、その場を離れた。


昨日、清彦はこのことを言いに来てくれたのだろうか。


どうしてだろう……なんでこんなに気になるんだろう……聞きたい。清彦の口から聞きたい。


今日は勤務のはずだから、明朝まで連絡はつかない。


一昨日、清彦んちで天ぷらを食べた日のことを思い返す。


あの日、清彦は退院してきて、福ちゃんと散歩している私に会いに来てくれた。


田浦くんと上手くいってるか聞かれた後、清彦は『俺の言ったこと考えてくれたか?』って言った。


私の考え違いでなければ、それは病院での告白のことだ。


清彦は私のことが好きなんだよね?


それなのに、まーちゃんと付き合うなんてある?


残念だけど……それは『ある』。


だって、今までだって他の女性と付き合ってきたのを私は知ってる。


『上手くいかない』って言いながら、またすぐに別の女性と交際を始めていた。


私のことを好きだと言いながらも、清彦は他の女性と付き合える人なんだ。


清彦は完璧じゃない、清彦と私の関係は終わっている、清彦は好きでもない女性と付き合っちゃうような……彼を嫌いになる理由をたくさん思い浮かべる。


じゃないと……私、どうにかなっちゃう……


ひどく耳鳴りがして、頭が締め付けられるように痛い。


視界が徐々に狭まり、息が出来なくなった。


足に力が入らなくて、床に手を着いた……


ところまでは覚えている。







「亜子、大丈夫?」


「……お母さん?」


「もう、心配したわよ。職場からお電話頂いて、倒れたって聞いて、慌てて来たんだから」


カーテンで仕切られた相部屋のようだが、隣も向かいのベッドも空いているようだった。


「今何時?」


窓からは光が刺しているから、夜ではなさそうだ。


「10時よ」


「え?」


「あなた一晩中、眠っていたのよ。過労って言うと……ほら、職場に問題があるみたいに聞こえるから、そういう言葉は使わないで欲しいって言われたんだけど、要は……あれね、『疲れが溜まってた』ってことらしいわ」


「私が?」


そんなに忙しいことなんてちっともなかったのに。


なんだか可笑しくて笑ってしまった。


「そう言えばさっき、男の人がお見舞いに来てくれたわよ。なんて言ったかしら……」


「清彦……?」


そう聞いたと同時に、カーテンの陰から田浦くんが現れた。




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