Stage
「ということで!」
ヒカリがぱんっと手を叩く。
「今日はちゃんと歌枠やりまーす!」
視聴者数――78。
《きた》
《待ってた》
《昨日のやつ良かった》
「え、なんかちょっと増えてない?」
ヒカリが画面を覗き込む。
「……増えてるね」
ユイも小さくうなずく。
昨日の歌。
あれが、少しだけ広がっている。
「やば、緊張してきた」
そう言いながらも、ヒカリは楽しそうに笑っていた。
「まあでもさ」
少しだけ声のトーンを落とす。
「いつも通りでいいよね」
その言葉に、ユイは少しだけ安心したように息をついた。
《リラックスでいこ》
《いつも通りでいい》
《楽しみ》
「じゃあ、1曲目いきます!」
ヒカリが軽く目を閉じる。
一瞬だけ。
静かになる。
そして――
歌い出した。
昨日よりも、少しだけ長く。
しっかりと。
声が、広がる。
電脳世界の空間に溶けるように。
コメントが止まる。
誰も打たない。
ただ、聞いている。
ユイも、言葉を失っていた。
いつも一緒にいるのに。
こうして改めて聞くと――
どこか遠い存在みたいに感じる。
歌い終わる。
一瞬の静寂。
そして。
《えぐ》
《うま》
《これ埋もれてるのおかしい》
《もっと伸びろ》
コメントが一気に流れ出す。
視聴者数――96。
「え、ちょっと待って」
ヒカリが笑いながら言う。
「100いきそうじゃない?」
「……いくかも」
ユイも、少しだけ笑う。
「やば、記念じゃん」
「まだいってないよ」
「いくって絶対」
ヒカリはそう言って、次の曲を準備する。
コハクは、その足元に座っていた。
じっと、ヒカリを見上げている。
2曲目。
さっきよりも、少しだけ強い歌。
感情が、乗る。
ヒカリはただ楽しそうに歌っているだけなのに。
なぜか、胸に残る。
《好き》
《声いいな》
《これフォローするわ》
視聴者数――103。
「……あ」
ヒカリが、少しだけ目を見開く。
「いった」
「いったね」
ユイが、小さく言う。
同接100。
それは、小さな数字かもしれない。
でも、今までの二人にとっては。
初めての“壁越え”だった。
「やば……」
ヒカリが、少しだけ笑う。
「なんか、実感ない」
《おめ》
《100人きた》
《古参です》
コメントが優しく流れる。
ユイは、その光景を見ていた。
そして、少しだけ思う。
このまま。
このまま、うまくいけばいいのに。
「よし!」
ヒカリが顔を上げる。
「もっとやるよ!」
その声は、変わらない。
どこまでも明るくて。
少しだけ――無理しているようにも見えた。
コハクは、その声を聞いて。
ほんの少しだけ、口を開いた。
音にはならない。
でも。
まるで一緒に歌っているみたいに、見えた。




