Echo
「……なんか、増えてない?」
配信開始直後。
ヒカリが画面を見て、少しだけ声を上げた。
視聴者数――112。
《きた》
《昨日の歌の人》
《フォローした》
「え、昨日より普通に多いんだけど」
「……うん、すごいね」
ユイも静かにうなずく。
昨日の配信が、思った以上に広がっていた。
切り抜き。
短い動画。
コメント。
全部が少しずつ重なって、今の数字になっている。
「やば、ちょっと怖い」
ヒカリが笑う。
「嬉しいけど、なんかこう……急に来るとびっくりするね」
《わかる》
《でももっと伸びるよ》
《歌ほんと良かった》
「ありがとー!」
ヒカリが軽く手を振る。
その動きを見て。
コハクが、ほんの少し遅れて同じように前足を上げる。
《コハクもいる》
《今日も真似してる》
《癒し枠》
「ねえユイ、どうする?」
「……なにが?」
「今日も歌いく?」
少しだけ間。
「……いいと思う」
ユイはそう言って、視線を少し落とした。
昨日の歌。
あれが、確実に流れを変えた。
でも。
(……ヒカリばっかりだ)
ほんの一瞬だけ、そんな考えがよぎる。
すぐに振り払う。
「じゃあ、軽く雑談してからにしよっか!」
ヒカリは、何も気づいていない。
いつも通り、明るく話し始める。
「なんかさ、コメントで“歌もっとやって”って多くない?」
「……多いね」
「そんなに需要あると思ってなかった」
「……あると思う」
ユイは、正直に答える。
ヒカリの歌は、本当にすごい。
それは分かっている。
「じゃあさ、ちゃんと歌枠増やす?」
「……いいと思う」
その言葉を聞いて。
ヒカリが、少しだけ真剣な顔になる。
「……でもさ」
小さく、言う。
「それだけって、ちょっと違う気がするんだよね」
「違う?」
「うん」
ヒカリは、コハクを見る。
そして、ユイを見る。
「うちはさ、全部込みでやりたい」
「歌も、雑談も、この子も」
「あと――ユイも」
少しだけ照れくさそうに笑う。
「一人じゃやりたくないし」
その言葉に。
ユイは、一瞬だけ言葉を失った。
「……うん」
小さく、返す。
《いいね》
《そのスタイル好き》
《ユニット感ある》
コメントが、優しく流れる。
視聴者数――128。
ゆっくりと、でも確実に増えている。
「じゃあ、そろそろ歌いくよー!」
ヒカリが、少しだけ深呼吸する。
その横で。
コハクが、同じタイミングでわずかに息を動かした。
「……」
ユイは、それに気づく。
ほんの一瞬だけ。
でも、確実に。
“合わせている”というより――
“最初から同じリズムだった”みたいに。
歌が始まる。
コメントが止まる。
でも。
ユイの中の違和感だけは。
少しずつ、積み重なっていた。




