カージャック
本線から強制的に曲げられた私たちの機関車は、ガタガタと激しく車体を揺らしながら、暗闇の奥へと続く側線へと突入していく。
行く手にあるのは、冷酷な鉄の車止め。
「メアリー! ブレーキよ、早く!」
エレーヌが叫び声を上げた。
「分かっているわ、エレーヌ! みんな、何かに掴まりなさい!」
メアリーが声を限界まで張り上げ、全力でブレーキレバーを引いた。
天才仕上工である彼女の細い腕が、機械の凄まじい反発力に耐えるようにきしむ。
信じられるのは自分の技術だけ――その徹底した現実主義が、今、この暴走する怪物をねじ伏せようとしていた。
鼓膜を突き刺すような摩擦音が響き、運転台の中に猛烈な火花と白煙が吹き込んでくる。
凄まじい減速Gの衝撃で、私はオコジョみたいにすばしっこく運転台の鉄枠にへばりついた。
アニーは大柄な体躯をグッと低くして、重たい金貨の袋を抱えたまま、微動だにせずその場に根を張っている。
4人の中で最も肝が据わっている彼女は、激突寸前のこの極限状態でも、冷徹な目で前方を見据えたままだ。
車止めの手前わずか数フィートのところで、機関車は激しい衝撃とともに完全に停止した。
「ハァ、ハァ……! 止まった……全員無事ね!?」
メアリーが乱れた髪をかき上げながら全員の無事を確認する。
「大丈夫だよ、メアリー! あはは、心臓が口から飛び出るかと思った! 最高のスリルじゃん!」
私が大喜びで突っ込みを入れると、アニーが冷たく鼻を鳴らした。
「喜んでいる場合じゃないわ、ロバータ。ここは完全に行き止まり。警察の電信連携を甘く見すぎていたわね。すぐに追っ手がここを包囲するわ」
アニーの言う通り、側線の周囲は深い霧と雨に包まれた田舎道。
駅の方からは、早くも私たちの暴走を嗅ぎつけた警察官たちの怒号と、馬の蹄の音が近づいてきている。
「カバンを抱えて飛び降りるわよ! ここにいたら袋のネズミだわ!」
メアリーの指示で、私たちは金貨の袋と、あの呪われた黒い蝋引きのケースを抱え、運転台から泥まみれの地面へと飛び降りた。
激しい雨が容赦なく体温を奪っていく。線路脇のぬかるんだ田舎道を走る私たちの足は重い。
「チッ、このまま徒歩で逃げ切れるわけがないわ。国家の犬どもに囲まれて蜂の巣にされるのがオチよ!」
エレーヌが悔しそうに毒舌を吐く。
その時、私の驚異的な視力が、霧の向こうに奇妙な灯りを見つけた。
それは、田舎道の脇にぽつんと停まっている、大きな鉄の箱のような影だった。
「ねえ、みんな見て! あそこ、何かあるよ!」
私が指さした先。
それは、ヘッドライトの鈍い光を放ちながら、ブルブルと不気味な重低音を響かせて暖気している、最新型の高級自動車だった。
車体のあちこちには、ヴィッカース社の重役が使う、あの忌々しい紋章が輝いている。
「あれは……ヴィッカース社の重役が乗る最新の車よ。お抱えの運転手が、旦那様を待つためにエンジンをかけたままにしているんだわ!」
「よし、今度はあれをカージャックしよう!」
私はリボルバーを握り直し、ノウサギのようにすばしっこく、最新の自動車へと駆け出した。
「おい、何だお前たちは! 旦那様の車に近づくな!」
立派な制服を着た運転手のおじさんが、霧の中から突然現れた私たちを見て目を剥いた。
私はキツネみたいにすばしっこく運転席のステップへ飛び上がると、運転手の鼻先にリボルバーの銃口を突きつけてやった。
冷たい銃身に触れて、おじさんの顔が一瞬で真っ青になる。
アドレナリンが最高潮に達して、私の口元はニヤニヤと歪んじゃう。
「ひ、ひえっ……!」
「そこをどきなさい。この車は、搾取に対する賠償金として没収するわ!」
エレーヌが情熱的な叫び声を上げながら、おじさんの胸ぐらを掴んで車外の泥水へと引きずり下ろした。
毒舌交じりの乱暴なレジスタンス精神、本当に最高!
「ロバータ、エレーヌ、早く乗り込んで!」
メアリーがまともな女性らしい声を切迫させながら、助手席へと滑り込む。
アニーは重たい金貨の袋を後部座席へ豪快に放り込み、自身もドスリと大柄な体躯を沈み込ませた。
「メアリー、不慣れな機械に戸惑っている暇はないわ。奴らが来るわよ」
アニーが沈着冷静に背後を指差す。霧の向こうから、馬の蹄の音と「カージャックだ!」「逃がすな!」という警察官たちの怒号がいよいよ間近に迫っていた。
「分かっているわ! ギア、クランク、油圧……構造は瞬時に理解したわ。動かすわよ!」
さすがは天才仕上工。メアリーは初めて触るはずの最新型自動車のレバーとペダルを、驚異的な器用さで操り始めた。
ガガガッ! と激しい金属音が響き、車体が大きく震える。
煙と凄まじい爆音を上げて、最新型の高級自動車がぬかるんだ田舎道を猛然と発進した。
「うわああ! 動いた動いた! すごいじゃん、メアリー!」
私が大はしゃぎする中、車の速度はぐんぐんと上がっていく。
けれど、背後からは執念深い地元警察の乗馬警官たちが、馬を全力で走らせて追いかけてくるのが見えた。
「しつこい犬どもね! これでも喰らいなさい!」
エレーヌが感情を爆発させ、ポケットから取り出した最後の簡易爆裂弾を後方へ投げつけた。
背後で派手な爆発が起き、追ってくる馬たちが驚いて狂ったようにいななき、現場は一瞬でパニックに陥った。
「あはははは! お巡りさん、馬のスピードじゃこの最新テクノロジーには追いつけないよ!」
私は車の荷台に立ち上がり、恐怖するどころか大喜びで、揺れる車体の上からリボルバーをぶっ放した。
狙うは警察の馬車の車輪、そして道の脇に立つ電信柱!
私の正確無比な狙撃が電信柱のガイシを打ち砕き、警察の電信連携を物理的に遮断してやる。
追跡の馬車がぬかるみに車輪をとられて派手に横転するのが見えて、笑いが止まらない。
「ロバータ、危ないから座りなさい! エレーヌ、アクセルを緩めないで、このままカーンフォース駅を目指すわよ!」
メアリーが不慣れなハンドルを必死に切りながら、的確な指示を飛ばす。
徹底した現実主義者の彼女のナビゲートのおかげで、私たちは霧深いイングランド北西部の田舎道を、時代を超越した異色のカーステイスで爆走していった。
ただの現金強盗だったはずの少女四人が、今や国家機密の図面を抱え、盗んだ高級車で大英帝国の包囲網を嘲笑うように駆け抜けていく。
風と雨が顔を叩くけれど、胸の奥の多幸感は膨らむばかり。私たちは絶対に捕まらない。




