11,☆それぞれの告白が……
「……こ、……亜子」
とても気持ちよかったのに、まどろみを邪魔される。
「着いたぞ。立てるか?」
無茶言わないで。立てる気なんてさらさらしない。
「抱っこして連れてってやろうか?」
……!
慌てて跳び起きる。
「大丈夫です」
車には清彦しかいなかった。
いつの間にか寝ちゃってたみたい。
「疲れただろ?持ってやるよ」
鞄を持って玄関まで送ってくれた。
「あのさ、亜子……」
「ん?」
体が重たくて、靴を脱ぐのすらだるい。
「ちょっと上がってっていい?」
許可なんかなくたって、もう靴脱いじゃってるじゃん。
返事を待たずに、清彦が上がり込んできた。
「はい。どーぞ」
冷蔵庫に入ってる炭酸水を清彦に渡した。
プシュッ
自分のを開けて口を付ける。
この弾けるスッキリ感を欲していた。
「どうしたの?何か話があるの?」
どことなく不機嫌そうな清彦に恐る恐る聞いてみる。
「もうこういうのいいや」
「こういうの?」
「合コンみたいなの。30にもなって、後輩とビーチとか疲れるだろ」
同感。
「だね。久しぶりで私も浮かれちゃってたけど、もういいね」
冷凍庫からアイスを持って来た。
ダイエットも今日で晴れて終了。
「おひとつどーぞ」
「どうも」
にっこり笑って、アイスで乾杯。
「清彦、あのさ……」
言っとくべきだよね?
今、言わなかったら逆に言いにくくなるし、田浦くんの口から聞いちゃったとか、私が一番の友達なんだからそれはあり得ない。
「私、田浦くんに告白されたの」
固まった清彦は、マンガみたいにアイスを落っことした。
拾ってあげる。
「で?」
清彦の顔が強張っていて、どういうわけか真っ直ぐ見られない。
こんなにドキドキしてるけど、何に対してなんだろう……
「なんて返事したんだよ?」
受け取ってくれないアイスを清彦の前に置いた。
「うん……って言った……」
大きく見開かれた目で睨まれる。
すごく怖くて、泣きたくなった。
「オッケーしたのか?付き合うのかよ?」
どうしたんだろう。
これまでずっと応援してくれたのに、今日だけいつもと違う。
ドキドキし過すぎて、気分が悪くなりそう。
「田浦くんのこと嫌いなの?」
「んなわけねーだろ」
「じゃ、どうして怒ってるの?」
清彦は一瞬だけ黙った。
その沈黙は、怒鳴られるよりこたえる。
「別に怒ってねーよ」
これまでだって彼氏が出来ると、その都度、清彦を紹介してきた。
だって清彦は『弟枠』みたいな感じで、家族って言えなくないくらい、親しい友人だもん。
隠す方が変じゃん。
ずっとなんでも話してきたじゃん。
「清彦は?香保里ちゃん?まーちゃん?」
「なんだよそれ」
清彦の声はいつもより低くて、震えていた。
もう、完全に怒ってる……怖いんだってば……
「まーちゃんに言い寄られてたね。いい子だよ。あまり気を持たせるようなことしないでね」
「お前に言われたくねーよ」
「どういうこと?」
なぜか少しカチンときた。
「本当に好きなのかよ、田浦のこと。この前、フラれた時だって『そんな好きじゃなかった』みたいなこと言ってただろ。男の気持ち弄んでんの亜子の方だろ!」
ズキン。
一番言われたくないことを言われた気分。
「そんなつもりないもん!私は清彦より一人の人と長く付き合って来たし、とっかえひっかえみたいなあんたと一緒にしないでよ!」
言い過ぎたとは思った。
でも引っ込められない放たれた言葉。
「あーそれね。今日香保里ちゃんが気付かせてくれたんだよ。どうして続かないのか……」
下を向いて手で顔を覆っている清彦の表情が見えない。
「香保里ちゃんが?なんて……」
聞いちゃいけないこと?
でも気になるから。
「お前のことが好き過ぎるんだってよ」
清彦が……?
私を……?
『ふぅ』と溜め息をついて、清彦が立ち上がった。
「帰るわ」
私は動けなかった。
それからずっと、
アイスが溶けきるまで、
その場に座ったままだった。
こんなはずじゃなかったよね?
私にも清彦にもいい恋が……よいパートナーが出来て、お互いその報告をし合うような、そんな風になるはずだったのに。
田浦くんはいい人そうだし、香保里ちゃんやまーちゃんもいい子だし、私と清彦の関係なんて、もうとっくに終わってると思ってたのに。
清彦が私を好き過ぎる?
そんなのって変だ。
普通、好きな人の恋を応援なんてしないでしょ?
彼氏を紹介されたら、嫌だって怒るもんじゃないの?
少し寒いくらいの温いお湯を張ったお風呂につかる。
顔や肩、太ももから下の脚、日焼けしたところがヒリヒリと痛い。
そっと撫でながら、清彦との会話を思い出す。
今日のことを、ゆっくりと順になぞっていく。
何度も見た映画みたいに同じ映像と台詞が繰り返されるけど、新しい発見はなかった。
私は新しい彼氏を手にし、同時に親しい友人を失った。
一旦冷ました体は、お風呂から出ると再びヒリヒリと熱を放った。
乳液を塗りながら、洗濯物を取り出す。
砂が床に落ちて、足の裏にくっ付いた。
「あ。清彦のラッシュガード」
……分からなくなる。
好きな子の水着姿は見たいもんなんじゃないの?
どうしてこれを着ろって言ったの?
どうして私と田浦くんを二人にしたの?
どうして清彦はまーちゃんと海に入ったの?
どうして……
どうして……
私のこと好きならどうして……
今日のことも、これまでのことも全部分からない。
あれはなんだったの?
どうして清彦は誕生日に家に来たの?
私の誕生日を祝いに来てくれたの?
友達じゃなかったの?
手にしていたラッシュガードに顔を埋めた。
安心する匂い。親友の、家族のような大切な人のほっとする匂い。
恋人じゃいられなくなってからも、大事に守ってきた関係だったのに。
壊れて欲しくないから……壊さないようにしてきたのに……
「清彦のバカ」
涙が溢れる。
同じ気持ちでいてくれるって思ってたのに……
「なんで、壊しちゃったのよぉ」
熱い水滴を布が吸い取っていく。
上手く息ができなくて、苦しかった。
私は胸をひっくひっくさせながら清彦の匂いを吸い込む。
なんども、
なんども、
清彦の名前を呼びながら。
静まり返った部屋に、私の嗚咽が響き渡った。




