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あうん  作者: あおあん
あの夏の思い出

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19/22

19,☆こういうところが好き

おばちゃんが連絡をくれたから。


ほら、ラッシュガードも返してなかったし。


最後、失礼な感じで帰ってきちゃったのもあって……


ブツブツと心の中で唱えながら、清彦の家に来てしまった。


それでもチャイムを鳴らせずにうろうろしていたら、福ちゃんの散歩に行こうとしていたおじちゃんに見つかった。


「ああ、亜子ちゃん、いらっしゃい」


「こんにちは」


「清彦なら、未だ帰ってないよ。時間あったら、福ちゃんの散歩頼めるかな?」


「はあ……」


なんとなくリードを預かって公園を歩いてた。


福ちゃんは自分のルートが決まっているのかいないのか……とにかく、こっちのいう事はさっぱり聞いてくれない。


「亜子、ありがとな」


耳障りの良い聞き慣れた声に名前を呼ばれてゾクッとした。


「清彦、あのさ……」


どうしようもなく体が動き出してしまったんだよ、退院するって聞いて居ても立ってもいられなくなったんだよって、私に起きている変化を説明したかった。


……だけど、ちょっと早すぎたのかも。


「おばちゃんが夕飯食べてっていいって言ってくれたんだけど、伺ってもいい?」


当たり障りのない社交辞令のような言葉しか出てこなかった。


「田浦と上手くやってるのか?」


そんな意地悪なことを聞いてくる。


泣きながら病室から出たところに、田浦くんは待っててくれた。


まさかいると思ってなくて、私は慌てて、笑顔を繕った。


『無理しなくていいよ』


田浦くんは優しく寄り添ってくれていた。


どうして泣いているのか、清彦とどんな話をしたのかは聞かず、静かに運転をしながら、たまに「あそこ旨いから今度一緒に行こう」とか、「亜子ちゃんの好きそうな店を知ってるから連れて行きたい」とか、私たちの未来のことをポツリポツリと言っていた。


田浦くんと一緒にいると、純粋に『幸せ』って思えた。


「……うん……まあ」


そう答えるしか思い浮かばない。


清彦といると、必要以上にそわそわする。


「俺の言ったこと考えてくれたか?」


当たり前でしょ。


考えたくなくても考えてしまうに決まってるでしょ。


ちょっとムッとした。


「……ううん……まだ」


どう答えていいか分からず、嘘をついてしまった。


『嘘つきはお互い様』だよね。


清彦は『仲良しのふり』をしていた。


ずっと私のことを『好き』って思いながら、『友達のふり』をして相談に乗ってくれていた。


これまでの関係は全て嘘の上に成り立っていたの?


不思議でならない。


どうして気が付かなかったんだろう。






「お邪魔します」


福ちゃんの足を洗って、お庭から上がらせてもらう。


「どうぞ、どうぞ、もう少しで出来るから、ゆっくりして待っててね」


清彦のおばちゃんは明るくて、いつでも元気。


畳の間、大きなちゃぶ台、緑茶を片手に新聞を広げるおじちゃん。


ずっと変わらないもんなんだな……


高校生の時、よく遊びに来た。


清彦にはすぐに私たちを冷やかしてくるヤンキーっぽいお兄さんと、迷惑そうにこちらを睨みつけてくる不愛想な弟がいた。


そんな絡み辛い二人から私を守ってくれる清彦が、私は大好きだった。


よくケンカもしたし、ひょっとすると気が合わない方なのかもしれない。


なのに、心はいつも落ち着かなくて、こっちを見て欲しくて、私は常に清彦にどう思われるかを意識して過ごしていた。


気になって、気になって仕方がなかった……


もしかして、今でもそうなのかな。


「はい。遠慮しないで、どんどん食べてね」


天ぷらがてんこ盛りになった大皿が出された。


「いくらなんでも揚げ過ぎだろ、男三人じゃないんだから……」


清彦が呆れてる。


「だって。亜子ちゃんが何が好きか分からないじゃない?余ったら、明日も私が食べるんだから、好きにさせてちょうだい!ね?亜子ちゃん?」


おばちゃん、可愛い。


笑ってしまった。


「亜子ちゃん、ビール飲むか?」


おじちゃんに勧められて、遠慮なくいただいた。


「それじゃ、乾杯」


喉が乾いていたのか、いつもよりビールが美味しく感じられた。


清彦が黙って、塩と七味を私の前に並べてくれた。


こういうところだ。


こういうことを自然とやってしまう清彦が好きだ。


「あ、亜子ちゃん、そっち?」


おばちゃんが目を丸くしている。


「亜子は天つゆ要らないから、俺がもらう」


食べ物の好みとか、好きな映画とか、私たちはいまいち噛み合わない。


だけど、お互いの好きを把握していて尊重し合えるから、それで困ったことはない。


『私たちの歴史が成せる業?』


不意にそんな気持ちが過る。


ずっと前に知り合って、共有した時間が長いから……


それはまだ私と田浦くんには形成できないものだけど、


同じく時を重ねれば、田浦くんは清彦を超える?


比べるべきではないと分かっているけど、どちらか一方を選び、どちらか一方とは縁が切れる……こんな大切な決断を比べずに出来るわけがない。






大好きな海老とさつまいもの天ぷらをお腹いっぱいにいただいた。


「おばちゃん、ご馳走様でした。とても美味しかったです」


「また来てね。亜子ちゃんならいつでも大歓迎だから!もう、このまま清彦のこともらってくれないかしら?なんてね」


「母さん、酔っぱらい過ぎ」


清彦に叱られて、おばちゃんはしょんぼりとおじちゃんの腕の中に納まった。


「相変わらず仲いいね」


玄関でのお二人の様子が羨ましかった。


あんな夫婦には誰だって憧れる。


「そうか?いい歳してどうかしてるよ」


そんな風にはちっとも思えない口ぶりだよ。


「例えばだけど……もし私たちが……私もあんな夫婦になる可能性ってあると思う……?」


私も酔っぱらっていたのだと思う。


何を口走っているのか、自覚がなかったかも。


「……俺たちには、俺たちの夫婦の形が出来るんじゃないか?」


清彦のもっともな返事に、どういうわけか私は少し傷ついた。




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