21,★メソメソする男
ブーブーブー
『着きました』
まーちゃんからのメッセージを受信した。
近くの本屋で時間を潰していた俺は、駅の改札に向かった。
「真壁さん!」
ふわふわとどこかに飛んで行ってしまいそうな服を着た女性が走ってくる。
「お呼び立てしてすみません!」
「いやいや。こっちこそ、駅まで来てもらってごめんね」
亜子のことで相談があると、亜子の後輩、まーちゃんに呼び出された。
「行きましょう」
そう言って腕を絡ませてくる。
胸が当たり、嫌な予感がしてくる。
「私、行きたいお店があるんです」
「亜子の相談は?」
まーちゃんに俺の声は聞こえなかったらしく、人気のオムライスのレストランに連れ込まれた。
「私、ここのチーズオムレツをずっと食べてみたくって」
ニコニコとメニューを眺めている女子を前に、俺は固まる。
「あ、それなら俺も食べてみたかった」
亜子を誘ったことがあったけど、ちっとも乗ってこなかった。
「じゃ、同じのふたつー!」
まーちゃんが注文してくれ、アイスコーヒーを飲みながら『亜子の相談』とやらを待つ。
「真壁さん、うすうす気付いてると思うんですけど……」
ああ。亜子の相談なんて嘘なんだろ?
「私、真壁さんのこと好きなんです」
正直、この手の話には慣れている。
「亜子先輩ってば、私の気持ち知ってて、邪魔してくるんです」
それはないだろ。亜子は俺の告白に戸惑ってるんだぞ。
「どうやって?」
「私のスマホをいじって真壁さんの連絡先消したり、『清彦とはお似合いじゃないから』って別の人を紹介してきたり……私もお見舞い行くはずだったのに、田浦さんに嘘つかれて私だけわざと置いて行かれたり……」
それが本当なら、俺は今、こんな思いしてないんだよ。
亜子が俺をまーちゃんから守ろうとしているようには到底思えない。
「意外だな」
こんな後輩をもって、亜子も大変だな。同情してしまう。
「それなのに亜子先輩は、真壁さんのこと『ただの友人』って言うし、田浦さんとラブラブしてるんですよ?恋人は別にいるくせに、真壁さんのことも自分のものにしておきたい、独占欲の塊みたいな人ですよね」
これに関しては、あながち嘘とも言いきれない。
俺に気が無いなら、さっさと切り捨ててくれて構わない。
亜子は俺の気を弄んでいるのか?
「うわぁ!美味しそう!」
配膳されたチーズオムライスは確かに旨そうだ。
まーちゃんとタバスコをかけて『いただきます』を言った。
「めっちゃチーズ伸びますよ!うわっ、美味しい!」
亜子のことをあれだけ罵っておきながら、少しも悪びれることなく食事を始めるこの女性にたくましさを感じる。
「あっぱれだな」
「え?何がですか?」
「なんでもない」
まーちゃんは自分の感情に正直なだけだ。
亜子については多少脚色はあったかも知れないが、俺に好意を伝えるために必死だったのだろうと容易に想像がつく。
「まーちゃんは俺のどこがいいの?」
合コンや海に行ったメンバーは皆、俺より若くてかっこよかったはずだ。
「うーん……ちょっと……情けないところ……かな?」
おいおい。
「情けない?俺が?」
こんな図体のでっかい男に向かって、こんなか弱い女子が言っていい言葉なのか?
「はい。なんか、陰でメソメソしてそうなところが『しっかりしなよ』って言ってやりたくなります。気になっちゃうって感じです」
にっこり笑ってるが、本気で言ってるのか?
「ショックですか?いつも頼られる仕事されてますもんね。たまには私に頼ってもいいんだよー、なんて」
なんてこった。
昔、亜子に感じたことがある、心が痺れたような感覚が蘇ってくる。
「真壁さん、また二人で会ってくれませんか?」
俺はこの言葉を放つ難しさを知っているから、この勇気に拍手を送りたい。
「ああ。いいよ」
「やったぁ!」
嬉しそうに俺に腕を絡めるまーちゃんを駅まで送った。
「送ってやれなくてごめんな」
「平気、平気。早く良くなってくださいね」
何度も振り返り、両手をぶんぶんと振ってくれるまーちゃんとようやく別れた。
こんな風に全力でぶつかって来られて、悪い気はしない。
あんな素直さが俺にもあれば……と、
女性としてというより、人間としての魅力に惹かれた。
無性に亜子の顔が見たい。
まーちゃんに感じた『しびれ』を亜子で確認したいと思った。
自然と足が向いて、亜子んちの下まで来てしまった。
明かりを見上げて、スマホを取り出す。
さて……なんと送れば……
思案していると、エレベーターホールから人が出てきた。
「亜子さん、今日はありがとう」
田浦の声に思わず身を潜める。
「あ、ううん。なんのお構いもしませんで」
亜子がしおらしくお辞儀なんてしてる。
「次はいつ会える?」
「え、あ、今、シフト分かんないから……また連絡するね」
少しの間があって、田浦が亜子を引き寄せた。
髪を撫でながら、耳元で何かを言っているようだが、聞こえなかった。
駆け寄りたい衝動を必死で堪える。
「じゃ、お休み」
「お休みなさい」
俺はこれ以上見ていられなくて、その場から離れた。
まーちゃんの言う通り、俺は情けなくて、陰でメソメソしている男だった。




