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あうん  作者: あおあん


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18/21

18,★踏んだり蹴ったりだ

「車で待ってる」


田浦は亜子にそう告げると、静かに部屋を出て行った。


「どうして来たんだ?」


亜子が田浦に大事にされていることは、見ればわかる。


俺の見舞いに来ることは、面と向かって田浦を傷つけていることにならないのか?


「だって心配だったから。それに……本当は迷ってたんだけど、田浦くんが一緒に行くって言ってくれて嬉しかったし……」


嬉しかった?


「田浦くんは私と清彦がただの仲良しって思ってくれてるし、私たちの関係を理解してくれてると思うよ?」


俺たちの関係?


「俺は亜子のことを『ただの仲良し』だなんて思ったことはないけど」


田浦がどう思おうが構わないが、亜子には俺の気持ちを分からせたい。


「この前も……清彦そんなこと言ってたけど……私たちが付き合ってたのなんて、もう高校生の頃の話だよ?私たち、その後、そんな関係じゃ無かったじゃん……」


「それはお前が、俺のことを見ないようにしてたからだろ?」


知っている。亜子は、俺のことを意識するが故に目を逸らしてきた。


「えっと……」


「学校で噂になって、俺が迷惑被ったって思ったんだろ?俺は気にすんなって何度も言ったのに、亜子はしゃべった責任を感じてたんだよな?」


亜子が顔面蒼白だ。


「あの時だって、俺は別れたくなんかなかったんだ。だけど、お前が俺から逃げて、話を聞いてくれなかった。だったら『仲良しのふり』するしかないだろ?お前の側にいる為なら、嘘くらいつくよ」


「嘘だったの……?」


「ああ。だから今になって後悔しているし、正直、焦ってる。田浦は本当にいい奴だから、これまでの男とは違う。亜子、俺とやり直そう。お前が好きだ」


ずっと思っていたことを、一旦言葉にし始めたら止まらなかった。


全てを吐き出して、俺はすっきりした気分になった。


「困るよ……」


亜子が涙を零した。


「今さら……」


「まだ間に合うよな?」


一歩下がった亜子に手を伸ばした。


「ごめん……」


亜子は踵を返し扉を引いた。




俺の捨て身の告白はまんまと破れてしまった。


こんだけ引っ張っといて、『まだ間に合うよな』は無いよな。


自分で言っておきながら、鼻で笑ってしまう。


「またこの時期だ」


はしゃぎながら過ごした夏が思い出に変わる頃、俺は亜子にフラれる運命にあるみたいだ。


『高校を卒業したら、もういつものように会えなくなる』


そう感じた俺は、再び亜子と距離を詰めようとして、優斗の頼みに応じた。


亜子が優斗に好意的な返事をするとは思わなかったし、亜子と話せるだけで俺には前進だった。


だからその時に、下心が合ったことは認める。


だが、決して不純な動機とか、不誠実だったとかではない。


本当にその方法しか思い浮かばなかったんだ。


亜子は俺を『恋人』として見ない代わりに、『友人』として迎えてくれた。


いつかはこの関係を変えられるだろうと、必死でその座にしがみ付いてきたけど……どうやら俺の勘違いだったか。


田浦の車が走り出したのが窓から見える。


亜子は田浦に泣き顔を見せたのだろうか。


もう俺とは口もききたくないのだろうか。






「お帰りなさい」


亜子と田浦が病院に来てから3日後、俺は退院して自宅に戻った。


兄貴と弟は結婚してここを出ている。


父さんと母さんが出迎えてくれた。


「馬鹿者」


昔、レスキュー隊にいた、今は消防職員の父に叱咤された。


俺はこの遠征で大事なものを失った。


……家族の期待、仲間の信頼、亜子。


厄年か?


暗い気持ちで自分の部屋に戻った。


ベッドにひっくり返る。


ふと、カーテンレールにかかっているラッシュガードに目が留まる。


「これって……」


海で亜子に貸したきりになっていたはずだ。


「母さん!母さん!」


大きな声で呼びつける。


「なあに?うるさいわね」


「このラッシュガードどうした?」


「亜子ちゃんが持って来てくれたのよ。返すの忘れてたって言ってたわ」


ここに来たのか?亜子が?これ持って?


「いつ?亜子、いつ来たんだよ?」


「いつって……さっきよ」


さっき?今日来たのか?


あまり早くは歩けないが、間に合うかもしれない。


急いで玄関に向かう。


「あら。どっか行くの?」


「ちょっとそこまで」


「なんなの?せっかく夕飯の準備してるのに、すぐに帰って来るの?」


「ああ」


めんどくせえ。


「福ちゃんを散歩に連れてくんだよ。どこ?」


「福ちゃんなら……」






公園で他の犬とじゃれていた。


「亜子、ありがとな」


「おばちゃんに、今日、退院するって聞いて……」


「会いに来てくれたのか?」


そうだよな。そうとしか思えない。


「まあね……」


自由に歩き回る福ちゃんに引っ張られ、どっちが散歩に付き合っているのか分からない。


「清彦、あのさ……」


亜子が話し出した途端、周りの騒音は一切聞こえなくなった。


「おばちゃんが夕飯食べてっていいって言ってくれたんだけど、伺ってもいい?」


「あ、ああ。いいんじゃないか」


亜子は何を考えてるんだ?


あの告白は無かったことになってるのか?


これまでも俺の存在はこうしてはぐらかされてきた。


その結果、現在の、何とも説明の付かない変な関係に落ち着いてしまっている。


「田浦と上手くやってるのか?」


これくらい聞いても構わないだろう。


「……うん……まあ」


曖昧だな。


「俺の言ったこと考えてくれたか?」


はっきり言ったはずだ。


『俺とやり直そう。お前が好きだ』と。


「……ううん……まだ」


「そうか」


持久戦には慣れている。


まだ負けが決まったわけじゃない。


田浦に落ちきる前に、亜子を取り戻せ。




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