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あうん  作者: あおあん


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10/21

10,☆海はやばいって

やっぱり清彦にみっともないって思われちゃった。


貸してもらったラッシュガードから、いつもの匂いがする。


「亜子さん、かき氷買いに行きません?」


炎天下で体を動かして、気付けばヘロヘロだった。


「そうだね。皆にも声かけようか」


あれ?いつからいなかった?


「僕たちだけでいいですよ」


田浦くんが歩き出した。


付いて行く。


「あ。お財布取ってくる」


「大丈夫です。これで支払えるんで」


そう言って左腕の時計を見せてくれた。


やっぱりレスキュー隊だ……たくましくて頼りになりそう。


「その水着可愛いですね」


田浦くんは何故かこっちを見ずに言った。


「そう?ありがとう。皆に選んでもらったんだけど……ほら、私、こういうの着てないと、嫌な思いさせちゃうでしょ……?」


ラッシュガードを摘まんで引っ張る。


「なに言ってるんですか?亜子さん、綺麗ですよ。その……セクシーって言うか……色気があって……」


照れてる田浦くんの熱が移ってくる。


「え、え、恥ずかしいよ。そんなこと言われたの初めてだし……」


今度はじっと射貫くように私の目を見ている田浦くん。


「亜子さん、俺……」


言いかけた田浦くんの背後から、香保里ちゃんと清彦が現れた。


「ちょっとー。ぬけがけー!声かけてくださいよー」


「ごめんね。探したんだけど」


香保里ちゃんが私に腕を絡めて歩き出す。


「亜子先輩、なに味にします?」


「ブルーハワイかな」


「え。あれってホラーになりません?私は可愛くイチゴにします」


さすが香保里ちゃん。


ちゃんと異性から見られる自分を意識しているんだ。


でも……


「亜子はブルーハワイだろ?」


清彦が頭上から話しかけてくる。


「……うん」


「お前、好きだもんな」


ま、ホラーで構わないか。


清彦は本当の私の姿を知ってるし、田浦くんにだってこの先知ってもらうことになるかもだし……ずっと本性を隠し続けるのは無理だから。




パラソルでお留守番してくれてる惟子ちゃんと水島くんのも買って来た。


輪になってかき氷をつつく。


「亜子先輩、『べー』してください」


いじられてるけど、なんか嬉しい。


「べーっ」


「ひゃー!なってる、なってるー!」


「そんな?」


真っ青な舌を自分でも見てみる。


思いっきりベロだして、寄り目になったみたい。


皆、大爆笑してる。


「亜子……色気もなにもあったもんじゃねーな」


清彦に言われて、私も笑った。


そうだよ。


さっき、田浦くんがあんなこと言うから、私、なんかずっと緊張しちゃってた。


ブルーハワイのお陰で、素の自分を取り戻せたかも。


「じゃ、食ったら、もうひと泳ぎしましょう!」


林くんが立ち上がった。


そう言えば、私、まだ海に入ってなかった。


私は浮き輪を持ってきてない。


「亜子は溺れるといけないから、俺といて」


「確かに泳ぎは得意じゃないけど、溺れたりしないよ」


清彦は私のこと、馬鹿にしすぎ。


「これ、濡れると悪いから返しとくね」


ラッシュガードを脱いだ。


田浦くんが手を差し伸べてくれる。


「一緒に行きましょう、亜子さん」




どうして一瞬、迷ってしまったんだろう。




「ありがと」


田浦くんの手を取った。


「じゃ、真壁さんは私と!」


そう言ってまーちゃんが清彦にくっ付いた。


ざわ……


全身が泡立って、嫌な感じがした。


思わず田浦くんの手を強く握ってしまった。


「ん?」


怪訝な顔をしている。


「あ、ごめんね」


力を緩めたら、田浦くんは私の肩に腕を回した。


「え……」


「溺れないでくださいね」


いたずらっ子みたいな笑顔。


「もう!大丈夫だってば!」


横腹にパンチをくらわした。


「けっこう波って強いんだね」


まだ足がつくところなのに、体の自由が奪われる。


「亜子さん、離れないで。手、繋いだままね」


田浦くんが笑ってる。


海なんて入ったの何年ぶりだろう。


なんか体にいろんな物があたって気持ちが悪い。


「もうこの辺が限界……」


そろそろ足がつかなくなってきた。


ジャンプして、大きな波をやり過ごす。


田浦くんと向き合って、両手を繋いで、こうして波と遊ぶ。


「楽しい!」


リズミカルに跳んで、浮かんで、次の大きな波を読む。


「ぎゃ」


不覚にもタイミングを読み誤って、口に海水が入った。


「まずい!ゲホゲホ」


一気に距離を詰めた田浦くんが私を抱っこしてくれていた。


息がしたくて、私も思わずしがみ付く。


「大丈夫?」


私の胸元に、田浦くんの顔が……


「うん。平気、ごめんね」


私は手を放したのに、田浦くんは放してくれない。


「亜子さん……俺と付き合ってくれませんか?」


私の腰に回した手に力が入ってる。


思わず目が泳いで、視界の先に、まーちゃんと遊ぶ清彦がとまった。


「私?」


「はは。他に誰がいる?」


息が苦しいのは田浦くんのせいじゃない。


私を見上げてる、清閑でたくましい男性。




「……うん」


声が勝手に出てた。





日焼けで顔がぼーっと熱い。


「熱中症か?」


帰り際、清彦が心配してくれてる。


あんまり覗き込まないで。今は、見られたくないんだ。


「大丈夫。ちゃんとお水飲んでる」


「ならいいけど」


たくさん遊んだし、精神的にもヘトヘト……


どうしてさっき『うん』って言っちゃったんだろう。


たぶんそんなに好きじゃないのに、やっていけるのかな。


田浦くんには『恥ずかしいから、まだ皆には言わないで』ってお願いした。


ニコッと口元だけ横に動かした、あの表情は、きっと田浦くんの作り笑い。


田浦くんは沈んだ声で『分かった』と言って、奥歯をぐっと噛んでいた。


その様子が見ていられなくて、思わず顔を背けてしまい、その後、話せないままバイバイしてしまった。


間違いなく傷つけてる。失礼な事をしている……自覚はあるのに修正ができない。




来たときと同じ、方面ごとに車2台に別れて解散をした。


田浦くんが違う車で、少しホッとしてしまった。


まーちゃんは同じ車の助手席に座って、清彦にぴったりくっついている。


すっかり仲良くなってしまって……


まーちゃんは頑張ってるんだな……


まーちゃんがおしゃべりしながら清彦に触る度に、私は小さく息が止まる。


清彦はそんなにべたべたされて嫌じゃないのかな?


もしかして……誰とでもこんな感じなのかな……いや……私とはそうじゃないよね。


余計なお世話かも知れないけど、後で、清彦に言ってみよう。


『気を持たせてるみたいに見えるよ』って。


思ってから頭を振った。


私が言えた義理じゃない。


見なければいいのに、前の二人が気になって目が離せなかった。




清彦を紹介して欲しいと言ってた香保里ちゃんは、今は林くんがお気に入りらしい。


林くんは私の隣で微笑みながら携帯をいじっている。


きっと香保里ちゃんと連絡とってるんだ。


「亜子さん、今日、楽しかったすか?」


「うん。疲れたけど……ほら、君たちみたいに体力勝負な仕事してないから、実はもう限界なんだ」


「お化粧品売り場で働いてるんですよね?体力って言うか、忍耐勝負なんじゃないですか?」


「面白いこと言うね。そんな我慢してるみたいに見える?」


「はい。ニコニコと長時間立ってるなんて、俺には拷問っす。あ、別にディスってるわけじゃなくて……向かないなってだけで……」


「いいよ。言いたいこと分かるから」


ああ。気だるい。


瞼が重たくなって、私は深い穴に落ちてくみたいな感覚に引きずり込まれていく。


運転してる清彦をバックミラーで見たら目が合った。


どうしよう、清彦……私、どうしたらいい……?




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