17,☆怪我って……どういうこと?
寝たのが遅かったのもあって、起きたら昼近かった。
溜まっていた洗濯物を片付けつつ、身支度を整える。
散歩にでも行こう……家で燻っていても体に悪いから……ちょっと歩いて気分転換しよう……
水筒を持ってよく来る公園に足を運んだ。
犬の散歩をしている人がいる。
「福ちゃん元気かな」
清彦のところの老犬を思い出す。
「あら、亜子ちゃん?」
声の方を見たら、清彦のお母さんがいた。
「おばちゃん、お久しぶりです」
福ちゃんは私よりも芝をくんくんするのに夢中のようだ。
「亜子ちゃん、元気してた?ずいぶん会わないうちに綺麗なお姉さんになって……ご結婚はされたの?」
「いいえ」
「うちのなんて体ばっかりでかくて、むさ苦しいかも知れないけど、けっこういいところもあるのよ?亜子ちゃん、いい人がいなければ、どう?」
「どう……って言われても……」
「まあ、仕事熱心なのは良いことだと思うけど、事故や怪我の危険が多い職種だものね。今も足を怪我して入院してるけど、心配は要らないのよ。動けないってだけでピンピンしてるんだから」
愉快な話をしている風に、おばちゃんは衝撃的なことを言った。
「入院ですか?」
「そうなのよ。派遣先の最終日に、単独行動なんてして、あの子はいくつになっても抜けてるところがあるのよねぇ」
頭が真っ白になる。
「どこですか?清彦はどこに入院してるんですか?」
「亜子ちゃん?大丈夫よ、本当に大したことはないの。ただの怪我なのよ……あ、ちょっと……そっちは駄目よ!」
福ちゃんがリールを引っ張って、別の犬に突進していく。
「ごめんね、亜子ちゃん、またね」
清彦のお母さんは行ってしまった。
『大したことない人』は入院なんてしないでしょう?
私に連絡もくれてないし、何があったのか気になって仕方がない。
スマホを取り出し、田浦くんに電話を掛ける。
「亜子さん?」
弾むような田浦くんの声が聞こえた。
「あの……聞きたいことがあって……」
勢いで掛けてしまったけど、言葉を準備していなかった。
「今どこ?」
公園を告げた。
「20分待ってて」
そう言われて電話が切れ、本当に20分後、田浦くんが来た。
「亜子さん!」
ランニングシャツにハーフパンツで、マラソンランナーのような格好だ。
滴る汗が似合う、爽やかな好青年。
「お待たせしてすみません。亜子さんから連絡もらえるって思ってなかったんで、嬉しかった」
自動販売機で買った麦茶を渡す。
「電話でもよかったんだけど……あのね……清彦が、怪我……したって聞いて……」
田浦くんが一旦開けたキャップを締め直した。
「ああ。女の子を助けようとして、瓦礫の下に挟まった」
心臓がぎゅっとなる。
「膝を怪我して、絶対安静って言うか、早く治すために動かないように言われている。ごめんね、昨日、言おうか迷ったんだけど」
「あ……うん……いいんだけど。中途半端に聞いたから……気になっちゃって……」
「そりゃそうだよね」
田浦くんがペットボトルの半分を一気に飲んだ。
「二人が仲がいいって知ってて、あえて黙っちゃったんだ。俺の嫉妬みたいなもん。みっともないよな」
「そんな……」
「気になる?見舞いに行きたい?」
気になる。お見舞いに行きたい。
「連れてってあげようか?俺も付いて行っていい?」
「え?いいの?」
「言っとくけど、俺、亜子さんのこと譲る気ないから」
私の目を射貫くように見つめられ、真剣な顔で言われてしまった。
田浦くんが運転してくれて、隣県の大きな総合病院にやって来た。
「面会は30分が上限だって」
消毒の匂いが充満している病棟を進む。
「真壁さん、開けます」
田浦くんが言って、引き戸を開け、私を促してくれる。
「先行って」
「うん」
カーテンが揺れる個室で、清彦はぼうっと窓の外を見ていたようだった。
「大丈夫?」
私の声に反応して、驚いたようにこっちを見る。
「来てくれたのか」
清彦は目線を私の後ろに変えた。
「亜子さんがお見舞いに来たいって言うんで、お連れしました」
田浦くんに軽く肩を抱かれ、ベッドに歩み寄る。
「どうして連絡くれなかったの?怪我をしたなら、そう……」
「言ったら、すぐに来てくれた?」
ドキンと心臓が跳ねた。
私はどうしただろう?田浦くんに相談せずに、清彦のところに飛んできた?
清彦はふいっと顔を逸らしてしまった。
「別に大した怪我じゃない。こうして一人でサボってるだけだから、邪魔しないでくれよ」
「そんな言い方しないでよ。心配したんだよ?」
「真壁さん、飼い猫探してる女の子助けてこうなったんだ。任務が終わって帰ろうって時に、俺たち必死で探しましたよ」
田浦くんが少し怒っている。
「すまなかった」
清彦が田浦くんに頭を下げた。
「来てくれて助かった」
現場の空気なのだろう、ピリつく感じに耐えられない。
「俺なら絶対にしません。好きな女おいて、危険な真似なんて出来るわけない」
大きな声を出したわけでもないのに、その言葉は病室にこだまして耳に残った。
「行きましょう、亜子さん、長居はよくない」
「え?もう?」
咄嗟に清彦を見た。
目が合う。
「田浦、悪いんだけど、亜子と二人だけで話をさせてもらえないか?」
黙ってじっと私を見つめる田浦くん。
「私からもお願い」




