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あうん  作者: あおあん


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16/20

16,☆「お帰りなさい」が言いたくて

同僚と100%元に戻ったわけじゃない。


だけど、私たちはそれぞれ大人だし、社会人だし、仕事には支障をきたさず働いている。


「亜子先輩、レスキュー隊帰ってきますね」


香保里ちゃんが教えてくれた。


「そうなの?まだ2週間も経ってないよね?」


「早まったみたいですよ。林くんから連絡もらったんで」


そっか。収束が早まったのなら、それに越したことはない。


「香保里ちゃんは林くんと連絡とり合ってるんだね?」


「はい。気が合うんです」


私に浴びせられた香保里ちゃんのきつい言葉は、まだ忘れてない。


私のことを思って言ってくれたに違いないあの忠告は、忘れちゃいけないんだ。




着替えを終えて、ロッカールームから出る。


ずっと無視していたスマホに、ようやく向き合う気になった。


『亜子さん、ただいま戻りました!』


田浦くんからのメッセージは3時間前に送られて来たものだった。


『お帰りなさい』


スタンプを付けようとしていたら、ピコン、と鳴った。


『今から会えますか?』


「今から……?」


遅番上がりで、23時近い。


『疲れてるだろうから、ゆっくり休んで』


そう送った直後に、着信が鳴った。


「もしもし……」


「亜子さん、今から少しだけいいですか?」


「疲れてないんですか?日を改めた方が……」


「20分、いや、10分でもいいです!もう下にいるんで」


「え!」


慌てて業務員用のエレベーターで下りる。


守衛さんがいるパーキングを通り抜けると、半袖のパーカーを着た男の人が立っていた。


「いつからいたの?」


「ついさっきです」


きっと嘘だ。


「お疲れ様です」


「亜子さん、だからその挨拶は……」


そう言いながら田浦くんが近付いてきて、そっと抱きしめられた。


暖かいお日様みたいな匂いがする。


足先から頭のてっぺんまでざわざわと落ち着かない。


私は両手を田浦くんの背中に回した。


私の頬に、田浦くんの鼓動が伝わってくる。


「無事でよかった」


心からそう思っていた。


レスキュー隊が出発した後、私は田浦くんのことをよく考えていた。


それは清彦を思い出すよりも、回数が多かったと思う。


「お土産とかはないんだけど……」


田浦くんが気まずそうに言った。


「いらないよ」


思わず吹き出した。


「会ってくれてありがとう。家まで送って行くよ」


先を行く彼のパーカーの裾を掴んだ。


「お腹空いてない?」


きょとんと私を見ている目が愛らしい。


「亜子さん、俺のこと誘ってくれてるの?」


「誘ってるって、はは、何か食べて帰ろうと思ってたから、よかったら一緒にどうかなって」


嘘じゃない。

でも、本音はもう少し一緒にいられたら……って。

だけどこれは内緒。


「行く行く!奢ります!」


田浦くんはたちまち元気になって、私の鞄を取り上げた。


「お持ちします。こんな時間だけど……え?開いてる店知ってます?」


「もちろんだよ。私のとっておきを教えてあげる」




深夜までやっているお気に入りのラーメン屋。


「亜子さんもこんな店、来るんですね……」


「うん?しょっちゅう来るよ?」


私はいつもと同じ、辛味噌に味玉ともやしをトッピングしたチケットを買った。


田浦くんも同じものを選んでいた。


この前、思ったけど、私と田浦くんは好みの味が似ている。


かしこまったレストランとか、お洒落なカフェとかより、私はこういうところに一緒に来てくれる人が好きだ。


そして、なにより、田浦くんは誘いやすいのがいい。


せっかく勇気を出して誘っても、『嫌な顔』をされたらショックだもん。


その点、田浦くんは驚いてはいるみたいだけど、楽しんでくれている。


「そう言えば、かき氷屋に行ったって林に話したんだけど……」


可笑しそうに笑っている。


「どうしたの?」


「あいつ、腹壊したから二度と行かねーって言い出して、はは」


「あれ?林くんのお勧めじゃなかったの?」


「俺も腹壊すだろうから、みっともない姿見せて、フラれて欲しかったんだって……ただのひでー奴だった」


「ははは。ひどー!」


配膳されたラーメンどんぶりに、テーブルにあるおろし玉葱を乗せる。


「明日休みだし、今日はいっか」


大さじ2杯。


「けっこうガッツリ行くね。じゃ、俺も」


田浦くんと話すのは楽しい。自然体でいられる。


「救助は大変だったの?」


ラーメンを啜りながら聞いてみた。


もうテレビでは殆ど報道されなくなっていたから、現地の様子は想像がつかない。


「家が燃えちゃった人が多くて悲惨だった。でも、死者は出なかったし、怪我人も少なくて……」


「それは何よりだね」


「あ……でも……たいちょ……」


何かを言いかけた田浦くんが口をつぐんだ。


「どうしたの?体調崩したの?」


「いや。なんも。これ旨いね」


にっこりと私に微笑みかけてくれるこの男性に、私は惹かれ始めている。




食後の腹ごなしに、2駅歩いて、田浦くんは家まで送り届けてくれた。


深夜のラーメンと散歩……これまでになかった男の人との付き合い方……やっぱりいい人だな。


田浦くんに『おやすみ』のメッセージを送って、しばらくスマホを眺める。


別に清彦からの連絡を待っているわけじゃない。


だけど、連絡をくれなかったことなんて今までなかったから。


(気まずくなっちゃったよね……)


私だって田浦くんとのことを清彦に話せる気がしないし。


友達でいられなくなっちゃったかつての親友に思いを馳せながら眠った。




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