表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あうん  作者: あおあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

15,★救出

もう鎮火と言っていいだろう。


ここにきて今日で8日目、任務は早めに終わり、午後には帰所することになっている。


隊長として4名を率いてきた。


怪我はなく、無事に任務を終えたことにほっとしている。


避難場所に寄り、最後の点検を行う。


命からがら逃げてきた被災者達は、家を失い途方に暮れた顔をしている。


命は何よりも大事だ。


だけど命さえあれば、他の何を失ってもいいわけじゃない。


気の毒に思いながら、一礼をしてその場を去る。


「お願い!お母さん!アコちゃんがかわいそう!」


幼い女の子から『アコ』と聞こえてきて、思わず立ち止まった。


「我儘を言うんじゃありません。皆、困ってるのは同じなのよ」


母親らしき人は子どもの話を聞こうとしない。


その場でしゃがみ込んで、泣いている少女に声を掛ける。


「どうして泣いてるんだ?」


「ふえ?」


涙でぐしょぐしょの顔で抱き付かれた。


「アコちゃんがいないの。探しに行ってあげたいの。お願いです。一緒に来てぇ」


そのまま少女を抱き上げて、母親の元へ。


「アコちゃんとは?」


「飼い猫です。でも……もう家は燃えてしまって、危険ですし……それに探したところで見つからないと思うんです」


母親の苦渋に満ちた顔が痛々しい。


「私が同行しても構いませんか?長居はしません。周辺を探して、この子が納得してくれたら戻ってきます」


出発までは時間がある。




「ここ!ここ!」


黒焦げになった家屋の見分けは俺にはつかないが、この子は記憶を頼りに家を探し当てた。


「アコちゃーん!どこー?」


動物が隠れているとは思えない。


「危ないから、家には近付くなよ」


女の子の手を繋ぎ、焦げ臭い道路をかがみながら歩く。


「あっ」


それは一瞬の出来事だった。


女の子が俺の手を放し、タタタと生け垣を駆け抜け、倒壊しかけた家屋の下に潜り込んだ。


「おい!こら!」


慌てて追いかける。


崩れかけた柱の空間に身をかがめ、女の子は薄汚れた猫を抱いていた。


「アコちゃん、いた!」


「それはよかったな……」


冷汗が止まらない。


「ゆっくりこっちに出て来れるか?」


傾いた柱に触れれば、この子の上に崩れ落ちて来るだろう。


「ほら、アコちゃんを連れてこっちに……」


手を差し伸べる。


怯え切った飼い猫は、見慣れない俺に驚いたのか『シャーッ』と威嚇をしている。


「アコちゃん、大丈夫だよ?」


女の子が立ち上がろうとしたとき、頭が柱にぶつかった。


ガサッと音がして、もたれかかるように重なり合っていた柱が崩落してきた。


俺は咄嗟に少女の頭上に体を滑り込ませた。




「大丈夫か?」


強張る少女を強く胸に引き寄せる。


このまま這って抜け出せるだろうか……


(痛っ!)


左膝に激痛を感じた。


背中に乗っかる瓦礫の重みが増してくる。


迂闊だった。隊に知らせてから来るべきだった。


どうしたものかと、腕の中の少女と猫を抱く手に力が入る……




「たいちょー!」

「真壁隊長!いますかー?」


林と田浦の声だ。


「ここだ!」


安堵の溜め息が出た。


「今、出られるからな。アコちゃんを放すなよ」


小刻みに震えている少女は、力強く頷いた。




手際よく救出され、少女は林が、アコちゃんは田浦が抱っこした。


俺には『シャーッ』と威嚇していたあの猫は、田浦にべったりと懐いている。


「「せーの」」


俺は、水島と中村にタンカで運ばれる。


「隊長!単独行動は駄目じゃないですか!」


水島の言葉が耳に痛い。


「任務の最終日に怪我なんてして、本部になんて言われるか分かってんっすか?」


林に叱られて、ぐうの音も出ない。


あの猫が『アコちゃん』という名前でなければ、俺だって出過ぎた真似はしなかっただろう。


大した怪我ではないが、自分の身に危険が及んだ瞬間、亜子が頭を過った。


亜子の顔が見たかった。


正直になれなかったばかりに、とてつもない後悔をするところだったと気付くことができた。


情けなく、恥ずかしい事故ではあるが、俺は、この経験に感謝をし始めている。




膝のレントゲンを撮ってもらったら、皿がズレていた。


ベッドに横たわらされて、絶対安静と言われた。


「大袈裟な……」


隊員は先に戻ってしまい、俺だけ近くの病院に搬送されて今に至る。


早く帰って亜子の元に行きたいのに、やはり田浦に先を越されてしまうのか。


どの時点で誤った選択をした?


田浦はこれまで亜子が付き合って来た男性とは違う。


あいつの人柄の良さをよく知っているだけに、俺の想像する限り一番最悪な事態が思い浮かんでくる。


派遣先の任務に集中していたし、田浦も行動を共にしていたことで、亜子のことはしばらく考えないでいられたが……


こうして暇な時間ができると、もう亜子のことで頭が埋め尽くされる。


あんなに近くで同じ時間を過ごしてきたのに、肝心なことはなに一つ言って来なかった。


『後悔』という二文字が、まとわりついて離れない。


戻ったら亜子にちゃんと言おう。


もう遅いかも知れないが、田浦と同じ土俵に立たせてくれ。


どうかまだ間に合ってくれ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ