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あうん  作者: あおあん


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14/17

14,☆田浦くんとのデート

昨日の重たい空気を思い出すと気が沈む。


カーテンを明けて朝日を部屋に取り入れる。


今日が休みでよかった。


ゆっくりと起き上がり、アイスコーヒーに牛乳を入れた。


「ふぅ」

思わず溜め息。


昨日、香保里ちゃんに言われた数々の言葉が、胸に刺さったまま抜けない。


「痛かったな」


無意識に胸に手を当て、撫でた。


いつもの癖でスマホを開くと、田浦くんからメッセージが来ていた。


『今日会えますか?』


そっか。非番かな。


呼び出しがあれば駆け付けなければならないはずだから、遠出は出来ないけど、人と会うのは問題ないと聞いている。


8:40


勤務が明けたばかり。


『帰って休んでください。起きたら、また連絡くれますか?私は終日オフです』


送った瞬間『既読』が付いて、


『やった!』


とレスが来た。


ぎゅっと目を瞑り、スマホを裏返した。






15時。

田浦くんから指示があった、駅前のコーヒーショップに来た。


夏だからというのもあるけど……


白いTシャツにゆったりとしたカーゴパンツ、メッシュのキャップを被った田浦くんは、恐ろしく爽やかだった。


勇気を出して手を振ったけど……


ぎこちなくなかっただろうか。


「お疲れさま」

「亜子さん、職場じゃないんで、その挨拶はちょっと」


にこにこと惜しみない笑顔を向けてくれる。


「ごめん。じゃ、こんにちは?」

「はい。こんにちは」


軽い会釈に眩暈がしそうだ。

周囲の女子の視線を感じる。


体つきもいいし、端正な顔立ちだし、それに……レスキュー隊の独特な……あの『皆が困ってるときでも笑顔で助けに来てくれる』圧倒的な安心感をもたらしてくれる表情が……どうしよう……もう無理……


「田浦くん、行こ」


向き合っていられなくて、横に並ぶ。


「コーヒー嫌いだった?」

「ううん。そうじゃないんだけど、さっきまで飲んでたから、少し歩きたいかなって」


田浦くんはお店で休憩したかったのかもしれないけど、私は面と向かってお話しできそうにないから。


人通りの多い道を、ゆっくりと歩く。


歩調を合わせてくれて、紳士だなと感じた。


「あ……」


手の甲が触れた気がして、慌てて引っ込める。


もう当たらないように、ショルダーバッグの紐を握りしめた。


「亜子さん、かき氷食べに行きません?」


田浦くんが私を見下ろしている。


「いいね」


8月下旬はまだまだ空気がサウナのように暑くて、立っているだけでも汗が吹き出る。


「少し並ぶかもなんですけど、美味しかったって林が言ってたんで」


進路を変え、少し行ったところに、日傘をさした女性の長い列があった。


「少しどころじゃなかったですね。すみません」


立ち止まった田浦くんに笑いかける。


「あれくらい覚悟してた。せっかく来たんだし並ぼうよ」


眉毛を『ハの字』にした田浦くんと一緒に、最後尾に付いた。


「もうちょっと端に」


田浦くんは数十センチだけ伸びている、建物の日陰に私を入れてくれる。


「バッグ持ちましょうか?」

「大丈夫です」


どうにも気を遣われることに慣れなくて、ソワソワしてしまう。


「中でゆっくり座ってから話そうと思ったんですが……」


田浦くんが背伸びして、窓から店内を覗いた。


「落ち着いて話せる雰囲気じゃないんで、今、話していいですか?」

「はい」


ほんの少し間があって……なんだろう……すごくドキドキしてきた。


「実は、災害救助の要請があって、明日から2週間会えなくなります」


連日テレビでやっている山火事の現場だと、すぐにピンときた。


「田浦くんだけ?」

「いいえ。真壁隊の5名は一緒に動きます」


不意に出た清彦の名前に、心臓がビクンと跳ねた。


「あんまりなかったよね?派遣なんて……」

「自分も初めてです」


もちろん危険なことはしないように訓練されてるだろうけど、本人にはどうにもできない危険は隣り合わせだよね。


「そういう仕事とは分かってるつもりだけど、やっぱり怖いね」


押し黙った田浦くんは、下唇を噛んでいた。


「気を付けて行って来てね。助けを求めてる人がいるんだもんね。頑張ってきてね」


田浦くんは静かに大きく息を吸ってから「ありがとう、亜子さん」と言った。




「こんなこというのも何ですが……なにか温かいものを食べに行きましょう」


紫色の唇をガチガチ鳴らしながら田浦くんが言った。


「う、ん。賛成」


私もぶるぶる震えながら、周りの飲食店を探す。


かき氷屋に入る前に重たい話をしてしまったこと、店内はビックリするくらいクーラーが効いていて汗が冷えて寒かったこと、それでもせっかく並んだのだからと山盛りのかき氷を一人一つ頼んでしまったこと……敗因はいくつもあった。


蝉も鳴けないほどの猛暑なのに、『寒い』と言いながら鳥肌を立てている私たちはお互いを見て笑った。


「あんなに大きい必要ある?私、途中で残そうかと思っちゃった」


「同感です。せっかく氷食うなら、暑いところで食べたかったですよね」


「ほんと、そー!」


ケラケラと笑いながら歩いていると、横断歩道の向こう側に立ち飲み屋が見えた。


「ねえ?」


きっと同じことを考えてたんだ。


田浦くんと目が合って、一気にテンションが上がった。


「もう、お店に入るの怖いんで」


笑いながら、路上のテーブルに並んで立つ。


焼き鳥の煙が流れてきて、食欲をそそられる。


「とりあえず、ビールでいいですか?」


テーブルの上に置いてあるQRコードを読み取り、オーダーを進める。


「うん!焼き鳥も頼んでおこう。あと、なんかすぐに出るもの……あ……」


また田浦くんと目が合った。


「「モツ煮!」」


声まで揃ってしまった。


「頼みましょう。今すぐ、体の芯を温めたいです。なんか表面は温まって来たんだけど、お腹ん中ずっと冷たくて……お腹壊しそう」


胃のあたりをクルクルと撫でている田浦くんの仕草が可愛い。


「明日から大事な任務だもんね、風邪を引かせるわけにはいかないね」


「亜子さん」


不意に手を握られる。


田浦くんの指先は冷たかった。


「待っててくれますよね?付き合い始めの大事な2週間をこんな形で棒に振りたくはないんですけど、行かなきゃならないんで。戻ったらまたすぐに会ってくれますよね?」


分かってる。


昨日、香保里ちゃんに言われて、いや、言われなくても、田浦くんの好意を弄んでるって思われても仕方がないことを私はしている。


「田浦くん、あのね……」


「あ。やっぱ。今の無しで」


「え?」


「ガッツいちゃってダサいよな。今の忘れてください。早くモツ煮こないっすかね」


少し上ずった声で無理にしゃべる田浦くんに、私は声を掛けられなかった。


私たちはソワソワと割箸をいじりながら間を持たせた。


意気地なしな自分に嫌気がさす……徐々に空気が薄く感じてくる……


『自分の気持ちは隠したまま』

『なんかズルくないですか?』

『自分が傷つきたくないから』

『全部人のせいにしてるだけ』


昨日、香保里ちゃんに言われたことが蘇ってきて、息が苦しくなった。




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